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第64話 残された者達#6

今回は会話文多めです


「…と、とにかく一回座ろうか」

「そ、そうだね」


今までのシリアスさは何処へ…?

とにかくこのまま放置する訳にも行かず、ティターニャさんを助け起こした後最低限の場所だけ片付けて一度腰を落ち着ける。椅子が足らなかったのでアルンちゃん達はベッドの上に行く。


「えーと、それでティターニャさんは何故ここに?確か今は会議のはず…」

「先程は失礼しました。実は…」


確かにさっきまでは会議に居たそうだけどアルンちゃん達の存在が急に消えかかっているのに気付いて慌ててこっちに駆けつけたという事らしい。

どうやら精霊は人族でいう命の危険にさらされると存在が消滅してしまうらしい。それを今回アルンちゃん達から感じたそうだ。


「二人が無事そうで良かったのですけど、一体何があったのですか?」

「命の危険って事は…」

「多分そうだよね」


優衣ちゃんと顔を見合わせる。

心当たりはある。というよりほぼ確実にあのお風呂場の事が原因だろう。とにかくありのままを伝えた。


「そう…ですか。二人が」

「あ、あのだ「ダメですよね」…?」


大丈夫ですか?そう聞こうとしたけどボソリとティターニャさんが呟く。その顔には笑顔は無く、ただただ悲しみが広がっていた。


「あの…」

「少し、私の話を聞いてくれますか?」

「…はい」

「ありがとうございます」


いつもとは違う雰囲気に戸惑いながらも優衣ちゃんと少し居住まいを正す。そんな畏まった二人にティターニャさんはクスリと笑いながら話しだした。


「私は…私は元々誰かの上に立つような性分ではありませんでした。それが気付けばこの次元の龍族の長、挙句精霊達の長を名乗っていたのですから自分でも驚きです。そんな折にあの子が…アルンが生まれました」


ふと目を向けるとアルンちゃん達は気が抜けたのか互いに寄りかかって眠っていた。ティターニャさんはそんな二人の横に腰掛けながら話す。


「正直、当時の私は今程あの子を見ていませんでした。でもあの日、魔族のせいでアルンが次元の隙間に飛ばされて見失ってしまった時に初めて…本当に初めて隣で笑ってくれていたあの子の存在の大きさを知りました。だからこそどんどん弱っていくアルンを感じながらも見つけられない状況はまるで地獄でした。ただ自分の娘が死ぬのを黙って見ている事程辛い事は無いんだと知りました」


その時の苦しみはどれ程だっただろうか。きっと私達では想像すら出来ない事だろう。


「でも最後にはアルンは旦那様…マコトに救われ、私もマコトと出会いました。正直に言うと初めはただ魔力の多いだけの人、道具かなにかだと考えてさえいました。でもそんな彼を見て、話して、一緒に過ごしていただけで私はとても幸せでした。私は、マコトが好きになりました」


ティターニャさんは少し微笑んだ。


「…でも、だからこそ私は怖かった」

「怖い?」

「マコトと出会って、アルンもそしてクロも居て、そして私がいて皆で笑って過ごす時間がとても幸せで、それを失うのが怖かったんです」

「でもそれは、当たり前の事だと…」


私も少し思い出す。あの湖の傍で皆で寝た時に真琴君達は本当の家族みたいに見えた。凄く羨ましいと思うぐらいに幸せそうだった。だからそれを失いたく無いと思うのは当然の事だと思う。

そう言おうとするとティターニャさんはゆっくり首を左右に振った。


「でも私はそんな自己満足のためにマコトを縛りつけてしまいました。それが絶対にしてはいけない事だと知りながら」

「…どういう、事ですか?」


未だにティターニャさんの意図が見えない。少し混乱気味に二人で顔を見合わせる。


「本当は精霊王なんて居ないんです」

「…え?でも真琴君は」

「マコトは精霊王だと言ったのは私です。私が…弱かったせいで、マコトに要らない十字架を背負わせてるんです」

「つまりそれって…」


この会話の意味に気付いたのか優衣ちゃんが声を出す。でもその顔には怒りや戸惑い、同情等の色々な感情が混ぜこぜになっていた。


「どういう事?」

「ティターニャさんが言ったよね?精霊王なんて居ないって。そして真琴を精霊王にしたのはティターニャさんだよね。つまり真琴をここに縛りつける為にわざと大役を押し付けたって事よ」

「……え?でも何で」

「いや、それは…」

「それは私の口から言わせて下さい」


優衣ちゃんの言葉に呆然としながらも未だに分からないティターニャさんの意図。何故彼女がそんな事をわざわざやったのかが分からない。

それを聞こうとすると今まで黙っていたティターニャさんが口を開いた。


「先程ユイさんが言った事は全て正解です。でもまさかここまで大事になるとはその時は考えもしませんでした。あの時はただ…ただこの家族の時間を失いたく無かった。出来るならずっとマコトとアルンは私の傍に居てほしかったんです。でもそれが無理だからせめて無理矢理にでもここに来る理由を作りたかった。繋がりを感じていたかった…ただそれだけだったんです」

「……」


少し涙混じりに語るティターニャさんの話を聞いて私はどうして良いのか分からなくなった。

やり方は確かに真琴君の性格につけ込んだ悪いやり方だった。でも、それを分かっていてそれでもティターニャさんは家族と過ごしたかった。ただ真琴君やアルンちゃん達と一緒に居たかった。


(でも、それだと…)

ふと優樹菜の中である疑問が生まれる。


「でもならなんでアルンちゃん達を今までほっておいたんですか?」

「それは…怖かったんです。アルンとクロと向き合うのが」

「…」

「マコトとの繋がりが切れてマトモに考えられなくなって…そして気が付いたら1日が経っていて、初めはすぐに二人の所へ行こうしました。ですがふと周りを見た時に改めて思い出したんです。私がどんなに真琴に迷惑をかけていたのかを。そしてそんな自分が今の二人にどんな言葉をかければいいのかが分からなくなって、二人に嫌われるのが怖くなってどうしても一歩が踏み出せず結局こんな事に…。私は本当に最低の母親です」


あの日の翌日。その日に何があったのか優樹菜は知らないが、並大抵の衝撃では無かっただろう。それだけここに居る人達にとって真琴君の存在は大きかった。だからこそそれらを見てティターニャさんは自分の背負わせた十字架の重さを改めて思い出したのだろう。だからこそ二人の所へは行けなかった。それは分かる。

でも…私は、それはおかしいと思う。


「何でですか」

「…ユキナさん?」「優樹菜?」


唐突に怒りだしたら私に二人は戸惑いを浮かべる。そう、私は今とても怒ってる。


「真琴君に責任を押しつけてた事はまぁ百本譲って無視するとしても、それで少しでも自分に罪悪感があるのなら何で今をどうにかしようと思わないのですか!?」

「で、ですから私は会議を進めて…」

「確かにそれも大事でしょう。でも、ここにはずっとあなたを待っている人がいるんですよ?"どうしていいか分からない"?"嫌われるのが怖い"?それがあなたの今までやって来た事の結果です。それはまた自分で別の機会に反省して下さい。でも!今ここで!あなたを待っていた二人は!?そのまま放置ですか?そんなの…そんなのあんまりです」

「そ、それは…」

「私はティターニャさんの事をあんまり知らないけど、あの湖の傍で4人で寝ている時が幸せでそれをずっと守りたいって気持ちは横から見ててもすっごく分かります。でもそれはあなただけじゃ無くてアルンちゃんとクロちゃんも思っている事です」

「…ぁ」

「だからこそちゃんと二人と向き合って下さい。ちゃんと見てあげて下さい。二人を…守ってあげて下さい」

「ぅ…ぁ、私は…私は、逃げていたんですね…

ごめんなさい、アルン…ごめんなさい、クロ…」


そう言ってティターニャさんは涙を流しながら横で眠る二人を優しく撫でた。その手に反応してか二人も少しくすぐったそうに笑う。それはとても幸せそうな笑顔だった。


「私は…何でこんな簡単な事もしてあげられなかったんでしょうね。守らないといけないのはすぐ側にあったのに…」


そう言って微笑む彼女は色々な憑き物が落ちたみたいに涙を流しながらただ微笑んでいた。それは女王でも無く、龍族の長でもなく、ただただ母親そのものだった。


そんな3人を優衣ちゃんと二人で少し離れた場所から見ていた。


「良かったね」

「そうね、優樹菜が怒った時はどうしようかと思ったけど」

「あ、あれは…多分真琴君ならあんな事を言うんじゃないかなって思って…」

「へぇー」

「た、ただそれだけ!」

「ふぅーん、そう?」


何か優衣ちゃんがニヤニヤしてるので極力視界の隅に追いやった。と、ティターニャさんが立ち上がって改めて頭を下げる。


「ユキナさんありがとうございます。おかげて目が覚めました。ユイさんもありがとうございます」

「あ、いや私はただ…」

「途中からマコトに言われているみたいで凄く心に響きました。さすがはマコトの彼女さんですね」

「か、かの!?あ、いやそれはまだ…と言うかその…」

「……まさかまだ付き合って無いのですか?」

「そうなのよこの子ったらまだ…」

「あ、ちょ、ちょっとストップ!」


優衣ちゃんが話に乗りだしたので慌てて止めに入る。そしてふと疑問に思った事を聞いでみる。


「…そう言えばティターニャさんはいいのですか?」

「何がですか?」

「例えば!そう例えば私が真琴君とつ、つつ付き合ったとしたらその…奥さんだから…とか」

「…ああ、その事ですか。私は別に構いませんよ」

「「へ?」」


この反応にはさすがの優衣ちゃんも間の抜けた声を出す。


「というより…旦那様と言っていたのも実は私が勝手にそう呼んでいるだけです。マコトとの繋がりを感じていたくて咄嗟に考えた…というより前から憧れていたんです。好きな人をそう呼ぶ事に」

「…へー」


そう言って恥ずかしそうに笑う彼女は同性の私達でも思わず見蕩れるぐらいに可愛かった。


「それに…出来たら優樹菜さんとは仲良くしたいですね。勿論マコトが1人しか選ばないのなら私は正々堂々とユキナさんと戦います」

「…!わ、私だって負けません」


あまりにも堂々とした宣戦布告に反応が一瞬遅れる。

でもきっちりと返した私にティターニャさんは嬉しそうに微笑んだ。と、横から優衣ちゃんが質問する。


「ところで仲良くしたいってどういう…」

「ユキナさんの世界では無かったそうですがこの世界では一夫多妻制が認められている…というより特に縛りが無いのです。なので身分の高い人たちは皆奥さんが何人もいますよ?」

「へ、へー」「それはまた…」


何か常識が違い過ぎて置いて行かれそうだよ…


「なので出来ればユキナさんとは仲良くして二人でマコトに貰ってもらいたいですね」

「ぅ…そ、それはまたおいおいで…」


とても嬉しそうなティターニャさんの笑顔に思わず後ずさりしてしまう。

(い、一夫多妻ってつまりはそういう事で。で、でも真琴君は独占した…い、いやいやでも…え、えーと)


「もしもーし優樹菜さーん?おーい」

「…いやでも…はっ」

「優樹菜、急にどうしたの?」

「う、ううん!何でもない!」


いけないいけない。思わずトリップしてしまったようだ。そんな優樹菜を見ながらティターニャが口を開く。


「まぁ確かに急にいわれても困りますよね。突然すみませんでした」

「あ、いやそうじゃなくて…確かに急だったけど、私もちょっと前向きに考えてみたいというか…す、すみません。やっぱり時間下さい」


実際の所ティターニャさんの案は悪くは無い…と思う。確かに一夫多妻って聞いて思う所はあるけどなんだかんだでティターニャさんとは上手くやって行ける気がするし。

そんな優樹菜の前向きな返答にティターニャは少し驚いてからまた笑顔を浮かべる。


「…ええ、いつでも待ってますよ」

「ありがとう、ございます」


「じゃあ優樹菜もちゃんと告白しないとね」

「…うん、私もちゃんと思いを伝えるよ」

「あれ?何かあった?」


からかうつもりで声をかけたが優樹菜の以外な返事に優衣が若干目を丸くする。


「ティターニャさんを見て、いつまでも躊躇ってたらダメだって…ちゃんと伝えようって思えたから、かな」

「…そう、それは良かったわ。なら頑張りなさい」

「うん、ありがとう」


優衣はそんな幼なじみの成長を嬉しく感じた。彼女はこの数日で凄く大人びたと思う。それも、とても良い方向に。だからこそこれからもずっと隣に居たいと…隣に居ると心に誓った。


そんな二人をティターニャさんは眩しそうに見つめていた。








「何か騒がしくない?」

「いわれてみればそうですね」


ふと我に返ってみるとなんだか外が騒がしい。何かあったのかな?物音に気付いたアルンちゃん達が起きかけている。


その時唐突に扉が開かれた。


「ティターニャさんいるか!?」

「はい?」「ひゃう!」「うわ!…って悠一?」


そんな声と一緒に一人の青年がとても慌てた様子で入ってくる。初めにその人物…悠一君に気づいた優衣ちゃんが声をかける。


「優衣!それに優樹菜も!丁度良かった」

「一体どうしたのですか?」

「いいか皆、落ち着いて聞いてくれ。


真琴が見つかった」


「「「「「っ!」」」」」

悠一君がその言葉を言った瞬間、空気が凍った。

全員が緊張しているのが分かるぐらいだ。そんな中でティターニャさんが噛み締めるように聞き返す。


「本当…なのですね?」


「…ああ、本当だ」


「分かりました…すぐに会議を開きます!主だった者をすぐに集めなさい!」


悠一君の言葉を受けて即座にティターニャさんが動き出した。各所に指示を飛ばしながら出ていく。アルンちゃん達もティターニャさんに続いた。


「…で、悠一。何で場所が掴めたの?」

「仲間が知らせてくれたんだよ」

「え?仲間?」

「まぁ見た方が早いだろ」


そう言う悠一君について行くと会議室のような部屋に入った。そこにはティターニャさん達が居て会議をしていた。それに加えてそこに居たのは…


「風花ちゃん!!」

「優樹菜!良かった、無事だったんだ!」


そこに居たのは風花を始めとした男女が20人程。みんな装備がボロボロだ。そして全員が勇者達…つまり同級生だった。


「え?じゃあ仲間って…」

「ああ、こいつらが教えてくれた」

「優樹菜、あんたの手紙のおかげだよ」

「手紙…あっ!」


そう言われて思い出した。確か魔族が攻めて来る少し前に最悪の事態に備えて風花ちゃんに手紙を渡していた。


「貰った時はびっくりしたよ。わざわざあんな特殊な折り方までしてるのに書いてあったのは一文だけだしさ」


あの手紙にはただ一言"もしもの時は森に逃げて奥の泉でこれを見せて"だけ書いてあった。

実は精霊の大樹林には一つだけ、泉の近くにこの島と繋がるゲートがある。そこを縄張りとする種族に頼んで設置させてもらった物だ。


風花ちゃん達はあの日以降姿を消した私達、捕まった真琴、それと急に変わった王様に違和感を覚えて最低限の信頼出来る人達だけを連れて手紙を頼りに逃げてきたらしい。そして森で見つけた泉とそれを縄張りとする種族にこの手紙を見せたらここまで飛ばされ現在に至るらしい。


「結局あの手紙何だったの?」

「あれはね、ティターニャさん…ここのトップの人の魔力が入っていてここに入る為のパスポートみたいな役割をしてたの」

「あ、なるほど。だからここに来れたんだ」


真琴君に「最悪の事態に備えておいて」って言われた事がまさか本当に役に立つとは…


「それで、真琴君は何処に?」

「私達が城を抜け出す前日に工藤君が別の場所に移されるって話を偶然聞いてね。それで場所が分かったから急いでこっちに来たのよ」

「急ぐ?何で?」

「工藤君…かなり教会にやられてたから」

「そんな…」


やっぱり教会の奴ら…許さない


「それで真琴君は何処に?」

「丁度この島とは反対の離れ小島」

「…あ」


それを聞いて部屋の全員が目を丸くする。それは盲点だった。確かにこの島があるなら他があってもおかしく無い。だから大陸を探しても見つからなかったのだ。


と、その時に会議を終えたティターニャさん達がたちあがった。


「準備は出来ました。行けますね?」

「「「はい!」」」


少数精鋭で行くので今回はティターニャさん自らも出るらしい。ティターニャさんを先頭に私達、アルンちゃん、クロちゃん、バルトさん、エクさんが続く。残りはこの島の防衛だそうだ。全員が龍の姿になったバルトさんの背に乗る。そして左右にバルトさんの配下の龍がつく。

全員が乗るのを見てからティターニャさんはよく通る告げた。


「では、マコトを迎えに行きましょう」


「「「おお!」」」


そうして私達は大空へと飛び立った。




待ってて真琴君、今行くから

これで残された者達編は終了です。

次回からは真琴視点に戻ります。なので時間軸は優樹菜達と別れたあの時あたりになる予定です。


よろしくお願いします

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