二話 彼女の正体とは!
誰もいないはずの部屋にひとり佇む少女。
その少女は美しい光沢を備えた長い黒髪を持ち、街角で見かければ足を止めつい振り返ってしまうほどの整った顔立ちをしていて、そしてどこか人を遠ざけているような近寄りがたい雰囲気を出していた。
突然であったことと少女の美貌に目を奪われていたこと、この二つが重なった結果俺は立ち上がったまま呆然と少女に目を奪われていた。
「……ゆ、幽霊さんですか?」
「……」
えっ、うそ、マジ? マジで幽霊なの?
「……。っぷ、あははははははははは、うひひひひひひひひ」
「ひぃっ!」
いきなり笑いだした。やばい、逃げなくては!
「あっはははは、ひぃっ! ってなによ、うわっ! って。ビビりすぎじゃない」
「え」
「しかも、幽霊さんですか? って、そんな怖い顔して言うことが幽霊さんとか、あなた
見た目と言動に違いが有りすぎ」
「え、いや。えっ?」
「まだわからないの? 私が幽霊なわけないじゃない。普通にこの学校の生徒よ」
「いや、この部活、部員がいないって……」
「そうみたいね、ドアの張り紙に書いてあったわ。私は新入生、一年よ」
そうか、ただの入部希望者か。なんだ、びっくりして、恥をかいてしまった。早くここから逃げ出したい。
「そ、そうか、じゃ俺はこれで」
「待ちなさい」
「な、なんだよ」
「この学校の部活動って部員が二人以上いないと部として認められないの」
いきなりなに言ってんだこの女?
「そうなのか」
「ええ。言いたいこと分かるわよね?」
「……。俺にこの部活に入れと?」
「そういうこと」
この女は人数合わせのために俺もこの部活に入れ、と言っている。めんどくさそうだし、断っておこう。
「いや、俺、もう他の部活に入るって決まってるから。何を言おうと無理だから、悪いが他を当たってくれ」
完璧な言い訳だ。これで少女も諦めてくれるだろう。
少女は軽いため息をつくと、胸ポケットからウォークマンのような小さい機械を取り出した。それにしても改めて見るとけっこう大きい、どこがとは言わないが。
「もう一度聞くわ。この部活に入らない?」
「けっこうです」
「そう残念だわ」
そう言って少女は手に持っている機械のボタンを押した。
「「ゆ、幽霊さんですか?」、「ひぃっ!」、「え、いや。えっ?」」
「……」
「……。この部活に入りたい?」
「もちろんです」
こうして半強制的に俺の入る部活が決まった。
夜、俺はベットの上で今日起こったことについて考えていた。
明日、これからの方針について教えるからちゃんと部室に来なさい
少女はそう言い残して部室を出ていってしまった、。その後、俺はしばらく経ってから自分があの女にはめられたことに気づいたが、その頃にはあの女の姿はなく、外を捜しても見つけることはできなかった。
そして今、ベットの上で今後の対策について考えているところに繋がる。
「どーすればいいんだ?」
あの女を捜し出そうにも俺はあいつのクラスどころか名前も知らないのだ。って、クラスを知ったところでどうするつもりだったんだ俺。周りにヤンキーだと思われていても本当はなんちゃってヤンキーであって、カツアゲとか万引き、禁煙などお巡りさんに御用
になるようなことはしたことない。授業だってちゃんと受けている。誰も目を合わせようとしないが。ヤンキーっぽい行動なんてたまに他校のヤンキーと喧嘩するーー目つきが理由でーーぐらいだ。
話が逸れてしまった。何についての話だっけ?
ああ、そうだ。あの女だ。あの女を何とかできないかって話だった。どっかで会った気がしなくもないが、ちゃんと思い出せないあたり他人の空似だろう。俺はあの女について何にも知らないしなあ。
……ん?
まてよ?
よく考えればあの女は俺の名前を知らないだろうし、俺もあの女の名前を知らないじゃないか! なら、このままばっくれても大丈夫なんじゃないか? あの音声だって俺の知り合いとかに使わなければ意味なんてない。
なんだ、全然問題ないじゃないか。あとはあの女に会わないように旧校舎に近づかなければいいだけだ。
そもそも、俺はオカルトとかそっち系のものとはもう関わりたくない。ほんの、ほんの少しだけ可愛そうだと思ったりしなくもないがもうあの女と会うことはないだろう。
じゃあな、性悪女!
サヨナラバイバイだぜ!
「それでは心山君、行きましょうか」
なぜだ、なぜ奴がここにいる?
ここは俺のクラスだぞ、どうして俺のクラスを知ってるんだ?
「お前どうして俺のクラスを知ってんだ?」
「何を言っているのですか? 同じクラスメイトでしょう、私たち」
「マジで?」
「マジです。気づいてなかったんですか?」
恐ろしいことが発覚した。この女、俺と同じクラスらしい。会ったことがある気がしたのは同じクラスだったからか。そりゃあ、会ったことぐらいあるだろう、クラスメイトだもの。名前を聞いてこなかったのも普通に知ってたからか。
同じクラス、これがどういう意味だかわかるかな、諸君?
つまりだな。こいつから逃げるのは不可能ってことだ。
「それでは、部室に行きますよ」
「……おう」
部室に入ったとたん物腰の柔らかいお嬢様のよ雰囲気が一転イタズラ好きの猫のような人をおちょくるニヤニヤとした顔をして俺を睨みつけた。
「あなたクラスメイトの名前も覚えてないの?」
「別に、必要なかったからな」
「……呆れた。まあいいわ。私の名前は木更津葉月、このオカルト研究部の部長よ。これからよろしく、将悟」
木更津って藤崎が言ってた奴か。なんでも良いとこのお嬢様でそれに見合った容姿をしているため、どこか取っつきにくい雰囲気をしているが実際に話してみると嫌みなところがなくまたお茶目な部分もあり割と庶民的なので簡単に打ち解けることができるとか。
確かに顔は整っているしスタイルも悪くない、がしかし、お茶目ってレベルじゃないことをしてくるし嫌みな奴ではないが堂々と脅してくる嫌な奴だ。
教室と雰囲気違うし。
「俺じゃなくても適当に誰か誘えば良かっただろうに」
「最初から将悟をこの部活に入れることは決めていたわ。それにこの部活に入るには特別な条件があるわ。私が決めたの」
私がルールだってか、なんて横暴な。
つまりなんだ、どっかから適当に見繕わなかったのはその特別な条件ってやつを満たす人がいなかったからってことか。
俺にはあって他の人にないもの……
「目力か」
「違うわよバカ、ちゃんと考えなさい」
……こいつけっこう口が悪いな。教室のときの態度とはまるっきり逆だ。お嬢様らしく振る舞うのもけっこうストレスが貯まるのか? 俺に当たらないでほしい。
「仕方ないわね、ヒントよ。「オカルト研究部」これも関係あるわ」
オカルト、……いやまさかな。こいつが知ってるわけがない。そもそもあれを知ってるのは極少数のはずだし。
「いつまでシラを切るつもり? ったく、しょうがないわね。もう一つヒントよ、木更津グループは医療系を主に、特に最先端医療に関する研究を取り扱っているわ」
凄い良いとこのお嬢様じゃないか。なんでこんな学校に通ってんだよ。
ってことは、大学病院で検査した俺のあれに関するデータを……!
「ま、まさか、お前知ってるのか!?」
木更津は笑みを深めて言った。
「ええ、知っているわよ。
あなたが超能力者だってことを」
……な、なんてこった!! こいつ俺の能力を知ってて俺の目の前に立ってるのかよ!
「……たいした度胸だな、俺の能力を知ってt「まあ、詳しくは知らないんだけどね」
へ?
「お前、俺が超能力者ってこと知ってんだろ? だったら能力だって……」
「私が見たのは超能力者のファイルにあなたの名前があったってことだけ。詳しいところは知らないわ」
俺の能力についてはなんにも知らないのか。どうりで普通に会話してるんだな。
なら、このことも知るまい。
「残念だったな、俺はもう超能力者じゃない。元超能力者だ」
「ーーっ!」
ふっふっふ、やっと出し抜けたな。
……って今の情報教えてよかったのか!?
「ま、まあいいわ。べ、別に関係者であることには変わりないんだしっ」
木更津は驚いた顔を誤魔化しながら言い訳をするように言った。
チッ、だめだったか。
「超能力者なんか集めて何がしたいんだよ? 戦争か?」
「そんなわけないでしょ、現代科学なめんな」
ちなみに俺の能力では相手が武器を持ってる時点でアウトだ、すぐ死ぬ。
「なら、何がしたいんだよ?」
「私はこの部活で超能力について研究や調査をして超能力とは何か、超能力はどこから来ているのか? 自分の手で探して、自分の手で掴み取りたいのよっ、超能力の正体を!」
……こいつ、もしかしてただのオカルトバカか!
「なんで俺までそんな面倒なことしなきゃいけないんだよ」
「「ゆ、幽霊さんですか?」」
「どこまでもお供します、部長」
いやさ、いまのがクラスにバレたらヤバいじゃん。それにほら、超能力についてもバレてるし、俺には拒否権がないとか……、まーそんな感じだから。しょうがないよね?
「うむ。実験台は多ければ多いほど良い。一つより二つよね」
実験台って俺は解剖でもされんのか? そこまでは付き合いきれないぞ。
あれ?
「今、一つより二つって言ったよな?」
「言ったけど?」
「ってことは、俺以外にもう一人いるのか!? 超能力者が!」
「ええ、そうよ」
マジかよっ! 俺以外にもいたのかよ!
「ど、何処にいるんだ!?」
「いるじゃない、ここに」
「なに言ってんだ! ここには俺とお前しか……、ま、まさか!」
「ふふふ、ええ、そうよ。
私も超能力者なの」