第37話 切り札
身動きがとれない。激痛で意識が途切れかける。何とか抜けようとするが全く動けない。
(くそ…やっぱり無理か)
諦めかけて前を見るとサティバが槍を構えている。その後ろでは優樹菜達が最後の1体を倒し、こちらを見た。次の瞬間こちらに巨大な槍が放たれる。
(これは…死んだかな?)
「いやぁぁ!真琴君!」
視界の隅で優樹菜が手を伸ばして泣きながら僕の名前を叫んだ。その言葉に途切れかけた意識がはっきりとする
(…ざっけんな!!ここで死ねるか!)
決意を固め迫り来る魔法を睨む。
『マコト!任せて!』
最高のタイミングで応えた相棒に自然と口の端が上がった。着弾の直前、切り札をきる。まだ諦めない、方法は残っている。
(いくぞ!!)
そして僕は炎に包まれた。
○○優樹菜side○○
「いやぁぁぁ!」
前を見るとボロボロで空中に浮いている真琴君と巨大な槍を構える敵の魔族が見えた。私は咄嗟に手を伸ばしたけど真琴君は何も出来ず爆発してしまった。黒い人影が崖の底へ落ちて行く。それは酷く非現実的に思えた。
「う、嘘よね?ね、真琴君?あれ?どこ?真琴君?」
目の前に手を伸ばすけどいつも握ってくれる温かい手は無い。
心配そうに名前を呼んでくれる声は聞こえ無い。
とても優しく微笑んでくれる姿は見えない。
「いや、いやいやいや…真琴君…あ、あぁぁ…」
「…きな!優樹菜!!」
「…あ」
「しっかりしなさい!あいつがあの程度で死ぬ訳無いでしょ!」
肩を掴まれて顔を上げると泣きかけの顔の優衣ちゃんがいた。後ろでは悠一君が憤怒の表情で魔族を睨んで剣を構えている。
分かってる。その言葉は気休めに過ぎないと。生きていてほしいけどあの状態では奇跡でも起きない限り無理だと。頭では分かっているけど気持ちが受け入れ無い。私は立っていられず座り込んでしまった。
「優樹菜は休んでなさい。私はあいつを…ぶっ飛ばすから!」
優衣ちゃんはそう言うと剣を抜いて前を向いた。
「構えろ!こちらに来るぞ!!」
横ではガルムさんが何とか立て直そうと檄を飛ばす。その言葉を受け兵士が立ち上がるが、生徒は未だ動けずにいた。目の前で見知った人が死んだ事に少なからずショックを受けているようだ。
(もう…どうでもいいかな)
『ご主人!落ち着いて!』
(え?…あ!)
私の精霊の声にはっとした。違う。私も戦って真琴君の敵を取らないと…
『だから落ち着いてって!多分ご主人の友達なら大丈夫だよ!』
私はその言葉に思考停止してしまう。
(え?何で?さっき確かに)
『普通の人なら死んでしたでしょうね。でもあの二人…いや、三人かしら?まぁとにかくあの人は生きてるわ』
(え?ど、どういう事?)
『まぁその内分かるわよ。それよりも前、注意した方がいいわよ?』
精霊が何を言っているのか気になったけど魔族がこちらに向かって来たので慌てて立ち上がる。
「さて、残るは貴方達ですか。マコトは1人で私を楽しませてくれましたが貴方達はどうでしょう…ね!」
そう言うとサティバは無数の《ファイア》を飛ばした。
「た、盾組構えろ!」
咄嗟にガルムが指示を出すがほとんどの生徒が対応出来ず次々と倒れていく。周りは一気に混乱し、統制が取れなくなった。
「優樹菜!とりあえず俺の後ろに隠れろ!」
何とか防いでいた時に悠一君と優衣ちゃんが来て私の前で盾を構えた。話さなくても、自分の役目は理解している。悠一君が前で魔法を盾で防いで、漏らした魔法を優衣ちゃんが隙間から剣で叩いている。私は後ろで二人に回復魔法をかけていく。
やがて魔法の雨は止まった。周囲ではほとんどの人が倒れ呻き声が上がっている。ガルムさんも頭から血を流して倒れていた。そんな状況をみてサティバは落胆した表情を浮かべた。
「はっ、この程度ですか?勇者とは。こちらは情報通りですね。ならばやはりマコトが規格外だったと言う事ですか。ま、もういませんがね」
「情報?」
思わず呟いた私の言葉にサティバは反応した。
「おや?生き残りですか。少しは骨のある勇者もいたのですね。ならばこれは?」
そう言うとサティバは拳大の石を無数に銃弾のごとく悠一に向かって飛ばした。が、3人で連携して迎撃する。
「ほう…面白い。次はこれです」
まるで遊ぶかのような言葉と共に前方から矢や槍、銃弾など様々な形の魔法が飛んで来た。
「散れ!」
受けきれないと判断した悠一達は散開する。悠一自身も瞬時に装備を外し身軽になりサティバに斬りかかる。
「確かに良い剣筋です!しかし、遅い!」
悠一の剣を躱したサティバは回し蹴りで悠一を吹き飛ばした。しかし追撃を掛けようとした時に死角から優衣が突撃する。そのスキに優樹菜は悠一に回復魔法をかける。
「ほう、見事な不意打ちです。しかしこちらは軽いですね」
今度は優衣が吹き飛ばされた。しかし、また追撃をしようとするサティバに優樹菜は魔法を放つ。
「…む?」
これもあっけなくサティバに迎撃されてしまう。
(でもこれで!)
サティバの死角から再び悠一が斬りかかる。そして優衣にも回復魔法をかけて戦線復帰する。これが私達が訓練した連携技だ。本来は真琴を含めた4人の強みであるバランス型を最大限に活かす為に考えた戦法だが。実際ここに真琴が加わる事でもっと敵に余裕を与えずに倒せるのだが今の3人でも充分に対戦出来る。実際サティバの動きに余裕が無くなってきた。それもそうだろう。サティバにしてみればどれだけ倒しても相手が何度も立ち上がるのだから。
「なるほど、1人づつではなく3人を1つとしての連携ですか…考えましたね」
埒が明かない状況にサティバが苛立つ。
「ちょこまかと小賢しいですね!そんなに死にたいですか!」
そう言うとサティバは消えた。いや、違う。身体強化で加速したんだ。そう全員が理解したのは悠一が吹き飛ばされてからだった。
「がっ、は…さっきまでは本気じゃなかったってのか」
サティバの拳はプレートを砕き、皮膚に達したようで悠一君は吐血した。
「マコト以外にも私をここまでさせる相手がいるとは…まぁこれで終わりですかね」
「悠一!く、あんた!」
「うるさいですよ?」
優衣が注意を逸らそうと仕掛けるが、そちらを見ずに魔法を飛ばした。
「な!?」
正面の魔法を避けたと思ったら真上から別の巨大な火の玉が落ちて来た。
「優衣ちゃん!」
優樹菜が慌てて助けようとするが間に合わず、優衣は爆発に巻き込まれた。
「この程度で!」
と、思ったら爆炎の中からボロボロの優衣が飛び出した。どうやらギリギリ躱せたようだ。それでも無傷とはいかず、装備は壊れ至る所から血が出ている。
優樹菜も咄嗟に回復魔法を飛ばして少しでも回復させる。
「あれを耐えるとは…しかし遅いです、ね!?」
サティバが優衣を防ごうとした瞬間に今まで動かなかった悠一が腕に関節技を決めて動きを止めた。しかしサティバは空いた手で魔法を打とうとする。だがそれは優樹菜が片っ端から迎撃した。最早優衣は目の前だ。
(これで、勝てる!)
けど認識が甘かった。
「小賢しい!!」
サティバはそう吐き捨てると足元を爆発させて悠一と優衣を吹き飛ばした。それだけで終わらず、魔力の手よような物で二人を掴むとまとめて地面に叩きつけた。
「優衣ちゃん!悠一君!」
悲鳴を上げて呼びかけるけど返事が無い。けど僅かに動いているので生きてはいる。
(早く2人の治療をしないと)
しかし、やはり現実は甘くなかった。
「あとは貴方だけですか…よくも私を散々弄んでくれましたね」
幾つか魔法を放つけどまるで効果が無い。と、唐突にサティバが私の目の前に現れた。いつの間にか崖の際まで来ていたようで退路がない。
「あ…うぅ…」
と、優樹菜の顔を見たサティバはニヤリと笑うとある提案をした。
「ふむ…やはりあなたがさっきから魔法を飛ばしていた人ですか。確かに常人とはかけ離れた魔力の量だ。…そうですね、どうです?私の城へ来ませんか?そうすればここの有象無象の命だけは保証しましょう」
「…!?」
そんな突然の提案に思わずフリーズしてしまう。
(そんなの嫌に決まってる…けど他の皆は?断ったら皆はどうなるの?)
「沈黙は肯定と受けますが良いですか?」
「な、私は!」
「ほほう、では断りますか?」
そう言うとサティバは空いている手を挙げた。その先では未だ呻いている生徒や兵士がいた。思わず脳裏に最悪の展開が浮かぶ。
「止めて!それだけは止めて!」
「では、宜しいですね?」
「あ…わ、私…は」
「優樹菜逃げて!それはダメだよ!」「そうだ優樹菜!俺達は良いから逃げろ!」
意識が戻ったのか優衣と悠一が声を上げる。二人の無事に優樹菜は安心し、涙を零すと決然とサティバを見た。
(ごめんなさい皆。ごめんね…真琴君)
そう心の中で謝る。
「わ…分かったわ。その代わり皆は助けるのね?」
「ええ、約束は守りますよ?では早速行きましょうか」
「優樹菜!」「おい、優樹菜!」
優衣ちゃんと悠一君が声をかけるけどこれで皆が助かるならそれで私は…
サティバが下卑た笑みを浮かべて私に触れようとした瞬間
「ざっけんな!!」
どこかで聞いた事のある声と共に私の下の地面が消えた。瞬間的な浮遊感、しかし次には誰かに後ろから抱き抱えられた。けれどその腕は不思議と嫌な感じがしない。むしろ凄く暖かく安心出来る。
「あ…な、何で…」
「ごめん、待たせたかな?もう大丈夫だよ。優樹菜」
見上げるとそんな優しい声で名前を呼んで、微笑んでくれた。それは誰よりも待ち焦がれていた、私の大好きな幼馴染み。
「真琴君!!」
白銀の翼を背負った工藤真琴がそこにいた。
はい、落ちませんでした。
詳細については次回で!
そろそろチート無双が…




