前章
翌日――佐藤寮長から「お土産よろしくね」の言葉に見送られ、朝子殿と千景殿、真神殿と榊殿とで吾妻先輩が用意した自動車で農場とやらに移動している。
「ちなみに運転しているのはヒツジの人だ。
」
「わざと口に出してませんか?仁科様。私は執事の畑中ですっ」
運転席で運転する黒メガネ、執事服の明らかに不振人物に見える輩が私に言う。
4月の時はオロオロしていたのに生意気な。
「歩...畑中さんをからかうのは止めてあげて、彼は芯が真面目だからあまり冗談が通じないの...」
吾妻先輩に窘められてしまった。
ちょっと反省。
「あぁ、でもちょっと意地悪な顔した歩も中々可愛いわね」
そう言いながらスマホのカメラで私を撮影する吾妻先輩。
うん、前言撤回。
ちなみに後部側の席に座っている榊殿は自動車に乗るのは生まれて初めてだと言い、緊張のあまり固まっている。
不思議そうに彼を見る私の様子を察知したのか、榊殿の隣に居た真神殿がそっと耳打ちしてきた。
「彼の故郷で自動車に乗ると言ったらトラックの荷台ですからね、緊張するのも当然でしょう」
「えっとーー何処かの戦場?」
「戦場、確かにそうですね。アハハーー」
真神殿が楽しそうに笑う横でやはり微動だにしない榊殿。彼は一体どのような環境で育ったのだろうか?
一時間程で農場に到着した...が、目の前に有るのは私がテレビ等で憧れたビニールハウスではなく、谷間の入り口にそびえ立つ見るからに怪しい研究棟であった。
「えっと......」
「あぁ、農場の入り口は強固に閉鎖されているの。そうしないと逃げ出すのが居るから」
いやいや、逃げ出すって何が――。
一抹の不安を抱えながら吾妻先輩に続いて謎の建物に入る。
怪しいパイプラインやら、試験管とカタカタ音する謎の大型機械が置かれたガラス張りの部屋を横切り、二重ドアを抜けるとそこは......。
1メートル大の巨大イチゴが群がる草原だった。
「えっと......」
「甘さと量を突き詰めて品種改良を重ねたのだけど、最近何故か自我を持ってしまって困ってしまったの」
それは品種改良と言うよりは遺伝子操作の類いなのではないかと。
困惑している私を尻目に吾妻先輩は説明を続けている。
「それで、あなた達にあれらの駆除をお願いしたい訳。勿論狩り取ったあれは好きにしていいわ、生で食すなりジャムにするなり...」
あれを見ると微妙に食欲と言うか、イチゴに対する認識が変わると言うか......。
そもそもあれをイチゴと呼んで良いものだろうか?
「ワーイ、食・べ・放・題♪ 」
と朝子殿が手放しで喜んでいる。
良いの? あれを食うの。
「腕がなる...村正」
千景殿は刀袋からいつぞやの日本刀を出しながら呟いている。口元に笑みを浮かべてるのがちょっと怖い。
「フムフム、つまりはあのクリーチャー苺モドキを殲滅すれば良い、という訳ですね。さてどういう戦略を練るか......」
顎に手を当てて何やら納得している真神殿の横で榊殿が頷きながら肩をブンブン回している。
何とも適応力の高い人達だ。
「でも、狩り取ると言っても粉々にしたら衛生面とかまずいんじゃないですか?」
「殺る満々ね。でも、それには及ばないわ。あれは蔕部分を切り取れば活動停止するみたいなの。」
そうなのか。
「さぁ、作戦開始よ。」