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魔獣を倒せば赤字、依頼を受ければ賠償金。そんな俺が異世界最強です

作者: 日御碕 出雲
掲載日:2026/09/17

【第11作目】異世界での理想と現実を考えて1本書いてみました。

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 目を覚ました時、俺は白い空間にいた。


『あなたを異世界へ転生します』

目の前には女神がいた。


 きた。

 ついにきた。

 俺は興奮した。


ラノベで何百冊も読んだ。異世界転生。チート能力。冒険者ギルド。美少女パーティー。

人生逆転の瞬間である。


『あなたには強力な戦闘スキルを授けます』

「ありがとうございます!」

そして、おきまりの会話をした後、異世界に舞い降りた。


◇


 冒険者ギルドに登録した俺は、人生初の依頼票を握りしめていた。


初心者向け、ドがつくほどの定番いや王道。

『薬草採取クエスト』

全ての異世界主人公が通る道である。


「まずはここからだな」

意気揚々と森へ向かった。

そして森へ入った瞬間、神様から貰ったスキルが発動する。

頭の中へ地図のような情報が流れ込む。


「おおっ!?」

薬草の位置が全部見える。


数百メートル先。

谷の下、倒木の裏。

普通なら見つけられない場所まで手に取るように分かる。


「これチートじゃん!」

 興奮した。


見つける。

採る。

走る。

また見つける。


採る。

採る、採る、採る。


気が付けば夕方になっていた。

背負い袋は満杯。

それでも足りず紐で束ねて背負った。


「これは大儲けだな」

 ニヤニヤしながらギルドへ戻る。


ギルドへ入った瞬間。

全員が俺を見た。

視線が痛い。


なぜだ。


俺は受付へ薬草の山を置く。

ドサドサドサドサッ!

受付嬢が固まった。


「……これは?」

「薬草です」


「見れば分かります」

「採ってきました」


「どこからです?」

「東の森です」


「全部?」

「全部です」


 沈黙。


周囲の冒険者が集まる。

「嘘だろ」


「新人だよな?」

「一人でか?」

ざわざわと騒がしくなる。


俺は気分が良かった。

注目を浴びる主人公。

完全にラノベである。


◇


 翌日。

俺は金貨の山を受け取る予定だった。

予定だった。


「買い取り金額はこちらです」

 受付嬢が紙を置く。


俺は眺める。

二度見した。

三度見した。


「安くない?」

「安いですね」


「なんで?」

「あなたのせいです」


「は?」

 意味がわからない。


 受付嬢は疲れた顔で説明した。

「昨日、大量の薬草が市場へ流れました」

「はい」


「供給量が急増しました」

「はい」


「価格が暴落しました」

「はい」


 そこで理解した。

「俺のせいか」

「あなたのせいです」


想像以上に資本主義だった。

異世界。


だが問題はそれだけではなかった。

さらに三日後。

ギルドへ呼び出された。


会議室のような場所へ連れていかれる。

なぜか受付嬢が三人いる。


怖い。

嫌な予感しかしない。


「薬草群生地の調査結果が出ました」

「はい」


「壊滅です」

「はい?」


「壊滅です」

 二回言われた。


地図が広げられる。

丸印だらけだった。


「この辺り全部あなたですよね?」


「そんなわけないでしょ」


「いえ全部あなたです!」

 確認すると本当に全部だった。


採れる場所を片っ端から回った結果、東の森の薬草資源がほぼ消滅していた。


「再生まで数年かかります」

「え?」


「管理組合から苦情が来ています」

「え?」


「こちら請求書です」

「えええええっ!?」

 人生で初めて薬草採取で借金を背負った。


◇

 その後。

俺は考えた。


「薬草は駄目だ」

もっと冒険者らしいことをしよう。


そう、魔法である。

男なら火魔法だ。


俺は広大な草原へ向かった。

「ここなら大丈夫だろ」


周囲には何もない。

完璧だ。

魔力を練る。


「ファイアボール!」

直径一メートル近い火球が飛んだ。

着弾。

ボッ。

「おお!」

思わず感動する。


だが。

その日は風が強かった。

火の粉が舞う。

草へ落ちる。


ボッ。

さらに落ちる。

ボッ。

ボボボボボッ!


「あれ?」

 嫌な予感。


火が走った。

まるで地面に火薬を撒いていたかのように。

炎の帯が一気に草原を駆け抜ける。


「ちょっと待てぇ!」

 俺は水魔法を放った。


大量の水が降る。

一か所は消えた。

しかし別方向が燃えていた。


「あああああ!」

走る。

消す。

燃える。

走る。

消す。

燃える。

全然追いつかない。


最終的に近隣の村から住民が集まり、大規模な消火活動になった。


俺も必死で消した。

全身泥だらけになった。

夜には何とか鎮火。


「終わった……」

 安心した。



 翌日。

ギルドから請求が…。

消火費用、人的動員費、農地補償。


「またなの!?」

借金が倍になった。


◇

 それから一か月後。


俺は盗賊討伐の依頼を受けた。

今度こそ名誉挽回である。


盗賊のアジトは山中の洞窟。

五十人規模の大集団らしい。

「よし、倒せば一気に稼げる」


俺は洞窟へ突入した。

奥から盗賊たちが現れる。


「冒険者か!」

「返り討ちにしてやる、殺せ!」

わらわらと押し寄せてくる。


「甘い!閃光斬!」

俺は神からもらった斬撃スキルを発動した。


巨大な光の刃が洞窟を走る。

盗賊たちをまとめて吹き飛ばす。

我ながら完璧な一撃だった。


 しかし。

ゴゴゴゴゴ……

「ん?」


嫌な音がした。

天井にひびが走る。

壁も切れて割れている。


「あれ?」


そして。

ドガァァァァン!


「うわあああああ!」

洞窟が崩れた。


 三日後。

俺は治療院のベッドで目を覚ました。

全身包帯だった。


「生きてる……」


扉が開く。

受付嬢だった。

満面の笑顔である。


 怖い。

「お元気そうで何よりです」

「ありがとうございます」


「請求書です」

「早いな!?」


掘削撤去人員費、救助費、治療費、入院費。

信じられない額になっていた。


「討伐報酬は!?」

「差し引きマイナスです」


「嘘だろ!」

盗賊討伐なのに借金が増えた。



◇

その頃からである。


ギルドで俺を見る目がおかしくなったのは。

依頼を受けようとすると。


「あっ」

「疫病神だ」

「近寄るな」

そんな声が聞こえるようになったのは。


酷い、本当に酷い、俺は被害者だ。

たぶん。


◇

 ある日。

ギルドに緊急依頼が入った。

森の巨大魔獣討伐。


村を襲う危険な存在らしい。

周囲の冒険者が嫌そうな顔をする。


「あいつ行かせよう」

「いや、森が消える」

「確かに」

「村ごと消える可能性もある」

風評被害がひどい。


でも結局、俺が向かうことになった。


巨大魔獣は恐ろしく強かった。

5mはある巨体。

鋼のような毛皮。

一撃で木をへし折る腕力。


だが戦闘能力だけなら俺も規格外だった。

「おおおおお!」


 激戦の末。


最後の斬撃が魔獣を両断した。

巨体が倒れる。

森が揺れた。


「勝った!」

俺は英雄になれると思った。


だが。

重大な問題に気づく。

「運べない……」


大きすぎた。

仕方なくギルドへ救援を要請する。


二日後。

運搬隊と共に戻った。


すると。

「……あ」


魔獣がなかった。

正確には残骸しかなかった。


大量の魔物に食い荒らされていたのだ。

 肉はボロボロ。

 皮も傷だらけ。

 角も欠けている。


素材担当が悲しそうな顔をした。

「最低評価ですね」

「そんな……」


「解体費いただきます」

「え?」


「運搬費もです」

「え?」


村人たちは救われ歓声を上げた。

俺だけ赤字だった。


◇

 それから数年。


借金は増え続けた。

評判も悪化した。


ギルドでの呼び名は増えた。

【借金王】【歩く天災】【疫病神】【災害級冒険者】

どれも嬉しくないものばかりだった。


だが不思議なことも起きていた。


 俺が暴落させた薬草。

安価になったことで貧民にも薬が行き渡り、多くの命が救われた。


 燃えた草原。

翌年には肥沃な土地となり大豊作になった。


 崩落した盗賊団のアジト。

長年討伐できなかった大規模組織が壊滅した。


 巨大魔獣の死。

周辺地域は平和になった。


誰もが恩恵を受けていた、 俺以外…。


◇

 ある日。


王都へ呼び出された。

絶対に逮捕だと思った。


王城へ行く。

貴族が並ぶ。


国王が玉座に座っている。

胃が痛い。


「冒険者よ」

「はい」


「汝の功績を称える」

「……はい?」

 話が見えない。


『薬草流通改革』

「事故です」


『大盗賊団殲滅』

「事故です」


『大魔獣討伐』

「赤字でした」


「見事であった」

 会話が成立しない。


そして国王は宣言した。

「よって褒賞金を与える」


「本当ですか!?」

俺は立ち上がった。


 だが。

財務担当の大臣が一枚の書類を見せた。

「なお借金返済に充当されます」

「え?」


「全額です」

「え?」


「全額です」

二回言われた。


城を出る頃には夕方だった。

結局一枚の金貨も手元には残らなかった。


遠くで冒険者たちの声が聞こえる。

「あれが例の男か」


「厄災英雄」

「歩く国家事業」

「被害も利益も桁違いだ」

笑い声が響く。


俺は空を見上げた。

青空だった。


 神様。

あなたがくれたチートは本物でした。

確かに最強です。


 ただ一つ。

どうしてこうなるのかだけ教えてほしい。


 その時。

ギルド職員が走ってきた。

「大変です!」


「今度は何ですか……」

「北の貯水湖に古竜が現れました!」


周囲がざわつく。

国家級災害だ。


「報酬は?」

 恐る恐る聞く。


「超高額です!」

借金返済の文字が頭をよぎる。


「行きます!」


すると職員は真顔になった。

「ちなみに失敗した場合」

「はい」


「ダムが決壊して下流の町が水没します」

「帰っていいですか?」


「ダメです」

周囲の冒険者たちが大爆笑する。


俺は静かに天を仰いだ。

こうして今日もまた、異世界最強なのに貧乏な疫病神冒険者は旅立つ。

おそらく世界を救うために。


そして間違いなく借金を増やすために。

そんな伝説の始まりであった。

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もし、よければ過去作も読んでみてください。

①・コンビニ「アクマート」へようこそ!

②・魔王を倒した剣ですよ!没収ですか…

③・伝説の装備を手に入れたら「Version 12.4」って書いてあったんだが

④・異世界にだって予防接種はあります!

⑤・古代龍素材での装備注文にはご注意を!

⑥・迷宮レビュー☆2につきまして  ~迷宮建設部は今日も炎上中~

⑦・伝説の剣を取りに行っただけなのに  ~この異世界クレーンゲーム、取得率何%ですか?~

⑧・転移魔法のご利用は計画的に ~穴入って穴に入りたい思いをした勇者の話~

⑨・勇者は静かに戦いたい ~なのに聖剣が毎回ライブを始める~

⑩・へっぽこ魔導士とツンデレ魔導書。好感度を上げたら終焉の禁呪が解禁された件

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