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エスティマ滅亡編4


夕方。日がもうすぐで沈みかけの頃、今日最後の講義を受けて講堂を出た。クマみたいにデカイ、オーガ先生の話。少し授業の時間は長引いたが、彼の話はいつも面白い。


壁を越えて東へずっと行ったところに迷いの森があるそうだ。

あるときその森へ隣国の王子が部下の数人を連れて入って行ってしまったそう。なんでも、自分は迷信なんて信じないぞという意気込みからだったそうだが、結局彼は戻ってこなかった。晩になっても戻ってこない王子に痺れを切らして、国王が森へ兵を向かわせたそうだ。当時オーガ先生もその国で兵士をしていたため、一緒に向かったらしい。

結局、人騒がせな王子は森の中で倒れているのを後から駆けつけたオーガ先生達が保護したのだが、その時さっきまであった道や鳥の鳴き声などが突然消え、昼間なのに太陽の光が届かなり、夜の森のようだったらしい。先生曰くあれは森が生きていたとかなんとか。おまけに森の悪魔達が襲ってきたらしい。


命からがら逃げたものの、出口が分からない。先生達は、明かりが欲しいからと、松明に火を付けたそう。しかし、誤って手が滑り松明は枯れ木へ枯れ木から大木へと燃え広がり、辺りは火の海。


その時、木の間から日光が差し掛かって、出口が分かったそうだ。


森の精霊からすればとんだ迷惑な話だが、今では彼の武勇伝の一つになっている。


生徒の中には、オーガ先生の話を嘘だと鼻で笑う者も少なくない。が、自分はそれが嘘であれ、本当であれ、面白可笑しく受け取っている。実際のところ、先生のような外からきた人を除いて壁の外へ出たことはないのだから、分かるはずもない。


自分達、エスティマの人間は外へ出てはいけない。そして滅多なことがない限り外の人もこの国へ来ることが禁じられている。昔一度本で読んだ話なのだが、旅芸人や商業人もこの国には来れないらしい。見たことがないから、なんともいえないが、もしかしたらそれは想像上のものなのかも知れないが。


小さい時、他の先生に尋ねたら、壁の外には悪い人や病気が沢山あるからだと言われた。オーガ先生や母は違うと言ったが、何方にせよ聞かれた側は困った顔をするので、そういうもんなんだと思い込むことにした。



聖堂を出て直ぐの正門に傘を持った弟のアモンが立っていた。アモンは他の生徒より少し遅れて出てきた兄の姿を確認して、此方へ手を振った。


「兄ちゃん、お疲れ!」


今年で14になる。7年前、彼は壁の外から来た。というよりも、門番に隠れて壁の外に出た先で川岸に倒れていた彼を連れて帰ってきたのが、ルシアとアモンの出逢いだった。


しかし外からの移住は法律に反するということで、そこをなんとかと頼み込み、結局彼をロワンド家の養子として迎え入れる扱いとなり今にいたる。彼とは血は繋がっていないが、母もルシアも彼のことを心から愛していた。ただ少し気がかりなのは、彼は身体が弱いということ。同じ年の子供達と比べて、体は細く小さかった。


その為、いつもは家で療養をし唯一兄を迎えにくるこの時間は兄の監視下の元外を出歩いてもいいことになっている。


「あ、この傘ね。お母さんが夕立が来るかもしれないからって」


アモンはよく気が回る。少し不思議に思ったことも、先を読んで、教えてくれる。本当に出来た弟だった。


「それからね、今日の夕飯は兄ちゃんの好なシチューだよ!あ、でも嫌いな人参も食べなさいって、一緒に煮込んでた……」


そんな話をしつつ、我が家へと向かう。後ろには楽しそうな二つの長い影が足元から伸びていた。


それはいつも通り、なんの代わり映えもない平和な1日で。これから先もずっと続くと信じていた1日で。



終わりは突然やってくる。

平和な日常を打ち破る鐘が、右から左、上から下へ。四方八方から響き渡る。

それは今まで一度も鳴らされなかった、平和の象徴の鐘。そしてこれからは、一生我が身のトラウマとなるであろう、危険を知らせる鐘の音。


「逃げろ!賊軍が攻めてきたぞ!!」


何処からか聞こえてくる、凛々しい声。だけど、誰かは言った。逃げるったって何処へ。この狭い壁の中で、自分達は逃げ場所なんてなかった。

守るために作った壁が、自分達の首を絞める。ものは全て見方次第で善にも悪にもなる。いつか先生が言っていた言葉が頭に響いた。

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