第28話 魔撃
剣術を始めよう
そうカインさんが告げると全員に木剣が配られた。
「流石に真剣を使うと怪我をするので訓練では木剣を使います。まぁ当たり所が悪いと最悪死ぬかもしれませんがな」
そう言って本人はおかしそうに笑うがこちらとしては余り笑えない冗談だ。
(てかカインさん微妙にキャラ変わってないか?)
「とは言えこちらはまだ正確に諸君の能力を把握していません。なのでとりあえず2時間ほど素振りをしてもらいます。私達が回ってダメな所は注意します。そして2時間後に一人づつ私と勝負してもらいます。その時に私が見所があると判断した者だけ次回から参加して頂きます」
その言葉に生徒の間で動揺が広がる。
「え?ウソだろ?」
「ずっと剣術教えてくれるはずだろ?」
「あ、あの…もし見所が無いと判断された場合は…?」
その中の勇気ある一人がカインさんに質問する。
「知しません。私は剣術を教えるだけです。それ以外の事には関わりません」
つまり見所が無いと判断されたらもう剣術は習えないと。
(確かに僕は謁見の時に戦闘術を教えてと頼んだだけだから剣術はあくまでもサービス。義務じゃないからな)
そんなカインさんの返答に対して、
「おいおいおい」
「偉そうに言いやがって…そう言うお前はどうなんだよ?俺達勇者様に教えられる技量はあるのかよ?えぇ!?」
「戦闘で負けたら恐いから数減らそうとしてんのー?」
そう言って一部の奴らが何がおかしいのかゲラゲラと笑い出す。
(またか…てかあいつ自分で勇者様とか言ってるよ)
これが最近の僕たち所謂勇者側の問題。
つまり慣れてきて調子に乗る奴らが出てきたのだ。いきなり異世界へ転移させられたと思ったらまるで物語の主人公のような扱いを受ける。しかも精霊なんてファンタジーな力も使えるようになり、いきなりチートな存在だ。そんな奴が出てくるのはある意味予測出来た。
さらに真琴の事を良く思わない良太達に似た考えの奴らや異世界に来て主人公の様な扱いを受けて調子に乗った奴らが群れて酷い不良集団が出来てしまった。その結果勇者側は今、真琴達の比較的大人しい組と調子に乗った不良集団の二つに大きく別れている。しかも教会側も真琴を敵視(とまでは行かずともそれに近い状態)しているので一緒になって真琴を罵倒し、大人を味方にしたこの不良集団が余計に調子に乗りだす。
残念な事に不良集団の方が規模が大きいのも問題だ。しかもほぼ全員が男子。初めは生徒間でいつくかのコミュニティが出来ていた。その後男子達の中で良太を筆頭に攻撃的な思考のコミュニティは似たところと合併し、結果不良集団のような大規模なコミュニティが出来てしまった。
反対に女子生徒のほとんどは真琴側の温厚な側で殺伐としていない集団に入った。それを見て余計に真琴に敵意を抱く生徒がいるが真琴からしたらとんだ傍迷惑な話だ。そもそも勇者側の男女比が大体4対1ぐらいの状態で殺伐とした方へ行くのは自ずと男子ばかりになるのは目に見えているだろうに…
簡単にまとめると、かなりの数の男子が集団で群れて調子に乗っているのだ。
が、そんな彼らに対して
「はは、これは手厳しい。確かに私なぞ足下にも及ばない者がこの世界にはゴロゴロいますからな」
だがカインさんは怒りもせず笑って流した。
そんな態度に更に何かを言おうとした男子達の背後で唐突に巨大な物が倒れる音がすると共に大きな地響きが足元を走る。
全員が咄嗟に後ろを見る。するとそこにはまるで刃物に斬られたかの様な綺麗な断面を見せて上半分は倒れた大木…いや、元大木があった。(…確かあの木は大人2人が手を繋いでギリギリ囲えるぐらいの太さだったはず…)
突然の事に何も言えず静かになる。皆咄嗟に木を見て何が起こったのか理解できず固まった。いや1人だけ、カインさんの軽い笑い声が辺りに響いた。
(カインさんが何かをした…何かを飛ばしたのか?でも何を?)
全員が唖然と固まる中で真琴は視線を戻して冷静にカインを見る。あの木が倒れる直前、一瞬ではあったがカインの手元が左側の剣の鞘から胴体をはさんで右斜め上までを移動するのが見えたのだ。(でも速すぎて残像が見えたぐらいだが)
なので真琴はカインが剣を使って何かを飛ばしたと仮定し、カインを観察する。カインは真琴の視線に気付くと一瞬驚き次にまた落ち着いた顔で一度真琴を見ると、再び皆に声をかけた。
「これは《魔撃》という初歩の技です。当然諸君はこんな弱い私でも出来る技、教えずとも出来ますわな」
そう言って朗らかに笑う。しかし目は全く笑ってない。カインさん怒ってます。めっちゃ怒ってます。
(わかりやすい挑発を…)
恐らくここで全員で謝ればしっかり初歩の初歩から教えて貰えるだろう。だが男子達はそんな安い挑発に乗り
「当たり前だ」
とかほざいたのでそのまま木剣の素振りタイムに突入した。
(結局技の詳細は分からなかった)
皆適当に散らばり素振りを始める。初心者と言う事もあり、見よう見まねでやったので真琴も始めは幾つか注意されたが、一時間程経過するとあっという間に形を習得。周りからアドバイスを求められるまでになった。そんな真琴を優樹菜達は慣れてるのか当たり前のように教えてもらい、周りの兵士達は感心したように見ていた。
そして素振りを始めて(一部は早々にサボっていたが)2時間経った。
「諸君、時間になったので順番にかかって来なさい」
カインさんのその言葉に不良集団の男子達が奇声(雄叫び?らしい)を上げながらかかって行く。確かに地球よりも格段に速度、威力などは向上している。当たればかなり痛いだろう。
だが
「遅い」
そうカインさんが呟くと同時に男子生徒の木剣が消えた。
いや、カインさんが目視が困難な剣速で生徒の剣を弾き飛ばしたのだ。そのまま腹に一撃を入れて生徒はダウン。
その時にようやく弾かれた剣が地面に落ちた。ここまで約1分。やはり実力の差は歴然としていた。
「腰が全く使えてない。次!」
一方的な行為に男子生徒が何かを言おうとするがカインさんの一睨みで大人しく下がった。
そんな感じで次々とカインさんは生徒を倒していく。…ちなみに素振りをサボった奴らで五分間戦えた奴はいない。真面目に素振りをしていた生徒でも一撃目は防げたが、やはり経験が無いので長くて10分程だった。
真琴達はカインから一番離れていたので一番最後になっていた。
そして残ったのは真琴、優樹菜、優衣、悠一の四人。
悠一、優衣は元々の運動神経を生かしてかなり粘ったが勝てなかった。
優樹菜は…まぁ良く頑張ったと言っておこう。
そしていよいよ最後の勝負、真琴対カインの勝負になった。
(こんなに続けても息一つ切らさないなんて…スタミナ半端ないな)
ほとんどは直ぐに終わったとは言え運動神経の良い人との勝負も幾つかあった。だが、カインさんは表情一つ変えず静かに立っている。そんなカインを眺めながら今までの勝負を思い出し、どう攻めるか考える。するとカインさんの方から話しかけてきた。
「最後は君か。どうだ?魔撃の仕組みが分かったか?」
「…恐らく剣に魔力?か何かを纏わしてそれを剣を振ることで遠くへ飛ばした?でどうでしょうか」
「なるほど、正解です!よく見てますな。ちなみに今までの勝負で長く戦えた人と戦えなかった人の差は分かりますか?」
「そうですね…多分運動神経の差でしょう。この世界に来てから身体能力は上がったけどまだそれをコントロール出来てない人程戦えなかった、違いますか?」
「ふむふむ…素晴らしい。君は周りをしっかり見る事が出来るようですね。君の名前は?」
「マコトです」
「ではマコト殿。正解した君に敬意を表して特別に全力で相手しましょう。10秒間保ったら合格です」
何やら不穏な事を言うとカインさんの全身が淡く光る。
(あの光は確か…身体強化じゃないか!冗談じゃない!)
生身でもあれだけ化け物なのにその上身体強化なんてされたら…
「心配なされるな。この短時間で剣をマスターし今までの試合を全て見たマコト殿なら大丈夫でしょう」
(大丈夫って何がだよ!)
心の中で突っ込みを入れつつ木剣を構える。周囲では勝負を終えた生徒達が野次を飛ばす。優樹菜達はこちらを心配そうに見守っており、それを見た男子共更にが罵声を飛ばす。
…いい加減その行為が嫌われる原因と気付かないものか。
そんな周囲に全く見向きもせず真琴は全神経をカインに集中させる。
唐突に空気が変わり、束の間の沈黙が辺りを包む。
「…行くぞ!」
カインの宣言と共に両者の剣がぶつかった。
次回初めての戦闘回(予定)です!




