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一話 彼の日常


 皆さんは超能力というものをご存じだろうか? そうそう手に触れず物を動かしたり何もないところから火を起こしたりするアレでである。テレビでよくやっている霊と話せるだとか気を操れるだとか、そういうのも超能力の一種といっても問題はないだろう。本当にできるのか胡散臭いが。


 まあ、それは一端置いといて。今、皆さんはこんなふうに感じているだろうだろう。こいつ、いきなり何を語っているんだ? と。普通の人ならそう感じても仕方がない、というか疑問に感じない方がおかしいだろう。俺だっていきなり超能力がどうとか言われてもオカルト好きなのかそれとも中二病なのかと疑うだろう。だがしかし、俺はオカルト好きではないし、ましてや中二病でもない、だんじて。俺は理由があって皆さんにこの話をしているのだ。皆さんが誰とは言わないが。


 また、話がずれてしまった、話を戻そう。


 俺が言いたいことは健全な男子なら一生に一度は超能力に憧れたことがあるだろうということだ。確かに超能力があれば便利だし有名人にもなれるだろう。空を飛んだり、念力を使って空中でコーヒーを入れたりすることだってできる。憧れるのも当然のことだろう。


 だが、俺はそう思わない。超能力なんて必要ないと思ってるし、たとえくれると言われても絶対に受け取らないだろう。超能力なんてクソ食らえだとすら思っている。


 なぜ、そんなことを言うのかだって?


 簡単なことだ。


 俺は超能力を持っていたからだよ。











「んぁ、……朝か、なんか意味の分からない夢を見ていた気がする」


 何かを説明しているような夢を見ていた気がする。夢の中の俺は何をしていたんだ? しばらくベットの上で夢の内容を考えながら微睡んでいると階段を掛け上がる音が聞こえた。ちなみに俺の部屋は二階にある。


「お兄ちゃん! 朝だよ、もう起きる時間だよ!」


 扉の向こうから少し幼げで女性ほど高いわけではない中性的な声が耳に入ってきた。


 たぶん、悠の声だろう。


 悠というのは俺の二つ下の弟の名前だ。女顔で小柄なのでよく女と間違われる。そして俺のことをお兄ちゃんと呼んで慕ってくれて毎朝起こしにきてくれる健気で可愛い弟だ。ちなみに物理的にも可愛い。


「もうご飯できてるよー」


「分かった。今行く」


「あれ、もう起きてるんだ。いつもはまだ寝てるのに」


「意味の分からん変な夢をみたんだよ」


「どんな夢?」


 そんな何気ないごく普通の会話をしながら階段を下りていく。






「兄さん、……今日は早いね」


「さっき悠にも同じようなこと言われたよ」


 台所で朝食の準備をしてくれているのは妹の綾だ。綾は俺の一つ下なので悠の姉でもある。口数が少なく、表情の変化もあまりないため、怖い人だとよく誤解される。


 三人で朝食を食べ、美しい兄弟愛を再確認してから俺は学校に向かった。







 俺は学校ではヤンキーとして扱われている。いくつか理由があるが、俺がヤンキーだと思われている一番の理由は見た目だろう。なにを隠そう、俺の髪は金色に染まっているのだ。この金髪と人殺しのような目つきによって、俺はいかにも悪そうなヤンキーと化している。


 まあ、この見た目のおかげで俺に関わろうとする奴が居ないので案外好都合だったりもする。


 俺としては卒業さえできればいいので、誰も話しかけてこないこの浮いている現状を気に入っているのだ。


「よぉ、将悟。今日はずいぶんと早いな」


 ……忘れてた。この学校で唯一話しかけてくる奴が居る。それがこいつだ。


「まあな、特に意味はないが」


「ヤンキーなのに早く来るなんて変わってるな」


「別にいいだろ、ほっとけ」


 こいつの名前は藤崎颯也。


 ずいぶんとなれなれしいやつだが、一人でいたいときはさっと身を引いてくれるように

気が利くし、俺がクラスで孤立しないように話しかけてくれる気のいい奴なのでむげにできないでいる。どうして自分に気を掛けるのか聞いても「ヤンキーと友達ってかっけーだろ」と誤魔化すばかりで恩着せがましくないところもこいつの美点なのだろう。なお、俺が孤立しているのは変わりない。


「そういえば将悟はどの部活に入るか決めたか」


「いや、まだだけど」


「まだ決めてないのか。もう入学してから一ヶ月も経ってんだぞ。なんかこうビビッときたのはないのか」


「そういうお前はどうなんだよ」


 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりにその場で一回転すると藤崎は言った。


「いいか、よく聞け。この俺が入るのは……軽音部だっ!」


「ベタだな」


「そんなこと言うなよ。俺はギターやって可愛い女の子を落とす予定なんだからさ」


「動機が不純すぎる。お前、絶対途中で辞めるだろ」


「大丈夫だって。きっと俺には音楽の才能があるはずだ! それを利用するんだ! 目標は木更津さんレベルの美少女だぜっ」


「……木更津って誰?」


「将悟、お前……。クラスメイトの名前も覚えてないのかよ」


「別に必要ないからな」


「はぁ、まったくお前って奴は。木更津さんは窓際に座ってるあの女の子だよ」


「へぇ、あの長い黒髪の?」


「そうそう、なかなかの美少女だろ」


「何でお前が自慢げなんだ」


 そこには一人の少女が憂鬱そうな顔で頬杖をつき、窓の外を眺めている姿があった。少女の視線の先に目を向けると校庭で部活動の朝練をしている高校生たちの姿が見えた。


「なんだ、惚れたのか?」


「まさか、んなわけあるか」


「木更津さんはレベルが高いからな、将悟じゃ無理だろ」


「だから、別に惚れてねえよ。つーかお前は何様なんだ」


「颯也様だ」


 藤崎から冷やかしを受け軽口を叩き合っているとチャイムが鳴り、担任が教室に入ってきた。






「将悟、それで部活は決まったのか? うちの学校は部活動に関しては強制らしいからな。名前だけでもどこかの部活に入れとけよ。それとも俺と一緒に軽音部に入って熱いビートでも奏でるか?」


 授業の終わった放課後、黙々と帰る準備をしていた俺を藤崎はいっしょに軽音部に入らないかと誘ってきた。しかし、こいつはギターを弾けるのか?


「いや、適当に探して名前だけ入れとくわ」


 そもそもまともに部活動なんてするつもりがなかったため、俺は藤崎の誘いを断った。


「そっか、まあ入りたくなったら俺に言ってくれ。仲を持つぐらいしてやるよ」


「悪いな」


「別に、気にすんな」


 そう言うと、入部届け出してくる、と言ってどこかに行ってしまった。


 特に用事があるわけなんてなく、意味のなく学校に残る理由もないため俺はそのまま帰ることにした。






 そうする予定だった。しかし、俺は忘れていた。今日から部活の勧誘が始まることを!


 部活の勧誘期間である今日、校内ではそこら中で部活の勧誘が行われている。うちの高校は地元にあるような公立の高校とは比べ物にならないほど規模が大きく生徒の数もほかの高校と比べてかなり多い。そうなると部活動の数も多くなってくる。つまり、なにが言いたいかというとだ。


 ものすっごくうるさいってことだ。


 運動部から文化部まで様々な部活が部員を確保するために声を大きく、ときには怒鳴りながら新入生を勧誘している。その勧誘方法も様々で、さっき気弱そうな男がラグビー部に捕まり担がれてどこかに行ってしまった。あいつ大丈夫か? ほかの場所では藤崎が行ってた軽音部が演奏をして人の目を引きつけていた。あ、また誰かがラグビー部に捕まった。下手したら入りたくもない部活に入ることになりそうだな。


 そんな中俺に他人を心配する余裕があるのにはちゃんとした理由がある。


 それはだな、誰も俺に声を掛けようとしないからだ。さっきなんてビラ配りの女の子と目があった瞬間彼女は顔を真っ青に染め悲鳴を上げてどこかに走り去ってしまった。流石に堪えた。別にそんなに怖がらなくてもいいじゃないか、目があっただけじゃないか、ヤンキーにだって心はあるのです。それにあんた、持ち場はなれてんぞ、ビラ配りはいいのか。


 そんなこんなが数回続き、校門前での勧誘がヤバいことになっている--具体的にはラグビー部やアメフト部などの肉体派の方々が屯しているーーのでどこか人がいないところで時間を潰すことにした。






 俺は今旧校舎にいる。この旧校舎は数十年前に新校舎が建てられてから授業では使われなくなったため、現在では各部屋が小規模の部活の部室として使われている。


 なぜ俺が旧校舎にいるかというと旧校舎は学校の敷地の端、つまり校舎からけっこう離れているため勧誘の騒ぎがここまでは届いていないのだ。旧校舎と言ってもこの建物はとても大きいので使われていない部屋があるかもしれない。そこで、安全に帰れそうになるまでここで一眠りしようと俺は考えたのだ。


 と考えていたが俺の考えは甘かった。この旧校舎の大量にあるすべての部屋が部室として使われている。なんだよイカ研究会って。しかも隣はタコ研究会で、そのまた隣は貝類研究会、そのまた隣は珍味研究会。イカの研究ってなんだよ、イカもタコも同じようなもんだろ。しかも、こいつら研究した物食ってんだろ。


 他にも意味の分からない部活がたくさんあり、空き部屋はなかったというわけだ。


 しかし、ひとつだけ利用できそうな部屋があった。それは「オカルト研究部」という部活の部室だ。この部室のドアには張り紙がされており、その内容はここ数年部員がいないこと、入部希望者は自由に部室を使っても良いということだった。


 俺としては都合の良い話だが「オカルト研究部」というところが引っかかる。昔、そっち関係でいろいろあったのでなるべくオカルトとかには関わりたくないのだが。といっても他に利用できそうな部屋はない。


 しかたない。どうせ今日だけだ。誰もいないのだし勝手に利用させてもらおう。


 そうして俺はオカルト研究部の部室でひとり眠りについた。











 見たことのないいくつものシミがある天井が目に映る。


「知らない天井……か」


 寝ぼけた脳でどういうことか思い出していると窓から夕日が射し込んでいることに気づく。そうか、おれは旧校舎で寝てたんだ、勧誘のほとぼりが冷めるまで。しかし、結構な時間寝てたようだ。弟たちが心配しているだろう、早く帰らねば。


 視線を窓から外して立ち上がり軽く伸びをする。長時間座っていたため体中から音がでる。そうしてやっと鞄を探そうと正面を向くと鞄とともに何か目に映る物があった。



 そこにはひとりの少女が座っていた。


 ここはオカルト研究部の部室、誰もいないはずの部屋。


 もしかして


 幽霊?

ご愛読ありがとうございます

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