第38話 新たな敵
唐突に落ちたと思ったら真琴君が抱きとめてくれた。
「ごめんね。もう、大丈夫だから」
気遣うようにゆっくり話しかけてくれる。
その声に安心したのか私は泣いてしまった。
それでも真琴君は優しく頭を撫でてくれた。
私が覚えていたのはそこまでだった。
○○真琴side○○
よっぽど気を張っていたのか腕の中で優樹菜は泣きながら寝てしまったようだ。安心しているのか気持ち良さそうな寝顔だ。
「な、マコト!?貴方は一体!?…いやその姿…まさか!」
(五月蝿いな…せっかく優樹菜の寝顔堪能してたのに…)
若干見当違いな事に怒りながら前を見るとサティバが唖然とこちらを見て何かに気付いたように目を見開いた。
「ずいぶんと…派手にやってくれたね」
奥を見るとボロボロの優衣と悠一、更に奥に倒れている他の生徒がいた。とりあえず優衣達の方へ行く。
「2人とも大丈夫?」
「俺達は大丈夫だけど、真琴…お前も無事だったんだな」
「あんたは…本当に迷惑かけるわね」
「でもその格好お前どうしたんだ?」
それは優衣も疑問だったようでこちらを改めて見た。今の真琴は機械的な翼を背中に背負ったような格好だ。そして腰には左右一対の刀が差してある。
「ごめんね悠一、優衣。後で全部説明するよ。だからちょっと待ってて、直ぐに終わらせるから」
詳しく話すには時間がいる。その為にも大事な幼馴染み達をここまでした奴をぶっ飛ばさなければ…
優樹菜を優衣に預け、静かに怒りを募らせながら改めてサティバを見る。
「まさか…も」
最後まで言わせず膝蹴りをかます。サティバが吹き飛ぶ。
「僕は大抵の事は許そうと思っているよ?でも僕の幼馴染みに手を出した奴は誰であろうと絶対に許さない。それをお前は犯してしまった。だからお前をここで…」
話しながら静かに抜刀する。
「殺す」
宣言と共にサティバを頭から両断した。目では追えない。音さえも置き去りにする速度でサティバを斬り伏せる。あまりにも圧倒的な力に誰も声を上げられない。それを見ながら真琴は何事も無かったように納刀すると優衣達の方へ向かった。
「あ、あんた…その力は?ていうかその背中の翼は…」
「これは"霊装"、精霊の力を更に引き出した状態だよ。まぁまだこれだけしか出せないし、出すのも時間がかかる。更には出力も上手くコントロール出来ないんだけどね。さっきはこれを使って僕は崖から這い上がって来た」
これが真琴とアルンの切り札。しかし、まだ制御が出来ず一歩間違えると暴走してしまう為今まで使えなかったのだ。そんな真琴の説明を受けてほとんどの生徒は畏怖するように真琴を見た。そんな視線に悲しくなる。
(まぁ…そうだよな。急にこんな奴いたら怖いよな。優衣や悠一、優樹菜だって…)
「すげぇな!真琴!」
「…え?」
予想とは違う悠一の言葉に間の抜けた声を上げてしまう。
「ん?どうした?お前は霊装ってのを使って俺達を助けてくれたんだろ?すげぇじゃん」
そう明るく言って背中を叩いてくる。
「はぁ…落ちたと思ったら急にそんな格好で復活したから何があったかと思ったら…やっぱり真琴は凄いわね。助けてくれてありがとう」
そう言って優衣も礼を告げた。
「ふ…二人は僕が怖くないの?」
それは真琴がある意味何よりも恐れていた事。だが、そんな真琴に悠一と優衣は可笑しそうに笑った。
「急にどうした?真琴。何でお前を怖がるんだよ」
「そうよ。あんたはあんたでしょ?」
そんな二人に心の中が軽くなる。
「ありがとう…」
「本当にどうしたんだよ真琴」
「きっと疲れたのよ。さ、帰りましょ」
(やっぱり二人には敵わないな…帰ったらちゃんと全部話さないと)
二人に心から感謝し、自分の過去を話す事を決意して歩き出す。
しかしその瞬間
『『マコト!!!!』』
(!?!?)
アルンとクロの絶叫がした。本能的に振り返り抜刀する。
その刀に後方から飛んで来た魔法があたり弾き飛ばす。
「おいおい…まさかこれで終わりとか思ってんのか?」
背筋の凍る、本能が恐怖する声が響く。本能的な恐怖と共に後方を振り返った。そこには2体の女性の魔族と真ん中に仮面を付けた男性の魔族が1体飛んでいた。
(なんだあいつら…サティバより桁違いに強い。特に真ん中はヤバい、今の僕では)
「悠一!優衣!優樹菜を守りつつ後退!ガルムさん!今すぐ撤退して!」
構えながら指示を飛ばす。まぁガルムさんたちの方は生徒が指示の前に逃げ出しているから大丈夫だろう。
「はっ!聞いたか?撤退だとよ?興醒めだなぁ」
「全くですね魔王様」
「ですがあの坊やはちょっと良いですね」
(…魔王…だと?ハッタリか?いや、でも)
まさかの魔王の登場に動揺しつつも指示を飛ばす。この圧倒的な力から恐らく奴は本物だと思う。仮に偽物の魔王だとしても今の僕達では瞬殺される事間違いなしだ。
「二人とも早く下がれ!」
「真琴!お前は?」
「後から行く」
「あんたまさか…」
「今は優樹菜を守って!大丈夫、直ぐに行く!」
こんな所で自己犠牲なんて考えていない。スキを作って直ぐに真琴も逃げるつもりだ。尚も残ろうとする二人に怒鳴る。
「いいから行け!邪魔だ!」
流石に悠一も優衣も彼我の戦力差は分かるので二人とも悔しそうにしながら下がろうとした。
「だぁかぁらぁ!逃がすかっての!」
しかし相手は待ってくれないようだ。左右の女性の魔族が二人に襲いかかる。
「ふざけるな!」
片方に魔法を放ちもう1人を剣で飛ばす。
「ほう…」「やりますね」
しかし相手は無傷で立っていた。
(くそ…マズイ)
「3人には触れさせない」
二刀流で構え対峙する。
「お前さぁこの俺様を無視する訳?」
「…え?ぁ…がぁ!?」
そんな声と共に真琴は地面に叩きつけられた。例の魔王だ。
「霊装とは言え未だ未完成か…でもま、こんなもんか」
真琴が地面に落ちたそのスキに2体が悠一達に向かう。
「行かすか!」
真琴はローブの裾からある物を飛ばす。
「な!?」「これは…」
それは細長い板状の武器だ。先端は剣のように鋭くなっている。そして最大の特徴は真琴が敵と定めた相手に自動で襲いかかるという事だ。やむを得ず応戦する2体に魔法を飛ばして牽制する。
「くっ…」「邪魔ですね」
(あと少し!)
後ろでは悠一達が階段の手前まで来ていた。それを確認しながらも真琴は逃げ続ける。何せ2体の魔族を同時に相手をしているのだ。まともに戦っていたら確実に負けてしまう。
(…!あの魔王は何処に行った!?)
しかし気づけばあの男の魔族がいない。
「なぁーあいつ俺様を無視するからお前ら相手してくんない?」
魔王の声が聞こえた。
後方で
(まさか!)
そこには悠一達の前に立ち塞がる魔王がいた。優樹菜も目覚めたようで3人共、急に表れた魔王に硬直している。
(くそ!最悪だ)
慌てて悠一達も応戦しようと剣を構えるが、彼らの間には圧倒的な実力差がある。
「余所見とは」「いい度胸」
駆け付けようにも2体の魔族が妨害してくる。
「と、言う訳でぇ、どもうあの坊主はお前らを逃がしたいようだからお前らから潰すわ」
仮面の魔族は腕を上げると魔力を集めながら悠一達へ向けた。
(アルン!クロ!接続を切れ!)
『マコト!?』『あんた何を!』
躊躇は一瞬、ためらいを振り捨てこの状況の打開策を実行する。時間が無いので一方的にアルン達との接続を切ると同時に2体の魔族の剣が襲いかかる。
そして仮面の魔族は悠一達に極限まで圧縮した黒い槍を放った。
ガァァァァァァァン!!!!!
着弾と共に凄まじい音と地響きが発生する。その衝撃で横の壁も崩落し、土埃が舞い上がった。
「さぁてと。あとはあの坊主だけだな」
姿は見えないが、あの状況なら確実に死んだだろう。真琴の絶望する姿を想像し、優越感に浸る魔王の元に2体が戻る。
「申し訳ありません」「取り逃しました」
「何!?じゃあ坊主…は?」
疑問を浮かべる仮面の魔族の脇腹から唐突に剣が生えた。それは真琴の腰に差してあった剣だ。
「…え?」
「ま、こと?」
「真琴…君?」
「何故…お前がそこにいる?」
剣が飛んで来た方向…悠一達は頭上を見て唖然と固まっている。その視線の先にはボロボロで至る所から血を流し、左腕を無くしながも魔王を睨みながら滞空する真琴がいた。
一応この魔王は本物です。
左右の2体は側近的なポジションです。




