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第71話 目覚め

○○優樹菜said○○


島を出てから1時間程、一行はようやく島の反対側へとたどり着いた。


「あれが…」


"それ"を見つけ優樹菜達は愕然とした。

何と言うべきか、ただそこに闇が広がっていた。周りの光すらも飲み込みそうな程の深い闇が。だが一番の異常は"それ"に近づくに連れて心がどんどん絶望に染まって行く事だろう。何もしていない、ただ"それ"に近づくだけで今までの悲しみや恐怖が鮮明に蘇ってくる。

(だけど何でだろ…哀しい、何で?)


「…きな!優樹菜!」

「っえ!?」

「え?じゃないわよ、急に固まらないで。びっくりするじゃない」

「あ、ごめん…」


どうやら少し固まっていたようで優衣ちゃんが心配そうに顔を覗き込む。その時に私は自分の腕が震えている事に気付いた。でもその原因は私じゃなくて私の腕を掴んでいる彼女達だった。

アルンちゃんとクロちゃんだ。2人は青ざめた顔で"それ"を見つめている。その奥では似た表情のティターニャさんも居る。


「2人共、大丈夫?」

「…ユキナ、あれ」

「…やっぱり、そうなんだね」


ここに来るまでに私達はティターニャさんから"ある可能性"を聞かされていた。それは真琴君が堕天…魔族化している可能性だ。


「旦那様は恐らく堕天しています」

「どうして、そう断言出来るんですか?」

「…旦那様の魔力は量、質共に最高級と言っても差し支えない程の物です。それが手に入れば敵にとってこれ程嬉しい事は無いでしょう」

「いやでもそんな簡単に…」

「無理矢理堕天させる方法があるのでそれを使う可能性もあります。ただもしかするとその上の…」

「え?」

「いえ、これはさすがに無いでしょう。とにかく旦那様が堕天しているのはほぼ確実です。なのでそのつもりで覚悟してください」

「…正気に戻せるんですよね?」

「もちろんです。私達がいれば大丈夫です」


そう言ってティターニャさんは微笑んだ。

ただ実際に真琴君が堕天しているのを目にするのは少し辛い。待っててね、すぐに戻して…


「何て…何て事を」

「え?」


その時に風に紛れて微かにティターニャさんの呟きが聞こえた。しかしそれを問い質すよりも早くティターニャさんが指示を出す。


「バルト、あの小島に着陸して下さい。その後にあなたは全力でここを離れて私達の島の防衛にあたりなさい。指揮は…エク、あなたに任せます」

「…!」

「しかし!それではここで」

「黙りなさい!これは命令です!」


ティターニャの言葉にエクは若干片眉を上げ、バルトは抗議しようとするがティターニャの一喝で黙る。どこか焦った様子だ。

状況に付いていけず混乱する優樹菜達を置いてバルトは近くの比較的大きな島に着陸、未練がましそうにこちらを見ながらもエクを乗せて去っていった。


「あの、ティターニャさん。これは…」

「ユキナさん、申し訳ありませんが敵が来ています」

「「「!」」」


いくら混乱していようと私達の目的は真琴君の救出だ。つまりは敵地のど真ん中に行くと言う事。改めてその事を思い出し、瞬時に武器を構える。


「…来た、でもこの数」


魔法に引っかかったのか優衣ちゃんが呟くと同時に私達の前に複数の人影が現れた。

そして私は…いや、私達はありえない人を見た。


「…なんで、おじさんとおばさんが」

「その声…まさか、優樹菜ちゃんか?」


死んだはずの大介さん、梨花さん、そして裏切ったはずの三咲先生だった。それにおじさんは誰かを背負っているようだ。彼らも優樹菜達を見て固まる。


「なら後ろに居るのは優衣ちゃんと悠一君か」

「あなた!そんな事よりも」


何故か切羽詰まったように梨花が叱るのを呆然と見ていた優樹菜達だが、次の瞬間に膨大な魔力を感じて本能的に飛び去る。すると数瞬後に"それ"が突っ込んできた。凄まじい衝撃波と共にクレーターができて、辺りに砂埃が舞う。

そしてその中心には


「…真琴君」「真琴、なの?」「お前…」「旦那様…」「マコト、何で」「…」


ずっと会いたいと思っていた、幼なじみの変わり果てた姿があった。

(何で…黒いの?)

真琴は霊装した状態だったのだが、かつて純白のように白かったそれは今では漆黒に染まっていて、時々ラグのように姿がブレる。辺りにも濃密な黒い魔力が漂っており、そこに居るだけで恐怖で心が折られそうだ。

(…あの傷は、まさか!)

その時に優樹菜はある事に気付く。それは真琴の身体についてだ。彼の上半身は服が破けて一部が晒されているのだがそこだけでもかなりの傷跡が確認出来た。見れば顔もかなりやつれて、疲労の色が濃い。そんな真琴を見兼ねて優樹菜は思わず1歩踏み出す。

その足音に反応した真琴が優樹菜を見た。


「…」「…っ!」


気付いたら押し倒されていた。そう感じる程に一瞬の出来事だった。気付けば真琴は優樹菜の上に跨り、右手で優樹菜の首を抑えていた。

偶然にも至近距離でお互いの顔を見つめる形になる。真琴の瞳は何も映さず、ただ絶望が広がっている。しかし優樹菜は直感的にその奥に真琴が居るのを感じた。


「ま、こと君」

「…」


苦しさを我慢して呼びかけるが反応は無い。それでも優樹菜は無理矢理にでも笑いながら続けた。


「だい、じょ、うぶだよ。…すぐに、助け、るから」

「っ…」


その言葉に反応したのか今まで空いてた左手が自分の右手を掴んだ。まるで一つの身体に二つの意思が宿っているようだ。そのまま真琴はふらふらを数歩下がる。優樹菜もすぐに立ち上がり駆け寄った。


「真琴君!」

「…き、な、何で」


そこで初めて本当の意味で真琴と優樹菜の視線が絡む。


「真琴君を、助けるために」

「だ…めだ、逃げ…ぅっ、あ、あぁあ!?」


息も絶え絶えに告げると頭を抱えてうずくまり、叫び出す。そんな真琴に優樹菜は駆け寄ろうとすが、


「真琴君!「おいおいおい、何してくれてんの!?」…ぐっ!?」

「優樹菜!!」

「…!」


どこかで聞いた声が聞こえたと思ったら吹き飛んでいた。遠くで優衣ちゃんの悲鳴が聞こえる。そして正面には…あいつが居た。背格好は変わっているがその雰囲気はそのままだ。


「はぁ…せっかくあと少しで魔神になるっていうのに邪魔すんなよ」

「ま、じん?」

「それは…本当なのですね?」


優樹菜が問い質すよりも早く横からティターニャさんが口を開いた。


「んぁ?ああ、なんだよ女王サマか。んなのあれ見れば分かるだろ?マコトが魔族程度で収まる訳が無い」

「何故…!」

「何故?魔神を殺すためだ」

「まさかあなたは」

「魔神となったマコトを殺し、俺がその力を貰い受ける、それが今までの計画の最終目標だ。あとはそれで魔族全員が別の世界に行く事で全てが完遂される」


この世界では自分よりも高位の存在を殺す事でその存在の力を手に入れる事が出来る。ペインはこれを利用し、魔神化したマコトを殺して魔神の力を手に入れようとしている。

しかしそれは真琴に好意を寄せる者達にとっては決して看過出来ない計画だ。いつの間にかペインの周りには悠一やティターニャ、梨花達が武器を構えて囲っている。ルナは三咲が離れた場所に避難させ、何故か大介は腕を組んで成り行きを見ている。


「どうした?たった一人の犠牲でこの世界から魔族が消える、素晴らしい事だ…ってマコトなら言うだろ?」


その一言で優樹菜の中で何かが切れた。


「黙れ…」

「あ?」

「黙れ!お前に何が分かる!?お前なんかに…絶対真琴君は渡さない!」

「よく言った!」「はぁ!」


優樹菜の叩きつけるような言葉と共に両サイドから悠一と今まで黙っていた大介が斬りかかる。


「はっ、言ってろ!」


しかしペインは苦しむ真琴を抱えてクレーターの中心まで下がる。そこに素早く梨花と優樹菜が魔法を打ち込む。


「邪魔」「ウザい」「なっ…!」


しかしそれは突然現れたアインとツヴァイに消される。何故かこれにペインが一番慌てる。


「何故お前らが…早く下がれ!」

「拒否」「不可能」

「…ちっ、死ぬんじゃねぇぞ」

「受諾」「了承」


下がるように言うがどの道この包囲網からの突破は不可能だろう。その事を察したペインは死ぬなと命令し、それをどこか嬉しそうに2人は了承した。

(何故彼女達は…いや、今は真琴君を!)

今までのペインからは想像出来ない出来事に瞬間固まるがそれ以上にその奥で未だうずくまる真琴を思い出して再び攻撃を再開する。


「悠一君!」「りゃぁ!」

「優衣さん!」「行きます!」

「優樹菜ちゃん!」「はい!」


悠一と大介が斬りかかり、弾かれた所を素早く優衣と戻った三咲がフォロー。そのスキに梨花と優樹菜が魔法で回復兼牽制と、以前に優樹菜達が行った陣形で攻める。

それらをいなしながらペインは語る。


「どの道もう遅い!真琴は堕ちた!」

「…それはどうでしょう?」

「…何?」


ペインのそれには上から返答があった。ティターニャだ。彼女は今まで上空で魔法を放つ準備をしていた。アルンとクロもそのバックアップとして左右に控えている。

魔法を構えながらティターニャは続ける。


「こちらにはアルンとクロが居ます。旦那様の両方の魔力を受け継いだ2人が」

「お前…まさか"入る"つもりか?」

「彼女達なら必ずやってくれます」

「はっ!とんだ夢物語だ、内側とはいえ魔神から真琴本人を連れて来れる訳が「出来るもん!」…あ?」


ペインの言葉に割って入ったのは、アルンだ。


「マコトは…マコトはアルンとクロが絶対に連れ戻すもん!お前なんかの好きにさせるか!」

「御託はいい、どの道お前らはここで死ぬ」


ティターニャの魔法に合わせてペインも上空に構える。優樹菜達もさせまいと攻撃するがアインとツヴァイに阻まれる。


「くらいなさい!」

「死ねぇ!」


そして2人が魔法を放つ……はずだった。




ゾクッ!




背筋が凍り、冷汗が流れ、鳥肌が立った。

ペインとティターニャの魔法が霧散する。否、魔力が吸い取られて魔法自体が消えたのだ。2人だけで無く、魔法を使っていた優樹菜達も同様に魔力を吸い取られて行使出来なくなる。しかし全員その事に驚く暇も無く持ちうる力の全てを使って"それ"から離れ、クレーターの外まで逃げた。


全員の視線を集めながら"それ"は…工藤真琴は翼を広げた。未だ苦しげに頭を抱えながら大きく翼を広げる。それだけでここに居る全員が悟った。"それ"には絶対に勝てない、自分達の常識の外に居る存在だ、と。

(違う…あれは真琴君じゃ無い!もっと悪い…何か)


"それ"は工藤真琴であって全員の知っている工藤真琴では無い


彼の瞳は何も映さず何も見ていない。



「…こんな世界…消えてしまえ」



そして私達を死の魔力が襲った

ようやく優樹菜達が登場しました!しばらくは優樹菜達視点でやります。なので視点がクルクル変わるかもしれないですがお願いします


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