昔話 マグノリアの追憶 3
ホルン王国からの後詰要請を受けて、遠征軍が組まれる事となった。既に見習い期間を終えた後だったが、私はその編成から洩れていた。遠征が長引けば別だが―――やはりいかに剣術の腕が確かだろうと、最初の遠征軍に女を組み込む余裕は無かったらしい。
頭では理解出来るが、気持ちは複雑だった。何故なら同時期に騎士になった王立学院の同窓生達も幾人か、遠征軍に組み込まれたからだ。中にはツェーザルやクルーゲもいた。ツェーザルは志願したらしい。私も父に志願したいと相談したのだが―――却下された。
「お前は跡継ぎだ」
「同期のツェーザルもバルツァー家の嫡男ですが」
「あちらはいざとなれば『スペア』がいるだろう」
『スペア』
なるほど、カスパルの事か。貴族社会では当たり前の考え方ではあるが……私はカスパルの為人を多少なりとも知っている。弟がいたらこんな風だろうか、と思うくらいには親しい気持ちを抱くようになっていたから、何となく彼を物のように語る父の物言いに反発心を覚えた。
「―――父上も『スペア』を作れば良いでは無いですか」
口に出した途端、酷い失言だと気が付いた。
自分を軽んじる発言でもあるし、母を冒涜する発言でもある。
なかなか子供の出来ない母の、私は一粒種として大事に育てられた。私に弟を作りたい、嫡男を産まねばと―――母が努力していたのを知っていた。そして父は妻を大切に思っている。それこそ、義務として考えれば側室や妾を取らなければならない所を周囲から責められながらも彼女一筋を貫いている事を知っているのに。有難いと思いこそすれ、私に責める道理はない。だから私は王立学院に入学し、女ながらに家督を継ぐ決意を固めたと言うのに。
それに彼は私とカスパルに交流があるなど、露とも想像していないのだ。
鋭い視線に晒されて、私は目を伏せた。
「……失礼しました」
「いや、誰もが指摘する事だからな。それが貴族社会の常識だろう。ただ―――お前に言われるとは思ってもみなかった」
「……」
「重荷になったか?」
コリント家の家督が……?
「いえ、そんな事はありません」
視線を上げると……真っすぐ見通すような双眸に捉えられた。
「……男か?」
「は?」
「好いた男でも出来たのか」
「……まさか」
話題が妙な所に飛んでしまい、私は戸惑った。父が言っているのは、私に好きな男が出来て―――つまりその、何処か嫁したい所があるのでは、と言う懸念だった。
私は首を振った。
「あり得ません。ただ……私だけ安全な場所にいるのは、どうにも落ち着かないのです」
「これは陛下の意向でもある」
「え……」
「コリント流武術の血統を途絶えさせるのは、陛下にとっても本意では無い。それに王妃も王女達も―――お前を特に気に入っているから、手放しはしないだろう」
私は翌月から王妃の要請で近衛騎士団に異動し、王女達の警護にあたる事が決まっていた。
「分かってます」
「なら、この件は終わりだな。―――久しぶりに、手合わせでもするか」
「はい」
席を立ち道場へ向かう父の背を追いながら―――私は溜息を吐いたのだった。




