閑話 ある冬の1日 (中)
「真琴行け!」「っ!頼む!」
悠一の言葉を受けて優衣達の横を駆け抜けた。
(頼んだぞ悠一!)
若干不安ではあるがそれよりも今は優樹菜だ。騒ぎに気付いたのか車から男が1人出て来た。
「おうおう、兄ちゃんカッコイイね。彼女の連れかっふごっ!?」
相手が何か言っているが問答無用で蹴り飛ばす。
「てめぇ!」
更に男が出て来たがこちらも十秒ほどでご退場願う。普段ならもっと丁寧にやるのだが今は一切手加減せず、本気で叩き潰す。
幸いだったのは狭い路地である事と相手がまともに準備する前に攻撃している事だろう。でないと流石にこの人数はキツイ。
「優樹菜!!」
2人を倒してワゴン車に駆け込む。するとそこには破られた女性物の服と下着姿になった優樹菜、そして彼女に覆い被さる男の姿だった。
「ッッッッ!!!」
最早声にならない程の怒りに染まりながら相手の襟首を掴むとフロントガラスへ投げつける。咄嗟に男は椅子を掴んで耐えるが更に真琴は男の腹に蹴りを入れる。その威力に耐えられず男はフロントガラスに激突し気絶した。
「っ!優樹菜!」
我に返って優樹菜の方を見る。
「ひっ!来ないで!」
未だ混乱しているのか優樹菜は涙目で後ずさる。幸い最悪の事態へは至って無いようだが両手両足は紐で縛られていた。
(クズ共め…!)
改めて男達へ怒りを募らせながら優樹菜の前で膝を付いた。
「こ、来ないで!」
余程混乱しているのか相手か真琴だと認識していないようだ。だがあれだけの事をされたのだ。仕方ないだろう。
(とりあえず落ち着かせないと)
真琴は自分のコートを脱ぐとそれを優樹菜に掛けてその上から抱きしめた。
当然、優樹菜は暴れて真琴の腕などに引っ掻き傷が出来る。
「いや!離して!」
「優樹菜!」
「いっ!…あ、真琴…君」
少し強く名前を呼ぶとようやく相手が真琴だと気付いたようだ。
(まだ少し怯えているな…)
落ち着いたのを見計らって一度優樹菜から離れる。
「優樹菜、良く頑張ったね。もう大丈夫だ。優樹菜を傷付けようとした奴らは皆倒したから。優衣も悠一がいるから大丈夫だ」
ゆっくりと言い聞かせるように話しながら手足の紐を解く。次第に状況を理解して安心して来たのか手足の力が抜けていく。紐を解き終えると両手を握って優樹菜と目を合わせ、一言一言噛み締めるように告げる。
「もう大丈夫だ。皆無事だよ。お疲れ様、優樹菜」
その言葉をきっかけに優樹菜は真琴に抱きつきながらボロボロと泣き出した。
「ま、真琴、君!怖かった…怖かったよ…」
「あぁ、怖かったね。でももう大丈夫だ」
「うっ…あ、わぁぁぁぁ」
ようやく助かった事を理解し、自分の胸で泣きじゃくる優樹菜を真琴はゆっくり抱いて背中をさする。
(あぁ…本当に無事で良かった)
優樹菜の体温を感じながら真琴は心からそう感じた。
数分後、落ち着いたのか優樹菜が身体を起こした。
若干気恥しそうにしているが、もう先程までの怯えの色は無い。
「落ち着いた?」
「う、うん。ありがとう真琴君」
「そっか、良かった」
そう言って笑うと優樹菜は再び俯いた。若干顔が赤い。
「…あ、真琴君その傷」
と、顔を下げた時に真琴の腕の傷を見つけて優樹菜が焦る。
「ん?あぁ大丈夫だよこれぐらい。唾付けとけば治るって」
「だ、ダメだよ。って首まで!ちょっと見せて!」
そう言って優樹菜が傷口をみようと近寄って来る。
「うぇ!?ちょ、優樹菜!前、前!」
「え?ひゃ!?」
忘れていたが今の優樹菜は下着の上からコートを羽織っただけだ。
つまり前はオープンな訳で…
「…真琴君のえっち」
「す、すみませんでした…」
見てしまったのは事実なので素直に謝る。そして2人で顔を見合わせると不意に笑ってしまった。優樹菜が前を閉めて一息つくと真琴は告げた。
「さて、そろそろ出ようか。悠一達も終わっているだろ。優樹菜立てる?」
「うーん…ちょっと待って」
先程まで縛られていたせいか足首が鬱血して上手く立てないようだ。
「ごめん、先行っててくれる?」
「それは無理でしょ。ちょっと失礼」
「え?きゃっ!」
立てないでいる優樹菜の背中と膝裏に手を回して抱き上げる。所謂お姫様抱っこと言うやつだ。
「ま、真琴君下ろして。重いでしょ」
「いや全然。それとも嫌だった?」
「ちがっ、でも…あぅ…」
遂に顔を赤くして俯いてしまった。それでも抵抗せずしっかり真琴の服の裾を掴んでいる辺り、そこまで嫌では無いようだ。
そして悠一達の方へ行くと、優衣と手を繋いで座り込んでいた。
「や、真琴お疲れ様。そっちも無事だったようだな。ところで優樹菜はどうした?まるで王子様とお姫様みたいだけど」
「悠一こそお疲れ様。ちょっと足が鬱血していてね。そっちこそ随分仲良くなったようで何よりだよ」
悠一がからかってきたので真琴が手を繋いでいる事を指摘すると2人は慌てて手を離した。
「ん、んん!と、とりあえず皆無事で良かったわ」
仕切り直すように優衣が話す(若干顔が赤い)。
「そうだね。とりあえず一回どこかで落ち着こうか」
「あ、なら私の家が近いからどうかな?」
「優樹菜がそれでいいならそうしましょうか」
反対意見無しで4人で優樹菜の家へ向かう。
え?男達?そんなの知りませんよ?どうなろうが自業自得です。
「ただいま」
「「「お邪魔します」」」
所変わって遠藤家宅。幼少の頃から時々遊びに行かせて貰っているのだがいつ来ても思うのは優樹菜の家は大きい。家もそうだが庭もとても広い。確かお爺さんがどこかの社長でお父さんも建築業の課長さんだったかな?まぁとりあえずそんな大きな家に毎度の事ながら少し気圧される。
「あら、皆いらっしゃい…て、どうしたの!?その格好!」
奥から優樹菜のお母さんが来て僕達の姿に悲鳴を上げる。
(そういえば優樹菜を抱えたままだった)
騒ぎに気付き、優樹菜のお父さんが来てまた悲鳴を上げ、たまたま来ていたらしい優衣の両親が更に…気付けば玄関で質問タイムが始まろうとしていた。
「と、とりあえず上がらせて」
優樹菜の一言で全員リビングへ移動。
「その前に優樹菜と優衣はお風呂でも入って来たら?事情説明は僕達でやっておくから」
今更だが全員怪我してたりボロボロだったり(優樹菜に至っては服が無い)したので女性方にお風呂を勧める。ちなみにこの家はお風呂まで広い。どこかの温泉といっても差支えの無い程だ。
その言葉に改めて自分達の格好を見直して礼を告げると優樹菜達はそのままお風呂へ向かった。お母さん方も心配なのか付いて行き、リビングには僕と悠一、優樹菜と優衣のお父さんの4人になった。
「さて、真琴君悠一君。本当ならゆっくりして欲しい所だけど事情を説明して貰えるかな?」
その言葉を受け、順番に説明し始めた。
「―という事です。僕達のせいで優樹菜達を危険な目に併せてしまいすみませんでした」「すみませんでした」
結果的に助かったとはいえ、あの時に喧嘩しなければこんな事にはならなかったので頭を下げた。隣で悠一も頭を下げる。
「い、いや頭を上げてくれ。娘を助けて貰ったんだ。むしろこちらが下げる方だよ」
「あぁその通りだ。悠一君、優衣を助けてくれてありがとう」
「真琴君も優樹菜を助けてくれてありがとう」
その言葉でやっと一息つく。
「さて、とりあえず君達は怪我の治療だ。特に真琴君の腕や首はどうしたんだい?」
「え?あぁちょっとドジ踏みまして…」
流石にお父さんの前で娘さんに引っ掻かれましたとか言えねぇ…
そんなこんなで世間話をしながら怪我の治療を進める。
「で、で?ところで悠一君、君から見て優衣はどうかな?」
「は?え、あー…可愛いですね」
「だろ?そうだろ?ところが浮いた話1つ無いんだよ。親としても困った事でね」
「は、はぁ…」
「そこでだ、悠一君。君はまだ彼女は居ないのだろ?優衣はどうだい?」
「…へ?」
そして始まる親バカトーク…
悠一も大変だなと思いながら消毒していると唐突に優樹菜のお父さんが話しかけて来る。
「おお、なるほど。となると真琴君。君も彼女は居ないよね。どう?お父さん真琴君となら許しちゃうよ?」
「え?あ、えーと…」
ていうかそもそも何でこの父親2人は僕達の恋愛事情を知っているのか…いや確かに彼女居ませんけど…
そしてこの状況。幼馴染みの美少女2人の親が付き合う事を勧めてくれる。通常なら喜ぶべきなのだがどうしたものか…
「お父さん…?」「一体何してるの?」
ブリザードのような冷たい声が聞こえた。見るとお風呂から出たのかさっぱりした優樹菜と優衣が絶対零度の眼差しを父親へ向けていた。
「…優樹菜、お風呂借りて良い?」
「うん、どうぞ」
「ありがとう、悠一行こうか」
「そうだな、優衣も後でな」
「ええ、ごゆっくり」
「あ、なら私達も一緒に…」
「あ、そうですね…」
「「お父さん?」」
「「はい…」」
ここは戦略的撤退を計る。という訳で流れに乗れず若干怯えている父親達を残して僕達はお風呂へ向かった。
優樹菜達から事情を聞いたのか2人の母親にも感謝された。一緒にお風呂へ入ったのか頬が上気している。
「本当にありがとうございます。真琴君のおかげで優樹菜は…」
「いや別にそんな…」
「悠一君も本当にありがとうね」
「あ、いえ…」
どうも他人に感謝されるのは慣れないな…。特に今回は原因の1つが自分達のせいでもあり、少し気まずい。
「ところで真琴君、優樹菜の事はどう思いますか?惚れていますか?優樹菜は満更でも無いようですが…」
「え?あ、あの…」
「悠一君も優衣の事は好きですか?優衣はちょっと暴力的ですけど基本可愛い娘ですよ」
「うぇ!?あ、いや…」
唐突な話題転換。しかも先程よりもドストレートに聞いて来る。
「「お母さんまで!」」
と、そこに優樹菜と優衣が乱入。
「ま、真琴君!今のは忘れてね!お風呂どうぞ!」
「あ、ああ」
「悠一も!気にしなくて良いからお風呂入って来なさい! 」
「お、おう」
「あらあら」「照れちゃって」
「「お母さんは黙ってて!」」
そして2人は赤面しながらリビングで両親に説教していた。
「…お風呂行こうか」
「…そうだな」
触らぬ神に祟なし。
大人しく2人でお風呂へ向かう。
悠一と優衣が付き合い始めたと聞いたのはそれから2ヶ月ぐらい後の事だった。
という感じで真琴視点でした。
幼馴染みだけあって考える事も似たり寄ったりですね




