5章
「さて……君をここに呼んだのは他でもない」
「一昨日の校門での騒ぎの事でしたら自分は被害者ですので関係はありません」
優雅に紅茶カップを手にしながら話を切り出す里見会長に先手を打って無罪を主張した。
なんか半年くらい勿体ぶった様な物言いだったが、何事も先手必勝が私の信条なのだ。
「ん? あぁ、吾妻くんとの一件なら新聞部の過剰報道が原因との報告があったので新聞部には無駄に尾ヒレを付けない様にと注意を促したが……、違ったのかな?」
「いえ……はい、その通りでございます」
「うむ、ではこのまま清い交際を続けてくれ給え」
「承知致しました」
勢いで直立不動してしまっている私に一件落着と草書体で書かれた扇子をパッと広げて里見会長がふふっと謎の笑みを浮かべている。
あれ?何か不味ったかな?
「あゆちゃん、その発言はみくにちゃんとの交際は認めている事になっちゃうよ」
「あっ……」
思わず声に出てしまった。
「謀られた」
そんな所にトラップが仕掛けられていたとは……。確かにこの生徒会長只者ではないな。
「……この場合はあゆちゃんの自爆に近いよね〜」
朝子殿が私の考えを読んだのかマフィンを貪りながらもニヤニヤしている。
「えーっと、だ。所で用件というのは何なのですか?会長殿」
こっ恥ずかしすぎて居た堪れないので無理矢理話題を変えた。
「学園生活はどうだね? 藤蒼は小中高大一貫教育なので中途編入生は何かと肩身が狭そうに見えてしまってね」
「入学3日目でどうかと言われても…至って普通かと思いますが……」
初日に突然同性から告白されたり、2日目に刀剣少女と鍔迫り合いをするのが至って普通とは到底思えないが……後々面倒なのでその辺は無視した。
「そうか……それなら安心だな。まぁ、色々と大変かと思うが、その調子で学園生活を楽しんでくれ給え。無論、純異性同性交遊も自由だ」
「えーと、そのような事を確認する為にわざわざ読んだのですか?」
私の言葉に会長は言いにくそうに広げていた扇子を畳み紅茶を一口含み口を開いた。
「……最近学園内で“神隠し”なるモノが横行していてね」
「生徒の行方不明事件ですか?それなら警察に通報した方が……」
「いや、そこまでオーバーな事では無いのだよ。ふらっと居なくなったかと思えば翌日何事も無く現れる……但し、居なくなってる間の記憶は皆無いと言っている」
会長殿がやれやれと溜息を付く。
「学園としても余り事を大きくしたくないらしくてね。公には伏せられている。生徒間でも噂として出回っている程度だ」
「えーと、秘密裏にそれの調査か何かですか?」
「……吾妻君が今朝から登校してないらしくてね。昨日は部屋にも戻ってないそうなので君なら何か知って――」
その言葉より早く生徒会長室を飛び出していた。