第61話 残された者達#3
お待たせしました!
「ねぇ悠一、本当に大丈夫なの?」
「多分な」
「多分って…」
「まぁ任せろ。何とかなるだろ」
所変わって優樹菜の部屋の前。昨日は優衣が寝てしまった事もあって悠一達は改めて今日来たのだ。優衣がノックをして入っていく。
「優樹菜入るわよ?」「入るぞ」
「…あ、優衣ちゃん、悠一君」
しかし優衣の後を追って部屋に入った悠一は瞬間的にベッドに座る女性と記憶にある幼なじみを結びつける事が出来ず唖然としてその場で止まってしまった。
(…本当に優樹菜、なのか?)
髪はボサボサになり衣服も全体的に乱れている。体格も以前にも増して細くなっていた。そして目が若干落ちくぼみ、顔全体は疲労が色濃く滲み出ている。どれも以前の優樹菜には当てはまらない事だった。
(こんなになるまで俺は…)
過去の自分を叱咤しつつも自分のやるべき事を思い出して1歩を踏み出す。
「やぁ優樹菜、久しぶり。4日ぶり…ぐらいか?」
「悠一君、久しぶり…それよりも真琴君、は?」
弱々しい声で悠一に問いかける優樹菜。それに対して悠一も力無く首を横に振る。
「そう…」
優樹菜はそう告げるとそれっきり俯いてしまった。そんな二人を気遣わしそうに優衣が壁際で見ている。
(これは…回りくどくやると逆効果だな)
「…なぁ優樹菜、お前さ真琴が…真琴が死んだの自分のせいだって思ってる?」
「…っ!」
その言葉に優樹菜はビクリと肩を震わせた。
(…やっぱりか)
「なぁどうなの?」
「わ、私は…」
「ちょっと悠一!」
「優衣は黙ってて。で、どうなの優樹菜?」
悠一の強気な姿勢に思わず優衣が止めに入るがそれを一言で抑えて再度問う。優樹菜は、自分の震える手を見つめながらポツポツと話し出した。
「そりゃ…そうだよ。わ、私が…あそこで真琴君を…待ったりしなかったら…もっと他の…可能性だってあった…かもしれないし…」
「…」
「私が…私が真琴君をこ、殺したみたいなものだよ」
そこまで言うと限界だったのか自分の顔を手で覆い突っ伏した。時々手の間から「真琴君…ごめんなさい」と懺悔するかのように声が漏れる。ついに見かねた優衣が落ち着かせるように優樹菜の頭を抱えて背中を撫でる。
(つまり優樹菜は自分のせいで真琴が死んだと思ってる…か)
そんな中、悠一は冷静に優樹菜の心を分析する。
そして出した結論は
「…ふざけるなよ」
「え?」
絞り出すように言った悠一の言葉に思わず優樹菜も優衣も顔を上げる。目の前にいたのは…怒りに染まった悠一だった。
「ゆ、悠一?」
「ふざけるなよ優樹菜。私のせいで真琴が死んだ?私があんな事しなければ良かった?別の可能性があった?
はっ、夢物語も大概にしろ。起きた事を何時までも悔いるな!大体何で真琴はゲートへ行かなかった?優樹菜、お前が居たからだ。それを居なければ良かった?ふざけるな!真琴の行動を否定する気か!?身体を張ってまでお前を守った真琴を否定するな!あいつに失礼だ!」
「わ、私は…」
「さっきから言い訳がましくそればっか。もう聞き飽きた。それにな…お前は一体何を言っているんだ?」
「…?」
悠一の何の脈絡も無い問いに優樹菜は首を傾げた。
「お前は何で真琴が死んだと思ってるんだ?」
「…っ!?で、でも真琴君の魔力が…」
悠一の言葉に焦ったように優樹菜が言うがそれさえも聞き流し悠一は再度問いかける。
「なぁ優樹菜、お前は真琴が好きか?嫌いか?どうでも良いか?勿論異性としてだ」
「な、何を急に…私、は」
「逃げるな。正直に話せ」
「っー!
す、好きよ!好きですよ!何なのさっきから!そりゃもう大好きですよ!勉強が出来て運動も出来る彼の事が大好きですよ!中学の時なんて危うく犯される所を助けてくれてくれたんだよ!?惚れない方がおかしいでしょ!それに何も無い時でも常に気にかけてくれるし、料理上手いし喧嘩とかものすごく強くてカッコイイし!
大体何なの!?私だってけっこうアピールしてるのに全く気付かないで!地球でも真琴君の事好きだって娘が凄く居てヒヤヒヤしてたんだよ!?なのに何!?こっちに来てからルーンさんと仲良くなってるし、いつの間に奥さんいるし!こっちの身にもなってよ!」
遂にキレた優樹菜が吐き出すように叫んだ。その内容は途中から愚痴に変わっていたがそれさえも本人は気付かない。どうやら自分でも何を言っているのか分かってないようだ。
少し落ち着いたのを見計らって悠一が聞く。
「それでも好きなのか?」
「…そりゃ好きだよ。
地球でもこっちでも一番大変なのは真琴君なのにいっつも他の人を優先して…それで困ってる人がいたら手を差し伸べて、そして自分も一緒になって解決していく。そんな鈍感だけど凄く優しくてカッコイイ真琴君が大好きだよ…大好き…だよ」
改めて問いかけると優樹菜は涙をボロボロ零しながら言った。最後は限界でほとんど嗚咽で聞き取れなかったが気持ちだけは充分に伝わった。
(やっぱり…優樹菜は優樹菜だな)
今は優衣の腕の中で泣きじゃくる優樹菜を見ながら悠一は変わらない幼なじみに少し安堵する。実はもし優樹菜が真琴の事をそこまで考えられない程に壊れていたら悠一でも助けようが無かった。
(ならもう一押し…だな)
少し落ち着くまで待って悠一は話し出す。
「責めるように言って悪かったな、優樹菜」
「う、ううん。私も…ちょっとスッキリしたから、ありがとう」
「じゃあ本題に入ろうか」
「「…本題?」」
優樹菜だけでなく優衣までも首を傾げる状況に悠一はズッコケそうになるのを耐えて続きを話す。
「そもそも今回の事態は何だ?」
「それは…真琴君が、し、死んだ…事で」
「あぁ、泣くなよ優樹菜」
真琴が死んだという言葉で泣きそうになるのを宥めながらどう言った物かと悠一は考える。
「えーとだな…そもそも真琴が死んだって誰が決めた?」
「……え?」
「死んだって確認したか?魔力が切れただけだろ?確かにそれで死ぬ…この世界の人達は」
未だ分からないという顔をする優樹菜に悠一は説明する。
「元々俺達はこの世界の住人じゃ無いぜ?それをこの世界の常識で死亡判定されたところではいそうですかって信じるのか?俺は無理だね」
「…」
「だから俺は真琴が死んだなんて信じない。この目で確かめるまで絶対に認めない」
「…ぁ」
「それを真琴が好きなお前が初めに諦めてどうすんだよ」
その言葉に再び優樹菜は一粒、涙を零す。
「優樹菜、これは私も同意するわ。私はこの目で見るまであいつが死んだなんて絶対に認めない。信じない。だからさ、優樹菜もちゃんとあいつを信じてあげてよ」
「…ぅ、うん、うん」
ポツリポツリと涙を零しながらも優樹菜はしっかり何度も頷いた。
(はぁ…どうにかなったな。それにしても真琴君の奴、こんなに思われてんのに何で気付かないのかね…?)
実際のところ優樹菜もいっぱいいっぱいだったんだろう。そんな混乱している時に真琴が死んだなんて衝撃的な事を言われたら嫌でも信じてしまう事だってあるかもしれない。でも今の優樹菜ならもう大丈夫だろう。
真琴を信じると決めた優樹菜に悠一はある情報を渡す。
「それにな優樹菜、ちょっと朗報?みたいな情報がある」
「え?何?」
「この前カインさんとエクさんと話してて真琴の事になった。その時に俺は"もし魔力を外部へ漏らさない部屋なんかがあったら真琴の魔力が切れた事にならないのか"って聞いたんだ」
「え?でもそんな簡単な事…」
「て思うだろ?それがどうした事か二人共凄く驚いていたぜ?その発想は無かったってな」
「…!」
それはごく簡単に思いつく事。例えば電気を遮りたいならゴムのような絶縁物を置けば良いだけだ。
それと同じで魔力を繋げたく無いなら絶縁物のような物で囲んだらどうかと悠一は聞いたのだ。けっこうダメ元のつもりだった。
しかし現実はとても驚かれた。
「この世界は魔力が通ってる事が当たり前過ぎて遮るとかの発想が無かったみたいだな。でもあいつ…魔王は真琴の父親だ。その考えがあってもおかしくは無い」
「じ、じゃあ」
「ああ、生きてる可能性が高い。それに崖から落ちてもピンピンしてたんだぜ?今更死ぬか?」
最後は冗談めかして言ったがそれも理由の一つである事に変わりはない。優樹菜もそう考えたのか未だ涙を流しながらも少しだけ嬉しそうに笑った。
(もう大丈夫だな。後は優衣だけでも問題ないだろう)
「もう大丈夫そうだな。じゃあ優衣、あと頼むわ」
「ええ、分かったわ。本当にありがとう」
優衣の言葉に笑って手を振りながれ去ろうとした悠一に優樹菜が慌てて声をかける。
「ゆ、悠一君!」
「ん?」
「そ、その…ありがとうね。それと迷惑かけてごめんなさい」
「気にすんな。それに優樹菜にはちゃんとやって貰わないとな」
「え?何を?」
不思議そうに首を傾げた優樹菜。優衣は分かってるようでニヤニヤ笑ってる。そして優衣と悠一は目線でタイミングを合わせて言った
「「真琴への告白」」
「っーー!?」
「いやー凄く情熱的な言葉だったな」
「何だっけ?勉強出来て?運動出来て?」
「優しくてカッコイイ。なるほどなるほど」
「これは是非とも告白して貰わないとね」
「ね、優樹菜」「な、優樹菜」
「っーー!もう知らない!」
すっかり顔を赤くして布団に突っ伏した優樹菜とそれを笑う悠一と優衣。その顔には笑顔が浮かんでいた。
(さて、後はお前だけだぜ?真琴)
悠一は今もどこかで戦っている幼なじみに届く事を願いながら激励を送るのだった。
いかがでしたか?
優樹菜復活です!さあここから優樹菜達は反撃開始です!




