第40話 最悪の手前
その後は皆の現状確認を行った。
簡単にまとめると
・真琴が倒れた事は皆知っている
・これが原因で真琴が勇者のリーダーである事に男子生徒や周囲の人が不満を持ち始めた
・今はまだ真琴を除く代表、副代表が統制を取っているが不良グループはほとんど聞かず勝手に行動している
・良太たちが謎に強くなっている
等々…
「良太たちが謎に強いって?」
「ああ、良太の取り巻き達なんだけどな。半分くらいがダンジョンに参加して無かっただろ?帰って来てみたらなんか凄く強くなってたんだよ。俺達じゃ抑えられないぐらい」
「何だそれ?確か悠一達はかなり上の方の実力だっただろ?」
「それが不思議なのよね。本人達は特別訓練してたとか言ってるけど多分嘘でしょ」
「…となると、教会が何かしたか」
「うぅ…あんまり考えたくないね」
「とにかく一部の奴らが暴走していると」
「そうね。もう毎日のようにメイドさんとかからセクハラされたって…幸い最悪の事態には至って無いみたいだけどね」
「とはいえ放置は出来ないか…ちなみに優樹菜達は大丈夫だった?」
ふと嫌な予感がして訪ねてみると優樹菜と優衣は顔をしかめた。
「まぁ大丈夫とは言えないわね…」
「何回か強引に連れて行かれそうになったし…」
「ギリギリで悠一とかあんたの友達とかが気付いて助けてくれたから被害は無いけどね」
どうやらゆっくりは出来ないようだ。
(思ったよりも最悪だな…優樹菜達に手を出すか…クズ共め)
内心で怒りを募らせながらも対策を考える。黙ってしまった真琴に優衣が声をかける。
「真琴、教会はどうするの?」
「あぁそれはとりあえず詳しい人に聞こうか」
「詳しい人?」
訳が分からず優樹菜達は首を傾げる。しかし精霊二人は分かったようだ。
「アルン悪いけど呼んで来てくれるかな?」
「任せて!」
アルンは扉まで走って行くと外側にいた人を引っ張って来る。まぁルーンなのだが。
(いつまでいるのか気になったけどまさか扉の前でずっと止まっているとは…)
数分前から外に人影が見えたので恐らくルーンだろうと思っていたけどまさか本当に当たってるとは。
まさか気付かれていたとは思わなかったルーンは若干気まずそうにしながら入って来た。
「あー…そのマコト殿が目覚めたと聞いてな。怪我はどうだ?」
「お久しぶりです。まぁ見ての通りですね」
そう言って軽く左腕を振る。それをルーンは痛ましそうに見ていた。
「まぁそんな事より。ルーンは今までの話は聞いていた?」
「あ、あぁ。大体は把握している」
「そんなに前からいたのね…」
優衣が呆れ、ルーンは顔を真っ赤にして俯く。しかし今は現状確認を優先する。
「単刀直入に聞きます。教会と王族の現状は?」
「…正直に言おう。貴族共がほとんど教会に付いて父上を何とか退位させようと色々画策している。それに兵士も釣られるから現状8割程乗っ取られているようなものか」
それからルーンが語ったのは最悪に近い状態だった。
・真琴が倒れた事をネタに教会が騒いだ
・それにより王族派の貴族はほとんど(というより全員)寝返った
・兵士達もほとんどが教会側についている
等々…
「最悪ですね…」
「すまない…私が腑甲斐無いばかりに…」
思わず出た言葉にルーンが縮こまる。
(ああ、何してるんだ僕は。こんな事しても仕方無いのに)
慌ててフォローを入れつつ今後を考える。
「でも何でこんなに内政が荒れているんだ?仮にも魔王が出たんだぞ?」
それは起きた時から気になっていた事。が、その言葉にルーンが俯く。そして悠一達は若干怒っている。それを見て何となく察っした真琴は頬が引き攣る。
「え…まさか」
「その…恐らく合っている。勇者のリーダーマコトは自分だけ力が無い事に焦り功績を立てようと独断専行した。その結果ダンジョンのトラップにかかり集団催眠に陥る。その時に魔物に襲われ一行は大打撃。リーダーマコトは怯えて逃げ、その場にいた兵士長ガルムの英断により撤退。剣士カインが討伐に向かうが、敵はいなかった。マコトはショックで寝込んでいる。なので今回の騒ぎは功績を焦ったマコトがでっち上げた嘘である。
…これが公式発表だ」
…何だよそのこじつけは。怒りを通り越して呆れるどころかむしろ感心するわ。
「ん…ちょっと待って、今回の一件は嘘だって言った?」
「あ、ああ。そうなっている」
真琴が怒ると思ったルーンは怯えながらも答える。しかし今の真琴はそんな事より重要な事があった。
「…じゃあ何も対策をしていないって事?」
「残念ながらそうね。私達も訴えたけど催眠状態だったの一点張りで話を聞かない」
「なら…魔王については」
「そんなのこんな所にいる訳無いってバッサリ」
「嘘だろ…」
優衣が呆れた顔でため息をついて手刀を上下に揺らして切られたジェスチャーする。
と、そこにルーンが遠慮がちに質問した。
「その…マコト殿は怒って無いのか?」
「そりゃ現に今怒ってるよ?このままだと関係無い市民まで巻き込まれる。なのに何もしないなんて…」
「いや、そうではなく…今回の騒動が全部マコト殿の妄言で、壊滅したのもマコト殿のミスだと言う事になっているのだぞ?」
「そんなのどうでも良いよ」
「……え?」
「大体僕はあの場で何も出来なかった。最後倒れたのは事実だし、途中だって僕がしっかり戦えればこんな被害受けなかった訳だからね」
「そ、そんな事はない!」
「あるよ。実際僕の指揮のせいで怪我人が沢山出た。優樹菜達だって危うく死にかけた。そういう事だよ。
とりあえず今はこの国だ。今のまま魔王が来たら確実に負ける。最悪…いや、恐らく皆殺しという形で」
真琴が対策を考え出すとルーンはまたそれを否定しようとするが悠一と優衣がそれを止め、少し離れた所にルーンを連れて行く。
真琴は考え中なので動かずアルンとクロが心配そうに見ている。そんな様子を見て優衣はため息をついた。
「無駄ね…私達も何回も言ったけど自分が駄目なんだってずっと言ってる。これ以上言うと責任感じ過ぎてあいつ潰れるわ」
「いや、しかし…ユキナ殿達の話では…」
「それは分かってる。今回あいつがいなかったら俺達は今ここにはいない。そんぐらいの事をやったんだよ。でもあいつはそれを考えないよ。むしろもっと上手く出来たと嘆く。ずっとそうなんだよ」
悠一と優衣は悲しそうに語る。それは自己肯定感が低いとかの次元では無い。むしろ否定から入っている、それも異常な程に。それを聞きルーンも真琴の過去に何かがあったと推測するが何かは分からなかった。
「ま、とりあえず優樹菜に任せてみましょ」「そうだな」
「え?何故ユキナ殿なんだ?」
「まぁそのうち分かりますよ」
そんな優衣の容量の得ない返答にルーンは前とは違う事に悩むのだった。
一方そんな事は知らない真琴は思考の海に沈んでいた。
「真琴君」
そんな真琴を見かねた優樹菜が声をかける。まだ考えていたのでそのまま答える。
「ん?どうした?」
「とりあえず今日は休んだら?まだ病み上がりだよ?」
「え?いや充分休んだし、それよりも…」
「真琴君?」
「ん?…どうした?」
「真・琴・君?」
「は、はい!」
声の感じが変わったので慌てて顔を上げる。その時、真琴はにっこりと笑って真琴を呼ぶ優樹菜を見た。…目が笑って無かったが。
「さっき言ったよね?真琴君病み上がりなんだよ?それに前から言ってるよね無理しないでって」
「い、いや…だから「言ってるよね?」…はい」
最後は優樹菜の笑顔に敗れる真琴。
「ほらね?とりあえず優樹菜の言う通りあんたはもう少し休みなさい」
「そうそう、医者がお前は1ヶ月は目覚めないとか言ってたんだぜ?それを3日で起きたんだ、ちょっとゆっくりしてろ」
(え?僕1ヶ月は起きなかったの…)
今さらっと明かされた事実に若干驚く。よく目覚めたな、僕。
「…ですからまだ彼は…」
「司祭様が…」
「とりあえずまだ…」
「直ぐに……から」
そんな時に外が騒がしくなる。誰かが言い争っているようだ。アルンとクロが不安そうに真琴にしがみついた。その時、唐突に扉が開き兵士が3人入って来た。
「ちょっとあなた達!」
後ろから女性が叱咤する。クラリッサ先生だ。しかしそんな先生を無視して兵士達は真琴達の下へ来た。守るように悠一達が間に入り対峙する。
「勇者マコト。あなたに事情聴取を行います。即刻謁見の間に来るようにとのご命令です。ご同行願います」
「…もし断ったら?」
「力づくでも良いと許可が出ています」
兵士はあくまでも淡々と告げるが、その手は腰の剣にかかっていた。
(ここで騒ぐのは得策では無いな)
そんな兵士に優樹菜達が何か言おうとする。…精霊二人に至っては魔力を練っていた。それらを右手で制すると優樹菜の手を借りて立ち上がる。
「分かりました。同行しましょう」
「マコト君!こんな事に従う必要はありません!むしろ君は寝ていなさい!病み上がりなんですよ?起きたのさっきでしょ!ていうか何でもう起きているんですか!?」
クラリッサ先生によるマシンガン的な質問が飛んできた。
(何でって…目が覚めたから?)
が、それさえも兵士は一蹴する。
「あなたは少し黙っていて下さい。これは王命です。国家反逆罪にかけますよ?」
「くっ…」
流石に王命に逆らう訳にはいかず、クラリッサ先生は悔しそうに黙ってしまう。とりあえず真琴が歩き出すと優樹菜が支え、後ろからアルンとクロも来た。すると兵士は(わざとらしく)思い出したように告げる。
「あ、そうそう。謁見の間には勇者マコトだけしか呼ばれて無いのでそれ以外の方はご遠慮下さい。勿論、精霊様も」
「な、ふざけないで!」「アルン知らない」「あんた達舐めてんの?」
その言葉に優樹菜がキレ、アルンは無視し、クロがドスを効かせた声を出した。黙って聞いていた悠一と優衣も軽く半身になり臨戦態勢になる。その空気に兵士達が一歩下がるが、唯一真ん中の今まで話していた兵士だけは余裕を浮かべている。
「ああ、そうですか。では断りますか?別に構いませんよ?力づくではこちらが不利ですしね」
やけにあっさり引く兵士に真琴達は不審気な目を向ける。それを見た兵士はニヤリと笑って告げた。
「…ただ、食事や入浴、睡眠の時は注意した方が良いかもしれませんね」
何の脈絡の無い言葉に束の間の静寂が訪れる。が、その言葉を理解した人は内心で怒り狂った。要は、断ると殺すぞと言われたのだ。
入浴や睡眠は無防備になる時間、食事では毒を盛られる可能性もある。それらの可能性を兵士は言ったのだ。
(この…クズが!人権は何処に行った!?)
どれだけ喚こうが基本的な生活を国に頼っているので言い返せないのが僕達の現状だ。
(断ったら…最悪優樹菜達が…)
「…分かりました。僕一人で同行します」
真琴の言葉に優樹菜達が驚いて振り返った。兵士は真琴の返答に鼻で笑う。
「最初っからそうすれば良いのですよ。では参りましょうか」
優樹菜が止めようとするが優衣が後ろからそれを止める。瞬間優衣と目が合う。
(…頼んだ)
軽く頷きながら優衣は優樹菜を落ち着かせる。精霊二人は無理矢理でもついて行こうとしている。
「アルン、クロ大丈夫だよ。事情聴取だけだから」
「でもあいつら」
「クロ、僕は大丈夫。アルンを頼むよ」
2人の頭を撫でて安心させるように笑い、黙ってしまった二人に背を向け真琴は歩き出した。
はは…まるで今から処刑されるみたいだな…
その可能性が有り得る事は誰よりも真琴が知っていた。
いかがでしたか?
ちょっと暗い展開が続きますがご容赦を…




