第48話 魔道具
夕暮れ時
真琴の部屋に突如黒い楕円が現れそこから人がぞろぞろ出てきた。
「ほら、二人共しっかり歩いて」
「マコト〜眠い…」「う、うん…」
「ああほらちゃんと前見て」
「あぁ…帰って来たな」
「姉さん…僕もう働きたくない」
「言うな、リオン」
「「はぁ…」」
「いやーよく寝たな」
「本当ね。この世界で初めてゆっくり寝たわ」
「あぁ、気持ちよかった」
「でも悠一いびきうるさい」
「すみません」
「ま、まぁ優衣ちゃん」
各々話しながら出てくる。全員に共通しているのは寝起きのようなぼけっとした雰囲気だろう。
あの会議の後、昼食を取り少ししてから皆で昼寝に向かった。そこは湖のほとりで、周りの木々によって木陰になっており、いい感じに風も吹いていてまさに絶好のスポットだった。
始めは少し遠慮していた優樹菜達も即行で寝たアルンとクロやその横でウトウトしてたマコトとティターニャを見て少し横になったところあっという間に夢の中。異世界に来てからここまでゆっくり出来る所も無かったので無自覚に色々溜めていたのだろう。気付けば夕方まで皆で寝ていた。
周囲の警戒をしてくれたエクさん達に礼を告げ、真琴とティターニャの魔法で再び部屋に戻った。そして現在へ至る。
「―さて、それじゃあ私達は一度父上へ報告して来るよ」
「姉さんもう少しだけ…」
「はぁ、ほら行くぞ」
そして寝ぼけたリオンを引きずってルーンは出て行った。
「にしてもいい所だったな。精霊の森 」
「でしょ?本当はゆっくり回れたら良かったんだけどな」
「まぁそれはまた次だな」
「ところで真琴、あんたこれからどうすんの?」
「…優衣、一応女子高生ならもう少し言葉遣いを…って無駄か」
「な、何よ!私だって学校ではもっとお淑やかよ!」
(いやそれ自分で言っちゃダメなやつ)
とはいえ優衣の言った事は大切な事なので少し考える。と、そこにお茶を入れてくれた優樹菜が戻って来た。
「そういえば私達もどうなるんだろ?」
「このまま軟禁って線はどう?」
「残念だけどハズレだね、悠一」
「その心は?」
「僕は教会に正面から喧嘩売ったから確実にハブられる。でも悠一達まで抜けると指揮系統が滅茶苦茶になるから監視付きで訓練に戻されるはずだ」
今更だが悠一、優衣は代表。優樹菜も副代表なので普段はあまり機能してないがいざという時の指揮系統は確立させなければならない。なので優樹菜達の復帰は可能性が高いだろうと真琴は考えた。
「なら話戻すけどあんたどうす…るの?」
「無理するなよ」
「無理じゃ無いわよ!で、どうするの?」
「まぁ確実にハブられるから部屋に籠る」
「はぁ?」
真琴の回答に訳が分からない優衣達は首を傾げた。
「何?お前ニートでも始めるの?」
「中々魅力的な提案だね悠一」
「で、実際どうするの?」
「とりあえず精霊の森に行って訓練かな?早く霊装を完璧にしたいから」
真琴の説明に納得した表情の一同。
「あ、そうだ。3人ともこれ持っていて」
「いいけど…これは?」
真琴が差し出したのはブレスレットだ。中央に青色の丸い石がハマっている以外は至ってシンプルなデザインになっている。
「僕の自作の魔道具」
「まどうぐ?」
優樹菜達はますます訳が分からないと首を傾げる。
「中心に石があるでしょ。それは僕の魔力を凝縮させて作ったやつ。まぁ魔石って言うらしい。で、それを原動力に動く道具を魔道具って言うんだって。ダンジョンに行った時のゲートとかが魔道具だね」
ここまで説明すれば皆分かったみたいで納得した表情だ。
「んで、これの性能は?」
「簡単に言うなら遠距離通信…携帯電話だね。そのブレスレットに魔力を流せば全員に繋がる仕組み。声に出さなくても考えるだけで伝わるよ」
「…科学どこいった」
「あんたそれ言ったらこの世界で生きて行けないわよ」
やっぱり工業生は物理的にしっかりしてないと納得しにくいのかな?まぁそのうち慣れるだろう。
「真琴君。これってアルンちゃん達を参考に?」
「まぁそんな感じかな」
確かにこれはアルンとティターニャの念話を参考に作ったものだ。
(でもまだまだ完璧じゃ無いんだよな…)
例えばこれは真琴の魔力で作ったので基本は真琴を通して皆で話すものだ。個別に話す事が出来ないのが一つ。他にも色々と問題点は多い。
「初めて作ったから色々雑だしね」
「いやでも便利だな。これは皆に配るのか?」
「そんな大量には作れないよ」
…ちなみに補足しておくが魔道具とは魔法を基礎から理解した上で何年かの経験を経た職人がようやく作ることが出来る。少なくもと魔法を習い始めたばかりの人が自分の魔力で作れるような代物ではない。しかしこの場にはこの世界の常識を知る者はいないので誰も言わないが。
「…あとこれは緊急時の連絡用かな。特に優樹菜と優衣の」
「なるほどな」
「…ん」
「…あぁ、だからね」
ずっと気になっているのはあの事情聴取の時の司祭の思い付きだ。
(あの場では流れたけど実際はどうだろうか、他の人がやらないとら限らない。それにあの場の周りの反応を見る限りかなりの数がこっちの女性陣を狙っていそうだし)
「まぁ正直あって欲しくは無い。でも用心に越した事は無いからね」
「…真琴、あんた何か言われたでしょ」
何時もとは違った雰囲気に違和感を覚えた優衣が聞く。正直怖がらせるだけなので言うべきか迷ったが知らせるべき内容なので話す。
「―と司祭が言っててさ。一応は大丈夫だと思うけど警戒は常にしておいて欲しい」
「なるほどね。でもそんなに落ち込まなくてもね!私達なら大丈夫よ」
「そうだよ。それに今なら魔法とか使えるし心配しなくても…」
「何かあってからじゃ遅いんだ!!」
「「っ!」」
少し重くなったので空気を変えようと優衣と優樹菜が軽快に言うがそれに真琴は怒鳴るように叫ぶ。しかし、それはどこか悲鳴じみて聞こえた。その真琴の言葉に二人共身を竦めて驚くが、悠一はそのまま腕を組んで静かにしていた。
「あ、ごめん…でも、本当頼むよ…もうあんな事にはなって欲しく無いんだ」
思い出すのは中学の時だ。あの時あと1歩遅かったら?そもそもそのまま帰っていたら?考え出すと身体が恐怖で震えてしまう程だ。
「これは俺も真琴と同じ気持ちだ」
「悠一…」
「もう二度とあの時みたいになって欲しく無いんだ。そりゃ俺だってマンガの主人公みたいに何時でも守ってやる、って言いたいよ。でも実際そんな保障はどこにも無いんだ。ましてや今はこんな状況だ。ちょっとの事じゃ異常に気付け無い。だから…頼む」
それが何に対しての「頼む」だったかは言うまでもなく優衣達にも伝わったようだ。
「いや…私も軽々と言ってごめん。あんた達がそんなに気にしてたなんて全く考えて無かった」
「いや、俺も悪かった。ちょっとでも安心したかったんだ」
「でも、ちょっと嬉しい…かな。ちゃんと心配してくれて」
「はは…ごめんな、こんな頼りない彼氏で」
「…バカ」
悠一は力無く笑う。そんな悠一を優衣は赤面しながら肩を叩く。でもそこにはなんとなく信頼のような物も伺えた。
「優樹菜もしっかり付けて置いてね。出来ればずっと外さないで欲しいかな」
「あ、うん…分かった。ごめんね、真琴君。私もちょっと大丈夫かなって考えてた」
「いや、むしろ乗り越えてくれて良かったよ。こっちこそごめん。こんな蒸し返すような事して」
「そ、そんな。わ、私は真琴君がこんなに心配してくれて…嬉しい、よ」
「それは心配するさ。優樹菜は可愛いから余計に、かな?」
「か、かわっ…」
真琴の言葉に優樹菜は顔を赤くする。それに気付かず真琴は続けた。
「あ、でもそのブレスレットの形変でしょ。上からリストバンドか何かして隠しておいて」
「え、あ、いや!そんな事無い!そんな事無いから!」
「え、そ、そう?なら良かったかな。初めて作ったやつだからちょっと自信無くてね。それに優樹菜のは一番初めに作ったし」
「え?あ、あの…それは私のは」
(私のは適当なの?)
そんなちょっと自虐的な質問をしかけた優樹菜に真琴は笑って告げた。
「とりあえず一番初めは優樹菜かなって思って。優樹菜が一番心配だったからね」
「……あぅ」
トドメの一言
その言葉に優樹菜は顔を真っ赤にして伏せてしまった。
(え、心配ってそれって…いやいやでも真琴君だし。いやでもやっぱり心配って…そ、そんなに私の事が…す、すk)
「優樹菜は昔っから時々抜けてる所あったからね」
こいつアホだ。鬼だ。ド畜生だ。
そんな真琴の言葉に先程とは別の意味で顔を伏せる優樹菜。
(いやはい。分かってましたよ。相手は真琴君だよ。うん、分かっていたよ。分かってたけどさ…)
心配してくれるのは嬉しいがあまり素直に喜べない優樹菜であった。
「…ねぇ、あれってわざと?」
「だったら素直に俺は真琴を褒めるね」
「…うん、私もそうするわ」
「でもどう見てもアイツ優樹菜の事を1幼馴染みとしか考えて無いよな」
「何で分からないのかしら?優樹菜ってあんなにわかりやすいのに」
「さっぱり謎だ」
「謎ね」
「「はぁ…」」
そして横でもはや恒例となる話を繰り広げる悠一と優衣であった。
今回は久しぶりに幼なじみ四人の話です。
改めて中学の事件について触れてみました。
それぞれの考えはありますが、それでもやっぱり皆は仲良しなんだなと思って貰えたら嬉しいです。
感想などありましたら是非お願いします。




