三話 超能力と中二病
前回のあらすじ。
幽霊は脅迫女でクラスメイト兼超能力者でした。
「私も超能力者なの」
まさか、こいつは……。
そうか、そういうことだったのか。
だからこいつはこんなことを……。
「なあ、中二病って知ってるか? 中学二年生ぐらいの多感なお年頃の子が自分は特別だと思いこんで空想上の不思議・超自然的な力を持っていると勘違いしちゃう愛される病だ」
「……え?」
「そうか、だからお前は俺を部活に誘ったのか。普通の人に「私、実は超能力者なんです!」とか言っても「は? なにこいつ、きめぇ」って言われて終わりだもんな。そんな変なこと言ったらクラスで無視、最悪いじめなんかにも発展しかねるもんな。だから俺にしたんだろ、俺はクラスから浮いてるから自分の中二病がバレる心配はない。もしかしたらヤンキーの俺なら自分の思いをわかってくれるかもしれないとも考えたんだろ?」
「……いや、私はそんなんじゃ」
「大丈夫だ! みなまで言うな。そうかそうか、今まで大変だったな、自分を偽る仮面を被っていないといけなかったなんて。心配しなくてもいいぞ、たとえお前がイタい中二病患者だとしても俺は差別なんてしない!」
「だから違うって……」
「そうだ! 俺と友達にならないか? ここで思う存分自分を吐き出せばいい。それぐらい協力してやるよ。少しずつ自分と見つめ合って行けばいいさ」
「……」
彼女は今までずっと独りだったんだ。周りに否定されるのが怖くて本当の自分をさらけ出すことができず苦悩する日々を過ごしていたに違いない。
「俺はお前を否定しない。お前が中二病だとしても冷たい目で見たりしない。俺と友達になろう」
「だ・か・ら、違うっていってるでしょ
ーーー!! 私は中二病なんかじゃない! いい加減にしないとぶっ○すわよ!」
あ、キレた。
「大丈夫だって、別に言い触らしたりしないから」
「だから、本当に超能力者なんだって! 次なんか言ったら本当に○すわよ!」
怒り過ぎて血管がきれそうだな。……そろそろおちょくるのもやめるか、良いネタだったのになぁ。
「んなこと言っても、はいそうなんですか、って言うわけないだろ。超能力者だって言うならそれなりの根拠か証拠でも見せてくれよ」
「言ったわね? いいわよ、特別に私の超能力をあなたに教えてあげる!」
勢いよく立ち上がり、大きいとも小さいともいえない胸を張って彼女は自信ありげに言い放った。
「私の超能力は完全記憶能力よ!」
完全記憶能力。言葉の意味そのままだとすると、一度見たものは忘れないとかそんな感じの能力か。
「……なんか微妙だな。暗記が得意なのと
同じじゃないのか」
俺の感想を聞き、彼女は不満げな表情をすると、次の瞬間にはニヤニヤと何かイタズラでもしそうな表情に変わった。
「この能力のすごさを教えてあげる」
そういって木更津は本を渡してきた。「俺の彼女がヤンデレかもしれない件について」という題名のライトノベルだ。
……オタクか。
「なあこの本……」
「別にいいでしょっ、ラノベぐらい読んだって! いいから適当に開いてページ数を言って!」
一応は自分がオタクであることを認めているようだ。
ちなみに俺はオタクではない。このラノベが400万部を越える超有名な作品で、すでにアニメ化していて今年の夏に二期が放送されるとかそんなことは一切知らない。
「じゃあ、126ページ」
「『て言ってもしょうがない。「でも、次は私とデートに行きなさいよね!もしまたアイツと行ったら……」葵から黒いオーラが漏れている。………………』」
「な! ……227ページ」
「『葵は静かに言った。「ねぇ、言ったよね? 次やったら……、って。優君が悪いんだからね? 優君が約束破ったから」真っ赤に熟れたザクロたちを踏みつぶしながら近づいてくる。………………』」
「……68ページ」
「『「えへへ、優君大好き!」そう言いながら葵は俺の胸に頭をすり付けてくる。「やめろよ葵、くすぐったいだろっ」照れくささを誤魔化すように俺は葵の頭を少し乱暴に撫でた。………………』」
「……全部合ってる」
「一度見たものは絶対に忘れない、これが私の能力よ」
どうやら本物の超能力者らしい。
「それでお前が超能力がすごいってことはわかったが結局この部活は何をすんだよ」
「葉月」
「は?」
「私には葉月っていう立派な名前があるわ。お前って呼ぶのは失礼じゃない?」
またしても彼女は不満気な表情を見せてくる。もしかしてわざとやってるのか?
「そうか悪かった、木更津。最近知らない奴とまともに会話したのは木更津ぐらいだったからな」
「……まあ今はそれでいいわ」
あまり納得してないようだ。名前で呼んでほしかったのか? それにしては知り合ってまだ数日しか経っていないのだから、どこか
不自然だろう。
「本当はそれぞれの超能力の違いや特徴を調べたかったのだけど私だけのじゃ意味がないし……」
「なら俺は抜けていいか?」
「ダメ」
了解です! 部長!
「とりあえず新しい超能力者が見つかるまで特別やることはないわ。たまに心霊スポットを廻るぐらいね」
「なら毎日こなくてもいいか?」
「ダメ」
了解です!
「忘れてたわ。スマホ出して、連絡先交換しておきたいから」
「はいよ」
俺は何の躊躇もなく自分のスマホを手渡す。
「スマホごと渡すなんて、知られてまずいこととかないの?」
「別に。連絡先も家族と藤崎のしかないからな」
藤崎なら自分の番号が木更津に知られても怒るどころか喜ぶだろう。
連絡先を交換して適当に時間を潰したあと普通に家に帰った。
「おい聞いたぜ! お前やっぱり木更津さん
に気があるんだろ!」
登校中に合流した藤崎がいきなり絡んできやがった。
「何の話だよ」
「とぼけるなって、クラスのやつらが木更津さんとお前が話してるの見たし一緒に歩いていくのも見たって言ってるぞ」
っち普段話しかけようともしないくせにこういうのに限って話題にするんだよ。
「どうやって落としたんだよ、コツとか教えてくれよ先生!」
「コツもなにもあっちから勝手にーー」
「あら、将悟くんおはようございます」
誰だ? 俺の名前を呼ぶ奴なんて藤崎しか……木更津か、部室とは雰囲気が全然違うし言葉遣いも外用の丁寧な方になってる。
「木更津さん! おはようございます!」
「藤崎さんもおはようございます」
「藤崎騙されんな、本当のこいつはーー」
「私がどうしたんですか?」
他人から見ると、木更津は俺に向かって微笑んでいるように見えるが、目が笑ってない。
それどころか木更津の目は、これ以上言ったら社会的にヤるぞ、と語っている。
「将悟、なんか言ったか?」
「……いやなんでもない」
俺は無力だ。
「今日は来週の親睦会に向けて班決めをしよーと思いまーす。特に規則とかってないですよね先生? じゃぱぱっと決めちゃってくださーい」
うちの学校の一年は修学旅行がない代わりに授業が始まってから約一ヶ月後、生徒同士の仲を深めることが目的の親睦会を行う。今年の旅行先は山梨県の辺りで最後には遊園地にも行くらしい。二泊三日でホテルは貸し切り消灯時の確認のときさえ部屋にいればその後はいくら騒いでも黙認されるとか。そのため、コンビニとかでお菓子やらジュースやらを買い込んで徹夜で騒ぐのも珍しくないらしい。
全部藤崎が先輩達から聞いた情報だ。
「おーい横須賀組もうぜ」
「北本も誘っとくか」
「木更津さんといっしょになりたいなぁ」
「帯広もいっしょだけどいいかー?」
「御姉様はどこかしら?」
「いんじゃねーの」
「木更津さん! ぼ、僕たちの班に入りませんか!?」
「ごめんなさい」
「雪ちゃんいっしょに組もっか」
一部変なのが混じっている。玉砕している奴も居るし。
そんなことより、ヤバいどんどん決まってるな。俺も早めに探さないと。
「藤崎たのむ、組んでくれ」
「おういいぞ」
よし、これで一人きりになるのは回避できた。
「すまんな、せっかくの親睦会だっていうのに」
「大丈夫だって。それにお前と組めばきっと……」
「将悟君、班は決まりましたか?」
木更津か。もしかして藤崎はこれを狙ってたのか。
「いや、決まってないぞ」
「そうですか、それは良かった。私たちも班に入れてもらってもいいですか?」
「全然まったく問題ないですよ! そうだろ!」
「まあいいんじゃないか」
俺に断る権限などない。受け入れるしか道はないのだ。
「ならよろしくお願いしますね」
「ところでおま……木更津の隣にいる奴は誰だ?」
「えっ、同じクラスなのに覚えてないの!」
木更津の横にいるショートカットの少女が
俺の言葉に反応してくる。
教室では藤崎と話すか寝ているかのどっちかだったからな。クラスメイトの顔や名前なんてほとんど覚えていないのだ。
「知らん」
「もう、クラスメイトの顔と名前ぐらい覚えといてくださいよ」
「あはは、知らないならしょうがないね。私の名前は浜崎杏子、よろしくね!」
自己紹介を終えるとにこやかな笑顔で俺に向けて右手を差し出してきた。
この俺に怖じ気つくことなく握手を求めてくるなんて凄まじいコミュ力を持っているようだ。くっ、笑顔が眩しいぜ!
「……おう。心山だ」
好意からの行動を断るのも失礼だろうから一応差し出された手を握り返す。
「自分は藤崎颯也って言います! 自分もよろしくしてください!」
ここぞとばかりに藤崎も浜崎に握手を求める。
「うーん、藤崎君はなんかイヤな気配がするからダメ」
「ど、どうして! やましいことなんてこれっぽっちもないよ!」
いや、下心と邪念で脳がいっぱいだろ。
「冗談だよっ! 藤崎君もよろしくね!」
そう言って浜崎は楽しそうに笑った。
「あっ、そういえば将悟君。今日もあとで部室にきてくださいね。ちょっと話したいことがあるので」
とにかく、親睦会は愉快なことになりそうだ。