表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

ふさわしい条件 2

二戦目です。

カスパルは一線を退いてからも、幾つかの団体の理事や役員を引き受けている。

今日はその一つ、女王杯武道大会の運営委員の理事として委員会に参加している。


武道会は幾つか開催されているが、主だったものに国王杯と女王杯がある。

二つの違いは、国王杯が王国全ての民に参加資格がある事に対して、女王杯が平民のみに参加資格が与えられている事である。

一見国王杯の方が全国民の実力を平等に比べる事ができるように思えるが、実際はそう簡単なものでは無い。平民の実力者が武道大会に参加する目的は、武芸で名を上げて貴族に引立てられる事である。つまり国王杯で相対した若者が、有力貴族の子息だとすれば相手を叩きのめして実力を買われるか、反対に不興を買って採用を見送られるか二つに一つ、つまり勝負は賭けのような様相を呈してくる。そして大抵は後者に落ち着くのだから―――国王杯の優勝者が本当の実力者なのかどうか判断するのは難しい。


故に武芸に秀でる平民を真に品定めしようとするならば―――見るべきは女王杯武道大会、となるのである。


カスパルは貴族ではあったが、実力主義者だ。

自分自身も鍛錬を欠かさず腕を磨いたが、平民も貴族も関係なく、努力を重ねる実直な人材や実力のある人材を徴用した。


カスパルは真面目故に人の心の機微に疎い所があった。敢えて裏まで読んで相手に合わせると言う事をしないように心掛けていたとも言える。

そういう性質を希少だと評価してくれる者もいるが、長い物に巻かれず権力におもねらない狷介な性質を『高潔』だと持ち上げて揶揄するものも多かった。特に身分だけにしがみついている貴族連中からは大層妬まれ、陰口をきかれた。しかしそういった小物はカスパルは実力で捻じ伏せて来た。


教本のようにあるべき姿を重視する、融通の利かない人間は疎まれる。


しかし……現役を引退してしまえば別だ。

カスパルは便利に使われる事が多くなった。利潤目当ての貴族は目も向けないような、大して旨味の無い褒章も碌に無い理事や役員を、頼みこまれて幾つか兼任してしまっている。


その内の一つが、この女王杯運営員会の理事である。平民同士の大会であるから、報奨金は女王の褒章のみ。そこに貴族の名を付けた賞与を幾つ引っ張れるかが、大会を盛り上げる肝だった。中々出し渋るものも多いので、バルツァー家からは必ず三つの賞を出すように息子に指示をしている。

カスパルは理事であるから直接運営を指揮する人間では無い。女王杯運営の実動部隊は平民の割合が多く、貴族からの出資を諦めて最近は財力に富んだ平民の商人から俸禄を出資を募る事もある。護衛や用心棒として貴族で無くとも武芸達者な者を必要としている者が近年増加しているからだ。


まあそんなこんなで儲からない仕事には違いないが、真面目なカスパルは事務局から連絡があれば委員会の会合に出席し、要請があれば出来る限り便宜を図って来た。







運営委員会では、年若い事務局員が賞与の提供者、武道大会の準備の進捗状況、それから今後のスケジュールと参加者の申し込み状況を報告している。新人なのか随分と緊張したまま棒読みで現状を話し終えた後、少し古参の事務局員が参加者増員の為の広報案を披露した。この流れは毎年恒例であるので、進行には特に波風も立たない。

カスパルは二、三気になった事柄について質問したが、事務局長がテキパキと回答し、その答えに満足して頷いた。こうしてその日の運営委員会は終了した。


さて帰ろうと立ち上がり、順番に馬車に乗り込む為のエントランスに向かう時、事務局長のラムぺがカスパルに話し掛けて来た。ラムぺは平民出身の元騎士であるが、在任時非常に有能だった為、一代限りの男爵位を賜っている。いつもカスパルの質問に簡潔に適切な回答を行うので、彼はこのラムぺを高く評価していた。


「最近バルツァー家の話題で市井しせいは持ち切りだそうですね」


ラムぺは無駄な世辞とは無縁の男である。カスパルは身に覚えが無いので「はて、そうですかな」と曖昧に返事をした。


「ウチの孫娘からも伝手つては無いのかと、迫られましたよ。バルツァー家の使用人になると大層良い目を見られると若い娘の間で評判になっているそうです」

「それは……?特に今までと使用人の雇用条件を変更した等と聞き及んではおりませんが……」


何かあって賞与でも弾んだのだろうか。

そんな事があるとすれば、あの変わり者の嫁の実態を口外しないように『口止め料』を払う事くらいしか思い浮かばないが。


「そうですか……私も出がけに持ち掛けられたものですから詳しくは知らないのです。仕事ばかりしておりまして、あまり娘達の流行や噂話には疎いものですから」


もしかするとラムぺは詳しい話も聞いているかもしれない。

しかし侯爵家の噂話を安易に前当主の耳に入れる事を危惧したのかもしれない。評判を知らされていないカスパルに合わせるように話題を引っ込め、すぐに次の会合の予定と新たに出資者になってくれそうな商人についての話題に切り替えた。


嫌な予感がしてカスパルは暫く思案した後、翌日侯爵邸を訪ねる事に決めたのだった。




誰にも前触れを出さずに訪れると、出迎えたのは僅かに驚きを眉にのぼらせて直ぐに表情筋を制御した家令のアクスだった。


「カスパル様……如何されました。ご当主以下皆様本日は不在にしておりますが……」

「うむ、今日はお前に聞きたい事があってな」

「は……」


アクスは慇懃に腰を折った。

壮年のアクスの髪に白い物が混じっているのを見て、彼も年を取ったのだなとカスパルは感慨深く思った。カスパルが当主の頃は未だ彼は若く、父親の補佐として懸命に仕事を覚えている最中だった。


アクスはバルツァー家に代々使える家令の家系に生まれ、誠実に当主に仕えている。前当主に告げ口のような真似をしないとは承知しているが、市井で評判になっているのは悪い噂では無いようだ。だから殊更隠すような事はしないだろう。


応接室でお茶を振る舞われ、立ったままのアクスに問いかけた。


「フォルクハルトも出ているのか」

「はい、ドレッセルの農場にゲオルギーネ様といらっしゃってます」

「どうせあの嫁は夫など放って、猟場に出かけるのであろう」

「ハッ……猟場の見回りと私兵部隊の視察を兼ねております」


アクスが恐縮したように応えた。


「序でに領民の子供達に稽古でも付けて回って、夜は宴会で婦女子に囲まれるのであろうな―――全く、本来フォルクハルトが行うべき役割を……」

「……農場の視察と領地経営も、当主の役割かと思われますが……」


アクスの取り成しに、怒る様子も見せず溜息を吐いてカスパルは首を振った。


「現当主だからと言ってお前が庇う事は無い。クロイツは?」

「先日から業務で王宮に宿直されております」

「あの変わり者の嫁は帰って来るのであろうな」


ムスッと眉根を顰めてカスパルは呻くように言った。夫がいない間留守を守る事が妻の第一の役割だと言うのに、と暗に非難を籠めて声を低くした。


「ええ、その予定ですが……」


アクスは頷いたが、微妙に声に力が入らない。

レオノーラは帰宅すると言い残して出て行ったが、夕食の用意は不要とも侍女に伝えていたらしい。そんな時は日付が変わる前に帰宅するかどうか怪しいのだ。日が昇ってから料理人が調理の為に出入りする勝手口からひょっこり帰って来た事もあった。


そんなアクスの表情を読んだように、カスパルはフンっと鼻を鳴らした。


「まあ、今更良いわ。ところでお前に聞きたいのは、最近バルツァー家で使用人になりたいと言う若い娘が増えていると耳にしてな。何か雇用条件に変化があったのか?臨時賞与が増えたとか……」

「はぁ、臨時賞与はありませんが―――確かに問い合わせは多くなっていますね。そう言えば若い娘ばかりでしたな」


(なんだ、違うのか)


カスパルは少し残念に思った。

あの変わり者の嫁の弱みを握れれば都合が良い、と考えていたからだ。だから少し興味を失くしながらも、惰性で尋ねた。


「理由に心当たりはあるか?」

「そうですね―――しいて言えば……」


アクスはキチンとした姿勢を保ったまま、考えを巡らせるように一旦言葉を切った。


「……レオノーラ様が原因かと思われます」

「レオノーラが?」


途端にピリッと体を起こし、カスパルは身を乗り出した。


「あの嫁はほとんど屋敷におらず仕事ばかりしていると言うではないか。今でも彼奴あやつの顔をぼんやりとしか記憶していない使用人も多いと聞いたぞ」


その為勝手口から作業着で侵入した時も、あまりに自然だったので使用人の一人と間違われた位だった。下っ端の料理人に言われてイモを運んでいるレオノーラと鉢合わせした侍女頭が悲鳴を上げて驚いた―――と言うのはバルツァー家の使用人の間で語り草になっている。


「そうでございますね。今でも全員がレオノーラ様のお顔を拝見しているとは言いかねます」


アクスは頷いた。


アクスもレオノーラが変わり者だと言う評価自体は否定しない。接すれば接するほど、普通の同じ年頃の女性とは色々とかけ離れているという事実が鮮明になるばかりだった。しかし変わり者には既に当主夫人である元女騎士ゲオルギーネで免疫が付いている。


「レオノーラ様が、屋敷の若い女達に試作品を与えているのです。今研究されているのが、女性用の基礎化粧品……と言う物だそうで、若い女に使用感や使用後の肌の変化を聞き取っているようです。改良のヒントを得ていると聞きました。事前にご当主やクロイツ様に許可をいただいてますし、侍女頭のビルギットと私にも説明していただきましたので―――特に問題は無いかと思います。おそらく、その化粧品の効果がかなり良かったのでは無いでしょうか……無料で高価な化粧品を発売前に使用できると評判になったという事は―――あるかもしれませんね」


「ふむ……」


アクスの言葉を聞いて納得がいった。


(それでラムぺの孫娘の懇願に繋がったのだな)


暫く白い顎鬚を触りながら、カスパルは目を瞑った。

そしてパッと目を開け、ニタリと嗤った。


「アクス、良い話を聞かせて貰った―――礼を言う。もう帰るから御者に声を掛けてくれ」

「御意のとおり」


アクスはスッと頭を下げて静かに扉から去って行った。


カスパルはフフフ……と不敵に笑い、立ち上がった。




「嫁の役割も果たさんくせに好き勝手やりおって……今度こそ、お前の悔し顔を拝ませて貰うわ……!」







** ** **







「お祖父じい様、今度は一体何を企んでいるのですか」

「……何故、お前がいる」




応接室に入ったカスパルを迎えたのは、レオノーラだけでは無かった。腕組みをして小柄なレオノーラを守るように立つクロイツをみとめて、カスパルは眉を顰めた。


「また下らない事でレオノーラを呼び出したと聞いたので。もう何か起こる前に最初から立ち会う事にしました」


チッとカスパルは舌打ちして、不興を示した。

しかし孫は厳しい表情を崩さず、話題になっている当の嫁、レオノーラと言えば何故かニコニコと機嫌好さげに微笑んでいる。

カスパルは疑問に思った。今の会話の何処に微笑む要素があると言うのだ。しかも再三嫌味三昧を尽くして来た自分を迎えて何の警戒心も見せない様子に苛立たしささえ覚えた。

ついこの間も、側室を押し付けようとしたばかりなのに。


「天才と馬鹿は紙一重か……」

「は?」


剣呑なクロイツの視線を見返し、小さな呟きについては蒸し返すのは止めておくことにした。大きく咳払いを一つして不遜な様子で胸を張る。


「この家はやって来た客に椅子も勧めないのかね」

「……失礼しました、どうぞお掛け下さい。アクス、お茶を頼む」

「畏まりました」


カスパルがソファにゆったりと腰掛けるのを待って、クロイツとレオノーラも向かいのソファに腰を下ろす。

アクスの指示に従って侍女がお茶と菓子を給仕する。カスパルが侍女を下がらせるように言うと、カートを押して扉の外へ出て行った。


「……妙な噂を聞いてな。若い娘がバルツァー家の使用人になりたいと殺到しているそうじゃないか、聞けば販売前の化粧品がタダで使用できると評判になっているらしいな」

「旦那様、それは―――」

「分かっておる。当主の許可も得て試作品のテストをしているのであろう?そう言う事を言っているのではない―――レオノーラ」


カスパルはレオノーラをまっすぐ見つめた。

レオノーラもその視線を受け止めて、素直に見返す。


「その試作品は学院の予算で作成した物だな、それを我が屋敷内の使用人だけに渡すと言う事がどういう事か分かっているのか」

「どういう事とは……」

「我がバルツァー家が不当に利益を得ていると誤解されたらどうするのだ」


カスパルは視線を強め、レオノーラを睨みつけた。引退したとは言え、長年騎士団の中枢を担ってきた彼の視線には迫力がある。台詞を遮られ、レオノーラは口を噤んだ。

その様子を見て、カスパルはニヤリと嗤った。


クロイツが溜息を吐く。


「何を言っているんですか、試作品のテストくらいで……」

「お前がそんな甘い事を言っているから、この嫁がつけあがるのだ。現に市井で噂になっているんだぞ!この話が公になってからでは遅いのだ」


黙り込んで俯くレオノーラに、カスパルは大変満足していた。

更に居丈高に声を高くする。


クロイツは何故此処までカスパルがレオノーラを攻撃するのか理解できなかった。確かに以前から働く女性を蔑視して非難していた。その為クロイツは無意識に噂だけでレオノーラに反発心を抱いてしまった位だ。しかしレオノーラと実際顔を合わせ話し合い、仕事を一緒にこなすうちに、その思い込みはすっかり意味の無い物だと悟ったのだ。


確かにクロイツもレオノーラが一般的な貴族令嬢とかけ離れている事は理解している。『変わり者』と言われるのは仕方ないとも考えないでもない―――自分の中の常識が歪むほど恋に盲目にはなっていないつもりだ。

けれどもそれをチクチクあげつらう祖父にはすっかり呆れてしまった。幼い頃は立派な騎士の鏡だと目標にもしていた祖父の心の狭さを、残念に思っていた。


「市井とは―――一体何処でそんな噂をお聞きになったのですか?」

「女王杯武道大会の運営委員の席でだ。事務局長のラムぺの孫娘がその化粧品を羨ましがって、コネでバルツァー家に潜り込めないかと掛け合ったそうだ。ラムぺは実直な男だから取り合わなかったが、これがもし面倒な相手で逆手にとってバルツァー家を非難して来たらどうするつもりだ……?」

「……そんな大袈裟な」


クロイツが重箱の隅をつつくようなカスパルを諫めようとした時、レオノーラが顔を上げた。


「そんなに―――噂になっているのですか?」


真剣な表情でピタリとレオノーラはカスパルを見つめた。


「ああ、第一試作品を一部で独占するのがそもそも間違っておるのじゃ、王国の予算で生み出した物を享受する権利はバルツァー家で独占するべきでは無い!」


レオノーラにやっと自分の言い分が通じたと感じたカスパルは、声を張って言い切った。

視線を離さないまま、彼女の瞳がウルウルと潤んで行くのを満足気に見入る。レオノーラは両手を揉み合わせて、後悔しているように見えた。


(フフフ……やっと、自分の所業を悔い改めおったか……!)


と良い気分になっていると―――レオノーラがスクッと立ち上がった。

そして両手を握り合わせたまま、ツカツカとカスパルの元に近付いて来る。


カスパルはその思いつめたような瞳に、思わずギョッとして身を引いた。

そのように近寄られたのは、この間妙な薬を盛られそうになった時以来だ。


「カスパル様……私が間違っておりました……」


クロイツも立ち上がり、レオノーラの後ろから近付いて彼女の肩に手を置いた。


「レオノーラ、気にしなくて良い。お祖父じい様の嫌味など」

「いいえ、クロイツ様。カスパル様は私の不備を指摘してくださったのです。私には分かります。カスパル様がおっしゃりたい事が……」


微かに嫌な予感がした。

カスパルはクロイツの言う通り、嫌味を言ってレオノーラをガツンと凹ましたかっただけだ。いつも何処吹く風と飄々と自分の言葉を受け流す子供のような容姿の、淑女の『し』の字も体現しない嫁に一泡吹かせ、もっと自分の言う事を真面目に聞く嫁に仕立てたかっただけだった。

それは単なる嫌味であって―――その裏にメッセージなど全く籠めていないものなのだ。


「わかりました。頑張って試作品をたっくさんご用意します」

「何だと?」


もうこの嫁が何を言いたいのか、全く分からなかった。


「ご慧眼敬服致します!女王杯の観覧者に試作品とアンケートを配布してくださる―――そうおっしゃって下さっているのですね。勿論、大歓迎です……!ちょっと忙しくなって屋敷には戻れなくなるかもしれませんが―――頑張りますわ。たくさん広く、バルツァー家以外の方々にも王国の予算で作った試作品を配り、意見を聞く―――それでこそ良い製品を作れるし、王国の利益に還元できると言うもの!」


そしてガバッとレオノーラはカスパルに抱き着いた……!


クロイツはアングリと口を開け、カスパルは目をむいて固まった。


「カスパル様!有難うございますっ……早速準備に取り掛かりますね!」


今度はガバっと体を離し、クロイツの方を振り返った。


「クロイツ様、今日は立ち会って下さり有難うございます。私これから色々手配する事ができましたので、仕事場に戻ります……!お食事は先に済ませてくださいね」

「れ、レオノーラ……」

「ではっ!あ、遅くなるかもしれませんから、先にお休みになっていて下さいませ!」


そしてピョンッと背の高いクロイツの首に飛びついて頬にチュッとキスをすると、淑女の礼も忘れて楽しそうに飛び出して行った。


カスパルはソファに寄り掛かったまま、茫然としている。


クロイツは拳を握りしめて、俯いた。


「お祖父じい様……恨みますよ、せっかく長い宿直があけて帰って来たのに……」


孫から漂って来る殺気に、カスパルはゴクリと唾を呑み込んだ。

腕に自信を持つカスパルだが、さすがに現役の近衛騎士である孫に勝てるとまでは思っていない。

ソファにピッタリと張り付いたカスパルに怒りを込めた瞳で見据え、クロイツはクルリと背を向けて扉へ向かった。


扉に手を掛け一旦「はぁ~」と溜息を吐いて、肩を落とすのが目に入る。

それから振り返らずに、クロイツはそのまま応接室を出て行った。

ズルリ……と、力が抜けてソファから落ちそうになったカスパルを、駆け寄ったアクスが支えた。







** ** **







それからの事の顛末―――




女王杯武道大会の観覧者を対象に、巷で噂となっていたレオノーラの基礎化粧品無料モニター体験が行われると発表されるや否や観覧申し込みが殺到した。

すると女性客への広告を兼ねて店の屋号を冠した賞与を申し出る商人が増加した。

女性観覧者が多いと聞きつけた武芸に覚えのある独身男性達の参加申し込みも増え、その年の女王杯は大変な盛り上がりを見せたと言う。







ラムぺが貴賓席にレオノーラと並んで座るカスパルに近付いて言った。


「……大変できた次期バルツァー侯爵夫人でいらっしゃいますね。仲も宜しい事で羨ましい限りです」


カスパルからレオノーラを紹介されたラムぺは、早速企画を立ち上げた。結果女王杯はかつてない大盛況に終り、初めて利益を出す事にも成功した。

彼の孫娘も勿論観覧に、いの一番で申し込み「お祖父じい様、大好き!」と感謝の意を示した。


ラムぺには悪気は全く無い。

純粋にカスパルとその孫の嫁であるレオノーラの連携に、あらためて敬服を示したつもりだった。




「……そう見えるかね……」

「ええ!」




カスパルが苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、きっと照れているからだ。

ラムぺはそう結論付けたのだった。



レオノーラの連勝でした。

お読みいただき、有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ