エスティマ滅亡編2
騎士学校の馬鹿でかい正門を潜ると、大理石で造られた講堂が広がっていた。
廊下や闘技場においても同じ素材でできているため夜は月夜が反射して灯りもいらない。
講堂の中心には聖剣と共に初代国王ラグーンの銅像が飾られてある。彼は昔この地帯一帯を神に与えられた聖剣を使って統一したのだとか。もう500年以上も前の話。今ではただの迷信になってる。
誰もいない、静寂が包む廊下を通り西の別館へと向かう。そこには模擬戦用の広い聖堂があり、もう既に一人の生徒が素振りを始めていた。
ルシアは、彼____ギルベルトに近づき挨拶を交わす。
そして軽率化された防具をつけて、模擬戦を開始した。
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模擬戦は3本勝負。模擬剣で相手の胸、腕、足首、横腹の何処かに当たれば一本。ノンストップで3本何方かに入るまで続け、突くか切る何方でも良い。ただ、突く方が美しいという人もいる。
結果は惨敗。手と足両方切られて、最後に心臓を一突き。戦場で彼___ギルベルトに出逢えば、死を覚悟するか一か八か全速力で背を向けて逃げ出す方が得策だと思う。彼の戦術は正に戦術のお手本になっていた。
とは言うものの、実際のところルシアや彼、ギルベルトでさえ戦場というものを体験したことがないのだが。
聖堂には人影がぱらぱらと見え始めた。話し声も何処からか聞こえてくる。
ルシアは水道で一汗流し終えると、縁側の長椅子に腰掛けて目を閉じた。
と、誰かが目の前に立った気がした。
「ルシア、君は本当に懲りないね」
目を空けると、ギルベルトが自分の横に人一人分のスペースを空けて座ろうとしていた。
彼は此方を向いて人の良さそうな笑みを浮かべる。
自分が彼に毎朝模擬戦を挑む理由、それは彼が唯一この騎士学校で誠意を持って励んでいるからで。
「いつか俺、ギルベルトさんに勝つって決めてますから」
と言うと、彼に愛想のいいあの笑みで笑われてしまった。夢のみすぎだと思われただろうか。そう反省していると、彼は笑いを止めて真剣に話し出した。
「すまない、そういうつもりで笑ったんじゃないんだ。君のその言葉、いいなと思ったんだよ。私の周りでは、夢を話す者がいないものだから」
彼は前にも一度、ルシアにこの話をしていた。
この国には夢を語る人がいない。それは壁に守られた___言い換えれば、檻の中の不便のない自由な暮らし。衣食住には困らず、与えられた身分を全うすれば生涯の保証はされている。だから人々は高見を望まなくなる___夢を見ることもなくなった。
ルシア自身、この生活も案外悪くないと思っている。家には母と弟が居て、騎士学校では心身ともに鍛えることが出来る。それの何が不満なのか。
次期国王、ギルベルト=ラグーンは一限目の始まる間際、答えのない質問をルシア、もしくはギルベルト自身へと投げかけた。
「私達は何の為に武術を学んでいるのだろうか」