第70話 炎の向こう側
「そもそも、だ。お前らは根本的に2つ、間違えている」
僕達が警戒するなかでペインの話は続く。
「まず一つ、俺は別にこの世界なんてどうでもいい。だから別に支配しようなんて思わない」
「…?」
「だってそうだろ?何のために俺がプロジェクトを立ち上げたと思ってる?」
言われてみればそうだ。でもならペインは…
(まさか)
そこまで整理してある可能性が真琴の頭をよぎった。
「真琴は気付いたようだな。俺の目的は他の星の支配、そして移住だ」
「…!?」
「そしてここでお前らの勘違い2つ目。お前らは魔族と魔物は悪い奴らだと思ってるがそれは違う。俺達からしたら魔物が悪で魔族は…家族だ」
「…どういう事だ?」
「そもそもお前らは俺達の事を何一つ知らないだろ。お前ら魔物は悪って言ってるが俺達の最大の悩みにして今回の計画の理由もそれにある」
「…」
分からない、ペインは一体何が言いたい?
しかしこの話は絶対に聞かなければいけない。どこか予感めいた物を感じながら集中する。
「この世界の魔力ってのは常に廻り続ける物だ。人族や亜人どもが使う所謂白い魔力は精霊や世界樹によって管理されている。しかし俺達の使う黒い魔力はそんな管理する物がない。するとどうなるか、上手く廻れなかった魔力が集まり溜まる」
「まさか…」
「それが魔物、そう呼ばれる物達の始まりだ。しかも魔族も魔力を溜めていると自然と魔物を生み出してしまう。多いと魔族一人で1日に100体の魔物が出現する」
「そんなに…」
「これがこの世界の仕組みってやつらしい」
そう言ったペインはどこか皮肉そうな顔だった。
「俺達は魔物では無く魔族だ。魔族の誕生には実は二通りある。一つは自分、周囲、全てに絶望し堕ちる事。そしてもう一つは突発的に目覚める事だ」
「突発的?」
「これは俺も分からなかった。ただ何の因果かある日、突然、目覚めるんだよ、魔族が。自分でも分からない、ただ気付いたら魔族になっているんだよ」
「そんな事が…」
「あるんだよ、この世界には。実際に俺自身がそうだった。ある日突然朝起きたら魔族になっていた。その瞬間から昨日までの友人は敵になり、親に見棄てられた。近所の人達は俺に石を投げ、スキも与えず俺を殺そうとしたんだ。その時に俺は思ったよ。俺が何をした?何がダメなんだ?何がおかしい?」
「…」
実際になった訳では無いがそれは想像を絶する事だっただろう。昨日までの友人、両親、親戚に突然殺されそうになるなんて。
「そして気付いた、間違っているのはこの世界そのものだ。だから俺は魔族を集めて魔力の無い世界に移住する事に決めた。そして今に至るわけだ」
そしてペインの話が終わる。
つまり彼は魔族がいるから魔物が出てくるなら魔族全員で魔力の無い世界に移ろうとしたのだ。だからこそ地球を探していた。
その理屈は分かる。分かるが…
「お前は…地球に今いる人達はどうするつもりだ?」
「受け入れればそのまま、拒めば殺すだけだ」
「!」
やっぱりそうなるんだ。何となく話の流れとペインの性格から想像はついたことだ。
しかし真琴が次の言葉をいう前にペインが口を開く。
「何だ?殺人は悪だとでも言うのか?」
いつの間にか目の前に立っているペイン。後方では母さん達がフードの二人と対峙していた。真琴の後ろではルナが怯えたように震えている。
しかしそれさえも面白そうに見ているペインに感情が暴走を始めるのを頭の隅で感じながら質問を重ねた。
「…何故、殺す必要がある」
「はっ、この期に及んで呆れた奴だ。お前も分かってんだろ?俺とお前は同じなんだよ」
「っ!お前と一緒にするな!人殺し!」
「だから同じって言ってんだ。人殺し」
「だから違…人殺し?」
「ああ、人殺しだ。俺もお前もな。サティバを初め20人、お前が殺した」
「ち、違う…あれは」
「守る為か?なんとも素敵な免罪符な事だ。それがあれば殺人、強姦、強盗、全ての犯罪がお綺麗な美談に早変わりだ。だがそれになんの違いがある?さっきも言ったが魔族だって人だ。それをお前は殺した、殺したんだ。俺達の家族をな」
「…僕は…」
気持ち悪い…頭がぐるぐるする…吐き気が凄い……
「真琴聞くな!」「真琴しっかりして!」「真琴君!」
父さん達の声でさえうるさい雑音に感じる。
「何を言おうと殺人が肯定される事は決して無い。周りが何と言おうとお前がそれを知ってる。どうせもう殺したんだ。あと何人殺そうが同じだろ?お前の手は既に血塗れ、ドロドロに汚れているんだよ」
「…」
「遠藤優樹菜…だったか?」
「!?」
「お前は好きなんだろ?だったらその血塗れの手で握ってやれよ、その手を。頭撫でてやれよ、その手で。この先お前は一生消えない十字架を背負い続ける。それを受け入れた上で生きていく覚悟がお前にあるのか?」
「………」
「もう一度言う、お前は、既に、人殺しだ」
その一言で真琴は力が抜けたように俯いた。大介達が何を言ってももう聞こえてないようだ。そんな様子の真琴をペインは呆れたように見る。
「結局お前はあの時から何も変わってない。ずっとそこで震えてろ」
「や、止めろ!」
そう言うとペインは拳を固めた。しかしそこに一人の少女が立ち塞がる、ルナだ。彼女は未だ恐怖に震えながらもここだけは通すまいとペインを睨みつける。
「…へぇ、そうかい。アイン、ツヴァイ準備は整った"始めるぞ"」
「「はっ」」
「何を!ふぐっ!?」「ひゃっ!」「きゃっ」
ペインの言葉を受けて今まで黙っていたフードの二人が瞬く間に大介達3人を無力化した。真琴の事で油断していた彼らはあっという間に地面に叩きつけられ、鎖を巻かれて動けなくなってしまう。
そんな状況でも動かない真琴をニヤニヤとペインは笑って見る。そして目の前のルナに声をかける。
「なぁ、ガキそこ退け」
その一言だけでルナは本能的に死を予感する。ここで退かないと間違いなく自分は死ぬ、もはや確信に近い何かを感じる。
それでも
「ぃ、い、やで…です!」
何度も詰まりながらもはっきりと拒絶する。自分がここを退けば間違いなく魔王は真琴へ向かう。それだけは絶対にダメだ。あの優しい真琴がこれ以上苦しむのを見たくない。ただそれだけがルナを動かした。
「へぇ、そうか」「がはっ!?」
しかしペインはそんなルナを首を掴むと強引に引っ張り、真琴を蹴り飛ばした。丁度三咲先生が出したストーブに突っ込んだ。ストーブが壊れ、辺りに炎が飛び散る。
「あ…ぐ…」「ルナっ!」
そのままペインはルナを締め上げる。必死に抵抗するが所詮は大人と子供、無意味に等しい。そして蹴られた衝撃で我に返った真琴が駆け寄ろうとする。
「お前はそこで黙ってろ」
しかしそこでペインが指を鳴らす。すると今まで存在すら忘れかけていた鎖が一斉に真琴に巻き付いた。
「なっ!?」
「…ぁ…ぅ」
「ルナ!…くそ!」
全く解ける気配の無い鎖に痺れを切らして強引に魔力で弾こうとする。
しかし
「無駄だ」
「…ぅ、な」
魔力を爆発させると一気に締りが強くなる。
「その鎖は特別でな。魔力を吸い取る鉱石を使ってる。生半可な魔力じゃ余計に自分を苦しめるだけだぜ?」
「ぐ、がぁ…」
その言葉通りにどんどん鎖に締めつけられる。
徐々に燃え広がるストーブの炎が部屋の至る所で燃えている。
ルナ自身も限界が近い。顔色はもはや蒼白で抵抗する腕も先ほどより力が無い。そんなルナを見て必死に鎖を解こうとるすが余計に絞まるだけだ。それでも解こうともがき続ける。
しかし
「…ぃ、さん」
「ルナ!」
「…、…」
ごめん、なさい
それが最後だった。
「……ぇ」
目の前の少女の手足がダラリと下がり、力が抜けているのが分かった。
それを見たペインは手を離し、同時に真琴の鎖も解いて数歩下がる。辺りを奇妙な沈黙が支配した。
痺れて言う事を聞かない体を無理矢理動かしルナの元に行き、その小柄な身体を抱き起こす。
「…ルナ?」
呼びかけるが全く反応が無い。少し苦しそうに歪んだ顔、赤い跡がついた首、動かない手足。
それらの全てを真琴は知っていた。あの日の母さんと同じだ。
「……なぁ、ルナ」
結局僕は何も変わってなかった
「…なぁ」
あの日から何も変わってない
「……」
この世界で力を得て、強くなったと思い上がっていただけで何も変わってない
「……」
あの日の、炎の向こう側で見ていた頃から何も
「…」
『何てザマだい"僕"?その力に胡座をかいて思い上がった結果がこれなんて』
…
『それでも俺を拒むのか?この世界に何の意味がある?』
……
『そこまでして"僕"が守ろうした物はこんな簡単に殺される。そんな世界なんだ』
…クソッタレだな
『あぁ、そうだ』
『だから』
なら
『「こんなクソッタレな世界、消えてしまえ」』
その瞬間、真琴の意識は暗転し、ペイン達は突如巻き起こった爆発に巻きこまれた。
(ごめん、ルナ。ごめん、みんな。ごめん…優樹菜)
崩落していく建物、そこに差し込む赤い夕日
それを背に絶望に染まった哀しき悪魔がこの世に舞い降りた
いかがでしたか?
年内にこの山場を終えるつもりでいるのであと3日で頑張って投稿するつもりです。
感想、評価などお待ちしておりますm(__)m




