第46話 王族として、友として、
今回は少し長いです
「ところで旦那様、その腕は何時までそうしているの?」
「…え?」
「…あら?」
「いやいや、ちょっと待ってティターニャ。腕ってこの左腕だよね?」
「ええ、そうよ。何時になったら治すの?それとも何か目的があるのかしら?正直あんまりいい気持ちはしないのだけど…」
「……え?って事は治るの?この腕」
「ええ、一般人なら無理だけど旦那様なら治るわよ」
それから語られた事は地球では有り得ない内容だった。要約すると、僕の身体には異常な量の魔力が流れている。それと、アルン(龍族)と契約している。なので同じ龍族のティターニャなら魔力を操って腕を再生(というより回復を異常に早める)出来るそうだ。
「へー…すごいな」
「とは言っても部分欠損も大きさや場所によって無理な場所が多いからあんまりアテにしないでね」
「いやそれでも充分に凄いよ。えーと…お願いしてもいいかな?」
「ええ、任せて!それじゃあ、アルンも手伝ってね」
「うん!」
やっぱり母娘なのだろう。頼られるととても嬉しそうに笑う仕草はそっくりだ。(但しそれが真琴限定である事を本人は知らない)
「それじゃあアルン、一緒にやるわよ。お母さんの動きを真似してね」
「う、うん」
「やるわよ…《エクストラヒール》」
「え、《エクストラヒール》っ!」
何度も言うが魔法とはイメージである。極論を言ってしまえばイメージさえしっかりさせれば素人でも高ランク(魔法は各分野でランク分けされており、高いほど強いが扱いが難しい)を使える。
では何故出来ないのか?
それはイメージが出来ないからである。例えば木が燃えるまでのプロセスなら大体イメージ出来るが爆弾の爆発は細かいプロセスが想像出来ない。やり方が分からないならやりようが無い。なので素人は順番にランクを上げてイメージを昇華させていくのがこの世界の定番だ。
しかし今回はアルン自身も龍族であり母親が手本をしているのでアルンも見よう見まねで手助けが出来るのである。但しクロは種族が違うので魔力が狂ってしまうそうだ。なので今回は見学だ。
ティターニャとアルンが魔法を唱えると左腕が光に包まれた。するとそこにあるのが当たり前のようにそこには自身の左腕が指先まで存在していた。
「「「「……」」」」
「え、エクストラヒールって最上級回復魔法じゃない…」
「母娘揃って綺麗だ…」
あまりに非現実的過ぎて何も言えない地球組四人。使われた魔法のランクに驚愕するルーン。
ちなみに魔法は下から
・初級魔法
・中級魔法
・上級魔法
・最上級魔法
・神級魔法
と大雑把に分類され、一流の者で上級。魔法を極めた者が行使出来るのが最上級らしい。神級は神話上の魔法らしく存在は確認されて無いそうだ。
…そしてアルンとティターニャに目を輝かせるリオンがいた。
(もう何だろ、僕はお前が分からないけどとにかく残念な人なんだね)
正直関わりたく無いのでスルーしておく。
「え、えぇと…ありがとうティターニャ、アルン」
何度も腕や手を動かすがやはり自分の一部だ。
(未だに信じれないな…)
「どういたしまして!どう?マコト、ちゃんと出来てた?」
「ああ、凄いなアルン。ありがとう」
「えへへー」
頭を撫でると嬉しそうに笑った。
「…うん、ティターニャ。凄く助かったよ。ありがとう」
「それは聞いたわ。それで、どうだった?」
「あー、凄いねティターニャ。感謝してるよ」
「うふふ、そうでしょ?」
横を見れば物凄く期待した顔でしゃがんで頭を出すティターニャがいたのでお礼ついでに撫でておく。するとこちらも凄く嬉しそうな顔になった。
(うーん…両手に華とはこの事か。いやー福眼だ)
左には幸せそうな顔のアルン、右には嬉しそうなティターニャ
(うん、素晴らしい!)
…こいつ案外アホかもしれない
「ご、ごほんっ!」
「…(幸せ…)」
「ごほんっ!ごほんっ!」
「ふぁ!?ど、どうした?優衣」
「…あんたちょっと状況見ようか」
そう言われて周囲を見ると呆れ顔の優衣、苦笑いする悠一、羨ましそうにこちらを見る優樹菜、ルーン、クロがいた。
(なんだ?そんなにアルン撫でたいのか?分かるよ、こいつは可愛いからな)
…アホであった
え?リオン?知らないよ?知らないったら知らないよ?
しかしこのままでは進まないのでとりあえず皆一度着席し直す。
(ティターニャが物凄くがっかりし、アルンは当然のように真琴の膝の上へ。そこにクロが乱入し、現在2人共真琴の膝の上だ)
皆一度落ち着き、仕事用のモードへ切り替える。
「…さて、改めてティターニャ、アルンありがとう。凄く助かったよ」
「まぁ当然よ。なら…そろそろ本題を聞かせてもらえるかしら?」
「…ではまず私達の国の現状から聞いて欲しい」
それからルーンは帝国の今までの事とこれからの予想を話した。その間ティターニャは始終静かに聞いていた。
「…と言う事で私達の国は近いうちに教会に乗っ取られるのは確実だろう。これが現状だ」
「…それで?あなたは私達精霊にどうしろと?正直、私としてはあなた達がどう死のうが関係無いわ。むしろその混乱に乗じて盗られた精霊を取り返しに行くわね」
「それは…そうだが」
「それともあなたは私達に何を求めるの?攻めて来たら盾にでもなれと?それとも逆に戦えと?私達を散々貶めておいてまだ搾取するつもりかしら?」
「ぅ……」
悲しいがこれが現実だ。実際人族は精霊を利用し、自分達が一方的に利益を搾取している。被害を被るのは大体精霊だ。確かに自分から契約を結ぶ精霊もいるがほとんどは例の首輪で強制的に従わせられる。その状態で助けろとはあまりに自分勝手すぎる。
それはルーンも分かっているので何も言えず黙ってしまう。
優樹菜達も改めてこの世界の現実を見て何を言っていいのか分からないようだ。
「はい、そこまで」
話が一区切りついたのを見計らって真琴は手を叩いて注目を集める。
「お互い現状の確認は済んだかな?ルーンごめんね。辛かったでしょ。ティターニャもごめん。嫌な役回りで」
「わ、私は…ただ事実を聞いたまでだ」
「私も別に構いませんよ。それにこれは前から言いたかった事ですし」
実際初めから真琴が話していればここまで暗くはならなかっただろう。しかし、全員に事実を知ってもらう為に敢えてルーンに話して貰ったのだ。特に今はこの世界を良く知らない僕達がいるから。
「さて、それじゃあここに来た目的を話そうか」
「目的って…亡命の事?」
「そうだよ優衣。で、率直に聞くけどどうかなティターニャ?」
「…私個人としては旦那様が決めたのなら反対はしないけど…周りの種族がね。それに大人数を匿ったらさすがに隠しきれないわよ」
まぁそうだろう。ほとんどの精霊は人族を良く思って無いのだ。それに一気に大量の人がこの森へ逃げたらいくらティターニャ達でもしらを切れない。
「だよね。あ、でも人数は大丈夫だよ。実際ここに来るのは恐らく10人…増えてもそこから1人2人ぐらいかな?」
「な、どういう事だ!?」
意味が分からなかったのかルーンが疑問を上げる。
「どういう事って…そのままの意味だけど?」
「いやいや。何故亡命の人数がそんなに少ない?城内だけでも百は超えるぞ?」
「……え?」
(…いやいやちょっと待て)
「…ルーン、僕が言ったのは王族の四人と僕達四人、それにカインさんとクラリッサ先生の事だよ?」
「「「…」」」
「い、いや、何を言ってるのだマコト?」
「ま、妥当な所ね。でも私達の利益は?」
真琴の発表したメンバーに優樹菜と優衣、悠一は何も言わず悔しそうに俯き、ルーンは驚いて聞いてくる。一方でティターニャは話の続きを求める。今はとりあえずそれに乗り、話を進める。
「利益はあるよ」
「それは私達精霊の王が他の種族から反感を買っても説得出来るぐらいかしら?」
「勿論。まぁその精霊がバカでは無ければだけどね。今の王族は協会と魔族の繋がりの証拠を握っている。そしてある程度支持率もある。そんな人が手元に来たら?しかも協会が見失った状態で」
要は協会は立場のある人間が証拠を発表するのを恐れている。そんな人物がまだ死んで無いとなればたとえクーデターが成功しても派手に動け無い。そしてこちらはその本人を匿っている。恐らく教会もこの森にいるとは考えるけど決定的な証拠がなければ見失ったも同然だ。つまりいざと言う時の切り札に出来る訳だ。
「…なるほど。確かに利益が大きいわね。なら他の人は?」
「カインさんとクラリッサ先生はどちらも僕の知ってる中で教会と繋がりが無く、かつ実力は折り紙付き、しかもかなり有名。要はボディガードだね。それともし王族が戻った時の説得材料かな」
「…あんたけっこうエグいわね」
「現実主義と言ってね優衣。で、どうかなティターニャ?」
「今旦那様が言った事が全て可能なら充分に可能ね。ただ…」
「説得には僕も立ち会うよ。あと脳筋種族も任せて」
「すみません…」
精霊といっても様々な性格がある。それこそ血の気の多い種族だってある…つまり脳筋種族だ。その場合言葉よりも力で示した方が早いので僕が担当する。
(まぁ最悪霊装使えば何とかなるでしょ)
「マコト!もう良いか!?」
「…どうしたのルーン?」
待たされたせいか若干怒気の孕んだ声でルーンが問いかける。そんなルーンに対し真琴は冷静に対応する。
「どうしたって…何故だ!?何故皆を守らない!?」
「…」
「まだ三ヶ月、三ヶ月もあるのだぞ!?ならそのうちに「約21万」…?」
「今フォード帝国にいる全ての人の人数です」
「それがどうしたのだ!今は」
「それが…ですか。ではルーンはこの21万人の全てから教会との繋がりを調べてシロの人だけを何処かに亡命させられますか?…教会に全く気取られずに出来ますか?」
「そんなの!」
「やってみないと分からない?」
「っ…あぁ、そうだ!だから」
「姉さん、一度落ち着いて」
と、ここでリオンから声がかかる。その言葉にはっと顔を上げたルーンはかなり感情的になっていた事に気付き一度深呼吸をする。
「…落ち着きましたか?」
「ああ、すまない。だが実際やってみないと」
「確かに上手く行くかも知れません。でも圧倒的に失敗する確率の方が高い」
「しかし」
「ではやってみて下さい。確かにこの亡命も僕が勝手に提案した事ですし、無視して構いません」
「…?」
急に下がった真琴を訝し気に見るルーン
「でもその場合僕は優樹菜達とアルン、クロを連れて直ぐに帝国から逃亡します」
「なっ…」
「元々僕達はこの国の人間では無いので。それに今でさえ鬱陶しいのにそこから余計に教会に目を付けられるのはごめんです」
「いや、だが…そ、そうだユイ殿は…」
「ごめんなさい、ルーン。今回は私も真琴に賛成。さすがにこれ以上巻き込まれたくないわ」
「俺も同意だな。面倒事はごめんだ」
「ユウイチ殿まで…ゆ、ユキナ殿は…」
「…ごめんなさい。でも私も真琴君に着いて行く」
思わぬ孤立に愕然とするルーン。リオンは先程から何も言わず腕を組んで下を向いている。
「ではルーン、どうしますか?」
「な、何故だ!?何故そこまで考えられる頭があるのに亡命に拘るのだ?まだ他に道が」
「確かにあるかもしれません。でも勘違いしないで下さい。正直な所僕は自分にとって大切な存在を守れれば後はどうなろうが知りません。今回人選に優樹菜達を入れたのは完全に私情ですよ。僕は誰よりもこの3人に死んでほしくない。だから少しでも安全な道を模索します。その結果が今回は逃げる事だったと言うだけです」
「な…」
真琴の衝撃発言にルーンが停止する。と、その時にずっと黙っていたリオンが立ち上がった。
「マコト君、姉さんを虐めるのもそろそろ辞めてもらえるかな?」
「…失礼しました」
「姉さんも一度冷静になってくれ。何時もの調子はどうしたの?」
「いや、だが」
「何の為にマコト君が今回僕達を連れて来たと思ってる?」
…どうやらリオンは全て分かったようだ。元々今回は真琴だけで来たらもっとスムーズに終わっただろう。指示はまたアイゼン王に聞けば良い話だ。つまるところ今のこの話し合いは全くの時間の無駄と言っていいだろう。
「それとわざと外の大通りをゆっくり歩いた意味は?…あと正直な話、人選の中の王族は父上がいればそれで良い話だよ?何で姉さんが入ったと思う?だよね、マコト君」
「…王族は多い方が良いでしょう」
分かったのはいいがこんな皆の前で解説するのは辞めて下さい…。大通りをゆっくり歩いたのは周囲の種族にその存在を知らせる為だ。下手に隠すよりもいっそこちら側には公開した方が逆に安全だ。
…そしてルーン達を入れたのも正直完璧な私情だ。
(こんな真っ直ぐな人ほっとけないだろ…)
何事にも一生懸命正面から打ち込む姿は真琴にはとても眩しく見えた。だからこそここで死んで欲しく無いと思ったのだ。更にここまでの流れは言ってしまえば茶番だ。真琴がルーンにもっとしっかりと現実を見て考える事を覚えて欲しいと思ったのでやったに過ぎない。
これらの事をどう解釈したかは分からないが最終的にはルーンも亡命に賛成した。
「すまなかった…結局は全部私の我が儘だったのな」
一応は理解した様子のルーンに真琴は微笑む。
「それでもその為に必死に考えたルーンは立派です。でもこれだけは覚えておいて下さい。何事にも優先順位を決めてから行動する事。絶対に譲れない物を明確にしておく事。…そうしないと本当に守りたい人や物を守れなくなる」
「…どうやらそのようだ。今回私の我が儘で危うく全員が死ぬ所だったよ」
「次に繰り返さなければそれで良いんだよ。幸い今回は未然に防げたから。でも優先順位は間違えないで。失ってから気付く程悲しい事は無いよ」
いつの間にか眠ってしまったアルンとクロの頭を撫でながら真琴は少し寂しそうに告げた。その言葉に優樹菜達は何か言いたそうにしたが結局静かにしていた。とにかくこれで内々の話はまとまった。
(…何とかなったな)
最後が全部リオンに持って行かれた気がしたが、一応ひと段落ついてほっとす真琴であった。
いかがでしたか?
タイトルの通りルーンは王族として皆を守ろうと考えて、真琴は友達として優先的に助けようと考えました。
その結果が今回のこの話です。
どちらが正しいのかは立場や捉え方で変わるのであくまでも今回はこうなったと言うだけです。
リオンはティターニャ大好きですが、やる時はしっかりやる男です。…一応次期国王の予定ですからね。
長くなりましたが、読んで頂いてありがとうございます。また感想などを頂けたら嬉しいです。




