第63話 残された者達#5
大変長らくお待たせしました。
ドラゴンテイマーの異世界ライフ再開です
コンコン…
「アルンちゃん?クロちゃん?入るわよ?」
あれから身支度を調えた私達はアルンちゃん達の部屋の前に来ていた。
(…どうしよう、返事が無い)
呼び掛けてから早5分。扉の奥からは物音ひとつ聞こえない。
「…どうしよう?」
「入っちゃおう」
「え?いいのかな…?」
「ここで立っていても時間の無駄よ」
優衣ちゃんと話し、気が進まないながらも部屋へ入る。
「アルンちゃん?…クロちゃん?」
改めて呼び掛けるけど相変わらず返事が無い。
(それにしても…)
「散らかってるわね…」「うん…」
凄く部屋が散らかってる。衣服や本など色々な物が床に散らばっていて足の踏み場に困るぐらいだ。中でも一番目を引くのは
(これは…プリント?)
大量の紙が床に散乱していた。いずれも何かしらの文字が所狭しと書き込まれている。
「あ、優樹菜いた」
「え?どこ?…ってアルンちゃん!?」
と、ここで優衣ちゃんがプリントの山から見覚えのある薄い桃色の頭を見つけて引っ張り出す。出てきたアルンちゃんは何時もの元気は何処に行ったのか、髪はボサボサで全体的に衰弱していた。
とりあえずこのままではダメなので物を退かしてベッドへ寝かせる。その後、クロちゃんも無事発見され隣へ寝かせる。(二人共似たような状態だった)
「優樹菜、二人は?」
「…ん、とりあえず大丈夫。今は眠っているだけかな」
「そう…」
軽く状態を診てみたけど少し衰弱している以外は正常だった。その事で少し安心する。
「この二人は…」
「多分、不安…じゃ無くて寂しかったんだと思う」
「私達も自分の事で精一杯だったからね」
アルンちゃん達がこうなった理由は何となく分かる。と言うより二人が倒れながら抱いていた1冊の本を見たら一目瞭然だった。その本はよく知っている。それは以前真琴君がアルンちゃん達の為に自作した算数の教科書のような物だったから。
「何かあった時にせめて計算ぐらいは出来ないとね」って言って夜な夜な作ってたのを覚えてる。内容は確か小学校で習う物がほとんどだったかな?
そしてその教科書を貰った時に勉強と聞いて嫌そうな顔をしながらも二人が凄く喜んでいたのを知ってる。その後二人があっという間に算数をマスターしてしまった時は皆驚いていたな。
とにかくそんな、真琴君からの贈り物を持っているって事は真琴君が死んだって感じてからずっと心細くて寂しかったんだろうと思う。私達も、ティターニャさんでさえも取り乱した程だ。まだ子供の二人にはどれほどの衝撃だっただろうか。
だからこの教科書を片手に勉強をする事で気を紛らわせようとしてたんじゃないかな。よく見たら床のプリントには数式や筆算のような跡もあった。
「う…ん…?」「あ…?」
「あ、起きた?」「体は大丈夫?」
「…ゆ、きな?ゆい?」「何で…?」
どうやら今の状況が飲み込めてないようだ。とりあえずここまでの経緯を説明する。
「……そう」「…」
「え?ちょっと二人共?」
クロちゃんが小さくつぶやくとまた二人共机に向かったので慌てて止める。
「…何?」
「と、とりあえずシャワー浴びよ。そんな格好じゃダメだよ?女の子なんだから」
「「…」」
ちょっとおどけてみても全くの無反応だ。でも一応聞いてはくれたみたいで二人共(と言うよりクロちゃんの後ろをアルンちゃんがついてまわっている)シャワールームへ行った。
「今のうちに部屋片付けようか」
「うん」
水の流れる音が聞こえ始めて、二人がシャワーを浴びてるであろう隙に優衣ちゃんと二人で部屋を片付ける。
片付けながらふとプリントを見ると、勉強の内容は驚く程に進んでいてほとんど高校生と変わらないぐらいだ。それを理解するのは凄く大変だっただろう。でもそれぐらいしないときっと寂しさで押しつぶされてしまいそうだったのかな。
「ねぇ、優樹菜。ちょっと遅くない?」
「え?」
そう優衣ちゃんに声をかけられてふと時計を見ると二人がシャワールームに入ってからそろそろ15分は過ぎる。普段のお風呂ならいざ知らず今の状況でこの時間は確かにおかしい。
(…まさか)
ふと浮かんだ嫌な予感に顔を青くしてシャワールームへ向かう。後ろから優衣ちゃんも付いてくる。
「二人共大じ…!?」「な!?」
相変わらず水の流れる音だけが聞こえるシャワールームの扉を緊急事態だからと言い訳して開ける。
そして二人して絶句した。
そこには湯船に貯まった大量の水と未だに止まらないシャワー、そしてそれを浴びても身動ぎしない2人の人影があった。確かに考えてみればおかしかった。二人が入ってからずっと水の音が途切れてなかったのだ。
(つまり二人はずっと…!)
「優衣ちゃん!」「うん!」
とにかく考えるのは後だ。
優衣ちゃんと二人を救出する。幸いだったのは水がまだ首下ぐらいまでしか溜まって無かった事だろう。あと少し遅かったらと考えると背筋が凍る思いだ。
「優樹菜!どうすれば!」
「とにかく脱衣場に!タオルで包んで!それでとにかく抱いて温めて!」
一方最悪だったのは二人がずっと水の中にいた事だろう。すっかり二人共冷えきっており顔色も真っ青だ。
優衣ちゃんと脱衣場で二人を温めながら名前を呼びかけると数分してようやく二人の意識が戻った。
「あれ?…また、ゆきな?」
「アルンちゃん!!」
「…ここ、は?」
「クロ!あんた…!」
とにかくタオルで何重にも包み肌をさすって温めながら現状を説明する。
「―と言う事。それで二人共危ない所だったんだよ?とにかくこれで温…ま、って?」
と、事情を説明していると急にアルンちゃんが立ち上がった。俯いていて表情は分からないけど全身が小刻みに震えている。
「あ、アルンちゃ「何で…」ん?」
「何で…何で!?何で何で!?」
「あ、アルンちゃんどうし」
「何でユキナは、ユキナはそんな顔してるの!?何で!?マコトが…マコトがし、死んだん、だよ!?なのに…なのに何で!?」
突如爆発したみたいにアルンちゃんは叫びだした。泣きながら、顔を引き攣らせて。それはもはや自分でもどうしていいか分からないような感じだ。そしてそれはある種の悲鳴にも聞こえた。
(…あぁ、そっか)
そこで優樹菜はようやく理解した。これは少し前の自分なんだと。
(なら、私は…)
「アルンちゃん」
「何で!?何でそんな平気なの?ユキナにとってマコトは何なの!?何でそんな…え?」
「ごめんね…アルンちゃん。私はこんなのしか出来ないけど。でも、少しは落ち着いてくれるかな?」
壊れたラジカセのように"何で"を繰り返すアルンを優樹菜は頭から全身を包み込むようにして、背中を優しく叩いた。何度も、何度も。
「ごめんね、寂しかったよね」
「わ、私…は」
「私もね、凄く寂しいよ。真琴君がいなくて凄く不安で心配だよ」
「…何、で?マコトはし、死ん「死んでない」…?」
「真琴君は死んでない。少なくとも私は…私達はそう信じる」
「でも…今更…」
「私も、ちょっと前までは死んだと思って絶望してた。でも優衣ちゃんが、悠一君が私が信じなくてどうする?って言ってくれたんだ。だから私はこの目で見るまで絶対に信じない。真琴君は死んでない。まだ生きている。ずっとそう信じるよ」
「何で…何でユキナはそんなに強いの?」
弱々しい声で放たれたそんな質問に私は苦笑する。
「強くないよ。でも、そう決めたから。真琴君を信じるって。それでアルンちゃんはどうするの?」
「…わ、私は…アルン、は」
「……」
「マコトを、信じる…信じるよ!」
「うん、よく言えました」
「あ、あぁ…あぁぁぁぁぁあ」
そこで限界だった。
今まで張り詰めていた糸が切れるようにアルンちゃんは私の腕の中で大声を上げて泣き出した。でもそれはさっきまでの悲鳴のような物ではない。まるで産声を上げる赤子のような…母親に縋る子供のような暖かい泣き声だった。
「あ、あぁぁぁ!あぁあ!」
「うん、うん、辛かったよね。寂しかつたよね。よく頑張ったね」
優しくアルンちゃんの背中を撫でる。
ふと横を見るとクロちゃんも優衣ちゃんの胸に顔を埋めながら静かに肩を振るわせていた。
(本当…ダメだな…私)
他人に迷惑をかけてばかりでちっとも周りの事を考えなかった自分が嫌になる。
(…でも)
少なくとも今の私は人を救えたのではないだろうか。それは自己満足だったかもしれない。それでも今自分の腕の中で泣いている子を助けれてほんとに良かったと思う。
大丈夫、二人共とっても強いからすぐに元気になる。
(だって…)
二人共あの真琴君の娘なんだから
「…落ち着いたかな?」
「…うん」
「そっか。ならとりあえず服着ようか。そのままだと寒いでしょ」
「…ユキナ」
「ん?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ行こうか」
二人共が落ち着いたのを見計らって着替えるためにリビングへ向かう。
「アルン!クロ!大丈夫ですか!?
きゃっ」
その時急に扉を突き破って誰かが部屋に飛び込んで来た。…そしてそのまま床の大量のプリントに足をとられて見事に転ぶ。
「「…ティターニャさん?」」
「「…お母さん」」
その人物は…ティターニャさんだった。
いかがでしたか?
あともう1話で真琴視点に戻る予定です。
また、誤字脱字修正の際に少し文書も修正しましたので良かったら読み直してみてください。
意見や感想お待ちしてます!!




