第50話 修行―帝国―
帝国の城の中庭では現在二人の人物が密かに注目を浴びていた。
「はいそこまで」
「…ふぅ」
「大分良くなりましたね、ユキナさん」
「ありがとうございます。でも…もうちょっとだけ」
そう言いながら優樹菜は再び杖を構えた。注目の人物の一人である。ちなみにもう一人はクラリッサ先生だ。尤も、二人共興味が無いのか全く気付いてないが。
優樹菜は再び杖を構え、魔力を集中させる。すると前方に白い球…魔力の塊が現れた。それだけでもかなりすごいのだが純度が桁違いだ。通常は自身の魔力にも多少濁りが混じり、色がくすんだりするのだが優樹菜の場合はほぼ完璧な白である。これ程の純度は帝国でも優樹菜とクラリッサぐらいであろう。
「はいストップです」
「…はぁ」
「1度休憩しましょう」
「はい…」
現在優樹菜は課題である「より上位の魔法の習得」に向けて修行中だ。…もっとも魔法自体はあまり知られたく無いので別の場所で行っているが。今は少しでも魔力を上手く扱おうとコントロールの練習中である。
「お疲れ様です。アイスティーで良かったですか?」
「あ、すみません。ありがとうございます」
ところ変わって休憩所(カフェテラスのような所、中庭の近くにある)。疲労で机に伏している優樹菜に変わってクラリッサが飲み物を持ってきた。
「それにしても大分上達してきましたねユキナさん」
「いや、まだまだですよ…本当ならもっと…」
「ユキナさん、焦りは禁物です。焦っては出来る事も出来なくなりますよ」
「それは…すみません」
「分かれば良いのですよ」
どこかの真琴と同じ事を注意された優樹菜は少し落ち込む。
「でもそんなに焦る程でしょうか?」
「いや…だって先生のはもっと大きくて形も自由に変えてるし…」
「もしもし?ユキナさん?私はこれでも幼少から魔法のみを研究してこれですからね?始めてたった数ヶ月の人に追い抜かれたら私心折れますよ」
などと言ってるが実際の所ここ一ヶ月の優樹菜の成長は驚異的だ。始めは満足にコントロールする事が出来なかったが、今では外に塊として出してそれを維持、収束する事が出来る。これは魔法の天才と言われたクラリッサでさえ出来るのに半年程かかったぐらいだ。
それに加えて実際の魔法でも基礎をしっかりと理解し、それを様々な形で応用…つまりオリジナルの魔法を生み出せるまでになっている。今の優樹菜なら少しの部分欠損程度の怪我なら鼻歌交じりに治せるだろう。
「それでもまだダメですか…」
「うぅ…だって皆頑張ってるし…」
ふと中庭に目を向ければ空いたスペースで悠一とカインが模擬戦をしている。
「はぁ…あまり根を詰め過ぎないで下さいね。あなたの精霊も不安がりますよ?」
「うーん…でもやっぱり…」
そう言いながら優樹菜は足元の一匹の黒猫を抱き上げた。
『ほら言われた。やっぱりご主人は休むべきだよ』
「うぅ、ミーにまで…」
「あ、精霊…ミーちゃんでしたか。にも言われました?」
優樹菜は契約した精霊の黒猫を「ミー」と名付けている。クラリッサは優樹菜の精霊の声は聞こえないが何となく雰囲気で察したように呆れている。
「今日はもうここまでです。部屋でゆっくり休んで下さい」
「ええ、そんな…」
『ここは先生に従って休もうよ。ご主人あんまり寝てないでしょ』
「それに…あ」『あ、やばい』
「え?ミー?」
「ゆーきーなっ!」
「!?」
クラリッサ先生が何かを言いかけた時にミーは何かを察して姿を消した。それとほぼ同時に名前を呼ばれて背中から誰かが抱き着いてくる。
「あ、風花ちゃん」
「やっほー元気にしてる?」
振り返ると元気一杯な女子生徒…三和風花とその友達二人がいた。
「それでは私はここら辺で。優樹菜さん、今日はゆっくり休んで下さいね」
「あ、はい。分かりました」
空気を読んでかクラリッサ先生は席を立った。と言うよりも以前にこのメンバーに捕まり過去の恋バナなど様々な事を根掘り葉掘り探られて以降、苦手意識が芽生えたみたいだ。
(まぁあれは仕方ないよね)
優樹菜は居なかったが、思いの外盛り上がったらしく、ついつい黒歴史を掘り返すなど色々やってしまったようだ。
なので風花達が若干文句を言っているが先生はそそくさと帰ってしまった。ちなみにミーは居るともみくちゃにされるので基本は優樹菜の中だ。
「いやークラリッサ先生も一緒に居れば面白かったのにね」
「風花ちゃん…もうそれぐらいにしてあげて」
「えーでもあの反応面白いんだもん」
「そ、そうなの?ところで皆どうしたの?」
「どうしたと思う?」
「分からない?優樹菜の事だけど」
「う、うーん…心当たりは無い…かな?」
優樹菜は今までを振り返りながら首を捻る。そんな様子に一同は肩を落としてため息をついた。
「はぁ…なら単刀直入に言うね。優樹菜、あんた最近無理してるでしょ?」
「な、何言ってるの?」
「じゃーこうしよう。優樹菜は無理をしている」
「いやだから何で」
「見てれば分かるよ」
その言葉に驚いて皆を見ると同意するように頷いている。
「…え?そ、そんな顔に出てた?」
「勿論あんたそーゆーのは隠すの上手いから他の皆は気付いてないよ」
「あ、そうなんだ。でも何で…」
「これでも私達はあんたと仲良いつもりだよ?そんな人が辛そうにしてたら気付くのが当たり前」
「私達を見くびらない事ね」
「え、あ…すみません…」
改めて自分の友達の頼もしさを嬉しく思いつつ心配をかけた事を謝る。
「それでその理由は…話してくれないの?」
「…ごめんなさい」
「はぁ…まぁいいわ。そんな気はしてたから」
「…」
そう言って風花はため気をついて、優樹菜は若干の気まずさから俯いてしまう。
「はいはい、優樹菜。そんな顔しない。私達は別に気にして無いから」
「ごめん…なさい」
「あぁ、ほら泣かない。それに…?」
「どうしたの?」
「ああ、何でも。ほら優樹菜元気出しなよ」
何かを言いかけた風花が不意に止まる。他の二人が怪訝そうな顔をするがすぐに風花は元に戻って優樹菜を慰める。表面上は何も変わって無い。
しかし
(これは…優樹菜?)
テーブルの下では周りに見られ無いように密かに優樹菜が風花に手紙を渡していた。手紙は特徴的な形に折られ、それは正しい手順で開けないと紙が燃えるという魔法付きで。この手紙の特殊な形と手順は考えた時にその場にいたクラリッサと風花しか知らない。なので風花も何か重大な事があると考えて周りに悟られないように隠す。
幸い誰も気付かずそのまま進む。
「にしてもやっぱりあれですか?優樹菜が最近落ち込んでいるのは愛しの真琴君と会えないからですかぁ?」
「え?あ…い、いやそれは…その…」
慌てて否定しようとするが実はそれが一番の要因だったりするので否定は出来ない。
(だって真琴君最近帰って来ないし…帰って来てもすぐに出て行くからまともに話せないし…)
表向き真琴は精神的問題で面会禁止の為会えない事になっている。なので風花達はそれを言ったのだがあまりハズレてはいない。
(ちなみに優樹菜達は王族のみが知る隠し通路を使って入っているのでバレてない)
それから四人は良くある雑談に花を咲かせながら午後を過ごした。
おや?雲行きが…




