第65話 堕天
ベッドの上で3人が寝ていた。どうやら母親が真ん中の子供に読み聞かせをしているようだ。それを父親が反対側から眺めている。
「…そうして勇者は悪い竜を魔法でこらしめて少女を救いましたとさ。おしまい」
「うわぁぁあ!凄い凄い!勇者かっこいい!」
「えぇ、そうね」
「僕も勇者みたいに魔法使いたいなぁ。あ、お母さんは魔法使えるの?」
「え?私!?あ、えーと…使えないなぁ」
「えー、そうなの?あ、ならお父さんは?」
「お、俺か?うーん、どうだろうなぁ」
「え、どっちなの!?ねぇ教えてよ!お父さん」
「ははは、実はな父さんな…」
「おい!起きろ!!」
バシャッ!ガッ!
「っ…」
(……夢、か)
バケツ満杯の水と拳1発、世にも素敵なモーニングコールで真琴は目を覚ました。霞む視界を強引に上げると見たくも無い司祭の顔が出てくる。 かなりイラついているようだ。カルシウム足りてる?
「ケッ!捕虜の分際で仮眠とは…随分といいご身分のようだな!」
「ええ…おかげさまで」
「チッ!おい!さっさと言え!あいつらを何処に飛ばした!?」
「だから知らないって言ってるでしょ」
「嘘をつくな!!早く吐け!」
「知らないって」
優樹菜達と別れてからもう…どれだけ経ったかな?多分2日か3日ぐらい。その間ずっとこれだ、もう眠たい。
少しでも寝ようとするとバケツの水と拳が飛んで来るので寝れない。それにご飯もくれないのでかなり空腹だ。いい加減水にも飽きた。
(てかさっきからずっとこれだ。いい加減諦めてくれよ、知らないって言ってるでしょ)
兵士や司祭などがずっと代わる代わる場所を吐けと言ってくる。しかし残念な事に僕は知らない。あ、ムチ出てきた。
それから半日はずっとムチで叩かれながら吐けと言われた。
「はぁ、はぁ、どうだ、早く場所を言え」
「…痛いですね…てか知らないって言ってるでしょ」
「この…「もういいだろ」…こ、これはこれは」
「…?」
その時唐突に聞こえた声に顔を上げると仮面をつけた男…ペインが立っていた。
「吐かないのならそれで良い。次の段階に移る」
「次の段階…と言いますと、まさか」
「海上監獄に移送させろ」
「は、はは!」
(海上…監獄?)
何か話してるようだけど残念な事に眠気が勝ち、僕はそのまま眠った。
そして目覚めると景色は…大して変わって無かった。
(強いて挙げるなら潮の匂いが…あぁ、海上ね)
どうやら寝ている間に海上監獄とやらに移されたようだ。名前からして恐らくは大陸の周りの小島の一つだろう。
(アルン!クロ!…ダメか)
「精霊なら無駄だ。この島全体に精霊が入れない結界が張ってある。ついでに白の魔力も入れない仕掛けだ」
真琴がダメ元で呼びかけていると、今入れられている部屋(というより牢屋)の鉄格子から男が顔を覗かせて無駄だと言った。ペインだ。
「おう、起きてるな」
「…?」
「久しぶりだな。気分はどうだ?」
「…最悪だね」
「はっ、口だけは達者な事だ。そのアクセサリーも中々似合ってるぜ?」
その言葉に無言で自分の腕を見る。自分の両腕にはマンガで見るような金属製の手錠。そしてそれから壁まで鎖で繋がっている。足も同じ様に繋がれており動けても精々半径3メートルが限界だ。
「まぁいい、今日は土産を持ってきてやったよ」
「…土産?」
「ほれ」ドサッ
「…これは?」
投げられたのは大きな麻袋だ。丁度子供一人が入れるぐらいか。口は閉じられており中身は分からない。
「まぁ秘密だ、俺が帰った後にでも開けてみろ。じゃあな」
「待て、その前に色々聞きたい」
「あん?」
帰りかけていたペインが気だるげに振り返る。
「なぜ僕をここに連れて来た?殺すならすぐにでも出来るだろ?」
「あぁ、なるほどな。何だ、以外と進んで無いのか」
「…は?」
突然質問と関係無い事を口走ったペインに唖然としていると、いつの間にか目の前に居きていた。
「とぼけるなよ。今もずっと頭に響いてんだろ?"殺せ"、"壊せ"って」
「…」
「黙りか、まぁいい。どうやら自覚はあるみたいだしな」
何故こいつが知っている?確かにペインの言う通り最近ずっと頭に響いている。自分でも分からないぐらいに破壊衝動に駆られる時もあるぐらいだ。
「俺達はそれを"堕天"って呼んでいる。ほとんどの魔族がこの状態だ」
「…!」
「気付いたか?俺達は真琴、お前を魔族にしようとしている。それだけ桁外れな魔力量だ、さぞかし素晴らしい戦力になるだろう。そう見越してな」
「…でもそんなの話してどうする?僕に知られたら意味が無いだろ?」
「いや、ある。魔族は凄いぞ、生身では到底届かない力が手に入るからな」
「…?」
ますます目の前のペインが分からない。こんな話しても魔族側にはメリットが無い。あと僕自身に魔族になるメリットが無い。力なんて欲していない。そもそも僕が魔族になるまでどれだけ時間をかける気なんだ?その間ずっとこうするのか?
それに唯一の弱点とも言える優樹菜達もこうして見失っているなら
「自分自身が耐えればそれでいいと思ってるのか?」
「…だからどうした?」
魔法でも使ったのか思考を読まれた。しかし事実そうなので憮然と返す。
「いや。しかしお前は一つ勘違いしてる」
「勘違い?」
「お前はこう思ってるな?自分だけならどれだけでも耐えられるって」
「…だったら?」
「自分の事なのに気付いて無いのか、なら教えてやるよ。お前はもうすでに7割程魔族に堕ちてるよ」
「…は?何を言ってる?実際僕はまだこうして」
ペインの言った事が理解出来ず、反論しようとするとペインはため息を吐いて真琴の眼前にしゃがむ。
そしておもむろに仮面を外した。
(…っ!)
当然と言うべきかそこには見覚えのある、父の顔があった。分かっていたはずだがそれでも動揺を隠せない。
「ほらな」
「な、にが」
「怒り、悲しみ、疑問、あとは…恐怖。お前分かってるか?自分が凄く感情的に動揺してるって。特にこの世界に来てから」
「…感情的?」
「ああ、お前は初めの頃に比べてかなり感情的になってきている。つまり自分の感情をコントロール出来なくなってきているんだ。かつてのお前ならもっと抑えてたはずだ」
「っ!…それが、どうしたって言うんだ」
「分からないか?いや認めたくないのか…まぁなら教えてやる。自分の感情に任せて行動、攻撃的な思考、どちらも基本的な魔族の特徴だよ」
「ち、違う!僕は」
「はっ、そんななりでまだ言うか。まぁいい。それにしてもそんな状態でもまだ自分だけ犠牲になればいいと思うか?」
「だからどうした?」
「いや、別に。ただ真琴らしいと思っただけだ」
そう言って軽く笑う。その仕草はまるで、本当の、父さんみたいで
(っ!!その顔で!その声で!)
「しゃべるな!!!」
「うお!?」
突如、真琴を中心に魔力が吹き荒れた。勢いで鎖がガチャガチャ鳴り、麻袋が転がる。そしてペイン自身間近でモロに魔力の暴風を浴びてよろめいた。
(…?なんだ?)
その時、ほんの一瞬だけだがペインの姿がぶれた。まるで二人いるように見えたがすぐに元に戻った。
「何だ何だ?ちゃんと堕ちかけてるじゃねぇか」
「堕ちる?」
「その魔力が証拠だよ。感情に任せて吹き荒れたあの魔力がな」
「…ぁ」
言われて初めてその事を思い出す。そして自分が魔族になりかけている事を改めて突きつけられ、呆然とする真琴を満足気に見てからペインは立ち上がった。
「それだけ分かれば充分だ。また来る」
「ま、待て!最後に一つ、お前は一体何が目的なんだ?」
それはずっと気になっていた事。ずっと戦ってきたがイマイチ、ペインの目的が分からない。
「ふむ…なぁ、真琴。お前さ、何で戦ってる?」
「は?それは…」
言われて少し考える。僕が戦う目的は?
そんなの簡単だ。
「守る為だ。僕にとっての大切なもの全てを」
「あぁ、そうだな」
「どうした?」
「いや…ただ同じなんだな」
「…何?」
てっきり鼻で笑われるかと思ったら何処か羨望的な顔でそう呟く。真琴は虚を突かれたように固まった。
「さっきの質問の答えだな。それは…そういう事だよ」
「…は?何を」
「じゃあな」
それだけ言い残すと今度こそペインは立ち去った。
(一体…"そういう事"?どういう…)
ペインの言葉について考えていると視界の端にもぞもぞ動く物が映る。
「…は?」
突然の事に驚きつつとにかく近寄って麻袋を開ける。口を開けると突如オレンジ色の塊が飛び出した。
「いっ!てぇ…」
腕に引っ掻き傷を置き土産にして。そしてそれは牢屋の隅から威嚇するように爪を構えていた。
「えーと、君は」
「ひっ!は、話すな!」
「え?えー…」
どうしよう…取り付く島もない。
(にしてもやっぱあのミミは…猫だよな)
面倒事らしき雰囲気にうんざりしながら真琴は目の前で絶賛威嚇中の少女…ネコ耳の獣人少女を見た。
んー、誰?
いかがでしたか?
ぼちぼち今まで謎にしていた部分も解決していく予定なので説明回多めの会話文多めになると思いますがよろしくお願いしますm(_ _)m




