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第22話 精霊との契約

前半は優衣視点でお送りします


誤算だったのは思ったよりも訓練場が広くて障害物が多かった事だ。既に部屋と図書室を見に行った生徒達も帰って来て、残る可能性はこの訓練場ぐらいだった。


「真琴ーどこだー!」「真琴君ー!」「真琴ー!返事しなさーい!」


とりあえず呼び掛けながら探すが広すぎて一向に姿が見えない。


「くそ、どこだよ」


ただ無情にも時間だけが過ぎてゆき、悠一は苛立ったように地面を蹴る。徐々に皆の表情に焦りが浮かぶ。

それを見た優衣は何かを決意したかのように己の精霊に語りかけた。


「…決めた。私のテーマは"索敵"にするわ」

『…いいのか?ご主人』


己の内側から声が聞こえる。

優衣の契約精霊である鷹の声だ。


「当たり前よ。元々あんたとの相性も踏まえてこのテーマにしようとしてたわ。予定が早くなっただけよ。後悔は無いわ」 


…もうあんな思いを、後悔をしたく無い!

そう心の中で強く叫ぶ。


『どうやら本気のようだな…わかった。私達のテーマは"索敵"だ』


『これより私達は真の契約を結ぶ』


すると優衣の中で何かが弾けた。それは己の中心からゆっくりと全身に広がってゆく。

優衣は少し瞑目し、魔法を発動する。


「《サーチ》」


優衣は自分を中心に波紋が広がるイメージで人族に該当する生物を探す。あたかも上空より見下ろすように全てを見る。


すると物影に自分達以外の反応があった。だが今にも消えそうな感じで反応が頼りない。不安を感じつつもとりあえず向かう。


するとそこにはボロボロの真琴が倒れていた。


「いた!悠一、優樹菜!真琴いた!」

「おい皆!真琴いたって…ておい真琴!」

「ま、真琴君!大丈夫!?」


悠一は他の生徒に呼び掛ける。

その横で真琴の状態を見た優樹菜は顔を真っ青にして駆け寄った。


後から駆け付けた風花達が見たのはボロボロで血を流して倒れる真琴と半泣きで真琴の名を呼ぶ優樹菜。そしてなんとかして血を止めようとしている悠一と優衣の姿だった。

まるで全員の心配を嘲笑うかのように最悪の予想が当たった事に風花達は絶句した。


「なんで…」「こんな…酷い」


立ちすくむ風花達に優衣が激を飛ばす。


「あんた達!立ってるなら早く医者呼んで来なさい!」

「わ、わかった!」


優衣の言葉に我に返った皆が動き出す。

が、そこで更に状況は悪化する。


「おやおや、そこで何をしておいでかな?勇者様方?」


司祭以下教会派の貴族と兵士が10人ほどやって来た。真琴と教会の事情を知らない風花達は助かったと嬉しそうにする。

だが


『ご主人』

(分かってる)


「あら司祭様方。

これは失礼しました。特に何もありませんので大丈夫ですよ」


そう言って優衣は司祭達から真琴が見えないように立ちふさがる。狭い物陰にいた事が幸いしてぎりぎり司祭の視界に入る前に立ち塞がれた。


優衣のテーマ、索敵とはそもそも敵を探すものだ。その影響で優衣は自分や自分が定めた対象に対して悪意(あるいは敵意)がある者が分かるようになった。

(この集団ヤバイ。真琴に悪意しかないじゃない)

始めは優衣も人が来た事に喜んだがふと謁見の時を思い出し対象を真琴にしてみると頭の中で警鐘が鳴った。

全員が敵だと。

(最早悪意って言うか敵意ね)


そんな優衣の態度に司祭達は驚きつつ優衣をどかそうとするが一向に事態は進展しない。そんな優衣の態度に貴族達が殺気だち始めた。風花達は状況が読み込めず、うろたえてる。


優衣と貴族達が睨み合っていると優衣を庇うように悠一が前に出てきた。


「まぁまぁ皆さんちょっと落ち着いて。そんな恐い顔しないで、ね?


優衣冷静になれ。あいつらは敵か?」


後半は小声で優衣に問う。優衣は驚きつつも小さく頷いた。それを確認し、悠一は再び貴族達に向き直った。

「《プロテクト》」

そう呟いた悠一は身体が少し光っている。

それを見て司祭は目を鋭くする。


「失礼しました。ちょっと秘密の特訓ってやつをしてましてね。この通り未熟でまだ見せたく無いのでお引き取り頂けませんか?」

「ほう、もう真の契約を結ばれましたか。それは素晴らしい。是非ともお話を…」


悠一は実は昨日の内に真の契約…つまりテーマは決めていた。

悠一のテーマは"守護"。

次こそは大事な物を守り切ると誓った。その目標を達成する為の力だった。悠一の精霊もその気持ちを察したのかすぐに受け入れ、契約した。

が、一向に引かない司祭に悠一もついつい言葉が素に戻る。


「もう一度言う、悪いな司祭さん。俺ら今から用事があるから後でもいいか?」

「貴様!司祭様の頼みを…」

「まぁ落ち着きなさい。

失礼しました。時にその輝きはプロテクトで合ってますかな?」

「ああ、そうだ」


悠一の身体が光っているのは精霊から与えられた魔法の一つ、プロテクトで自身の防御を上げる初級の魔法だ。

しかし、勇者がそれを使うとそこら辺の剣では傷一つつかない程固くなるが。


「ほほ…それは素晴らしい」

「とりあえず司祭さん達も仕事があるのでしょう?続きはまたいずれ…」

「…ふむ。しかし先程医者を、と言っていたようですが?

怪我人でもいるのでしょうか?」


(このタヌキ!)

奇しくも真琴と同じツッコミを入れながらどうするかと優衣は考える。

と、その時


「それは失礼しました。

私が転んだ時に少し血が派手に出てしまったので皆に心配をかけたようですね。私なら大丈夫ですよ」


と、優衣の横の物影から何事も無かったかのように真琴が顔をだした。

それを見て優衣や悠一は驚きつつも喜び、司祭や風花達は唖然とした。





〇〇優樹菜said〇〇

時は少し遡る


優樹菜は優衣に呼ばれて物影へ向かった。そこには真琴が血を流して倒れていた。 


「ま、真琴君!大丈夫!?」


(何で!?何でまた、真琴君ばかりこんな目に)

優樹菜は半泣きで真琴に駆け寄り起こそうとする。


(そんな…嘘…)


起こそうと、真琴に触れるとかなり冷たかった。


(いやぁ!嘘!嘘よ!何で!?真琴君!)


だが、無情にも血は流れ続ける。優樹菜には医療の知識などほとんど無く、ただ傷口を押さえて真琴の名を呼び掛ける事しか出来なかった。


(また私は救え無いの?私は何が出来るの?

何でこんなに無力なの?何で?何で?)


何も出来ない自分に絶望しかけた時、ふと心に声が届く。


『ご主人はそれで良いの?本当にそこで終わるの?』


それは紛れもない私の精霊の声


(仕方無いじゃない…私には何の力も無いもの)

『あなたはそれで満足?』

(そんな訳ない!でも…でも私は何も出来ない。真琴君を探す力も、護る知識も…)


少し先では悠一君がプロテクトを使って何かから真琴君を護っている。さっきは優衣ちゃんがサーチで真琴君を見つけた。


じゃあ私は?

私には何が出来るの?


『ご主人はご主人だよ。ご主人はどうしたいの?』

(私は…)


目の前では真琴君が顔色を悪くして苦しんでいる。

そんな真琴君を少しでも楽にしてあげたい。


『そう、答えは出ているよ。後は言葉にするだけだ』

(でも、こんな自分勝手な事…)

『ご主人の人生はご主人のだよ。自分勝手で何がダメなの?』

(でも、あなたは…?)

『私はこんな時でも私の心配をしてくれるご主人が大好きで契約したご主人の精霊だよ。ご主人がどんな事を望んでも私はご主人の味方だよ


さぁ教えて。ご主人のテーマは?』


(私は…)


「私の…私のテーマは"癒し"」


『それでこそご主人だよ。私はご主人と本当の契約を結ぶわ』


そんな声と共に何か力が湧いてきて、頭に幾つかの魔法が浮かぶ。


「《ヒール》」


そして優樹菜は魔法を発動する。

それはこの世界に存在するありふれた回復魔法。

一般人がこの魔法を使うと精々擦り傷が治る程度だが、優樹菜は自身の魔力を惜しみ無く使った。


真琴を優しい光りが包む。どんどん真琴の傷口が塞がっていく。


「ん…うん?」


すると、真琴は意識を取り戻した。まだ顔色は悪いがそれでも真琴が目覚めた事に優樹菜は心の底から安堵した。

真琴も少し混乱していたが、状況を把握すると優樹菜の方を向く。


「優樹菜、ありがとう」


真琴は優しく告げた。

優樹菜はそれだけで全てが報われた気がした。真琴はよろめきながら(ヒールは傷口を塞ぐが、失った血などが戻る訳では無い)立ち上がり優衣達に声をかける。




そして現在に至る



「…ほほ、そうでしたか。怪我には気を付けて下さいね」


いち早く立ち直った司祭は動揺しながらも無難な答えをする。

が、予想が外れた事がよっぽど驚いたのかいまだ後ろは唖然としていた。


「ご心配をかけてすみません。ご忠告ありがとうございます」


そう言って真琴が頭を下げると、司祭達は足早に去って行った。

完全に見えなくなると、緊張が解けたのか皆は一斉に息を吐いた。


いかがでしたか?

次回から真琴視点に戻ります。

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