魔獣を倒せば赤字、依頼を受ければ賠償金。そんな俺が異世界最強です
【第11作目】異世界での理想と現実を考えて1本書いてみました。
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目を覚ました時、俺は白い空間にいた。
『あなたを異世界へ転生します』
目の前には女神がいた。
きた。
ついにきた。
俺は興奮した。
ラノベで何百冊も読んだ。異世界転生。チート能力。冒険者ギルド。美少女パーティー。
人生逆転の瞬間である。
『あなたには強力な戦闘スキルを授けます』
「ありがとうございます!」
そして、おきまりの会話をした後、異世界に舞い降りた。
◇
冒険者ギルドに登録した俺は、人生初の依頼票を握りしめていた。
初心者向け、ドがつくほどの定番いや王道。
『薬草採取クエスト』
全ての異世界主人公が通る道である。
「まずはここからだな」
意気揚々と森へ向かった。
そして森へ入った瞬間、神様から貰ったスキルが発動する。
頭の中へ地図のような情報が流れ込む。
「おおっ!?」
薬草の位置が全部見える。
数百メートル先。
谷の下、倒木の裏。
普通なら見つけられない場所まで手に取るように分かる。
「これチートじゃん!」
興奮した。
見つける。
採る。
走る。
また見つける。
採る。
採る、採る、採る。
気が付けば夕方になっていた。
背負い袋は満杯。
それでも足りず紐で束ねて背負った。
「これは大儲けだな」
ニヤニヤしながらギルドへ戻る。
ギルドへ入った瞬間。
全員が俺を見た。
視線が痛い。
なぜだ。
俺は受付へ薬草の山を置く。
ドサドサドサドサッ!
受付嬢が固まった。
「……これは?」
「薬草です」
「見れば分かります」
「採ってきました」
「どこからです?」
「東の森です」
「全部?」
「全部です」
沈黙。
周囲の冒険者が集まる。
「嘘だろ」
「新人だよな?」
「一人でか?」
ざわざわと騒がしくなる。
俺は気分が良かった。
注目を浴びる主人公。
完全にラノベである。
◇
翌日。
俺は金貨の山を受け取る予定だった。
予定だった。
「買い取り金額はこちらです」
受付嬢が紙を置く。
俺は眺める。
二度見した。
三度見した。
「安くない?」
「安いですね」
「なんで?」
「あなたのせいです」
「は?」
意味がわからない。
受付嬢は疲れた顔で説明した。
「昨日、大量の薬草が市場へ流れました」
「はい」
「供給量が急増しました」
「はい」
「価格が暴落しました」
「はい」
そこで理解した。
「俺のせいか」
「あなたのせいです」
想像以上に資本主義だった。
異世界。
だが問題はそれだけではなかった。
さらに三日後。
ギルドへ呼び出された。
会議室のような場所へ連れていかれる。
なぜか受付嬢が三人いる。
怖い。
嫌な予感しかしない。
「薬草群生地の調査結果が出ました」
「はい」
「壊滅です」
「はい?」
「壊滅です」
二回言われた。
地図が広げられる。
丸印だらけだった。
「この辺り全部あなたですよね?」
「そんなわけないでしょ」
「いえ全部あなたです!」
確認すると本当に全部だった。
採れる場所を片っ端から回った結果、東の森の薬草資源がほぼ消滅していた。
「再生まで数年かかります」
「え?」
「管理組合から苦情が来ています」
「え?」
「こちら請求書です」
「えええええっ!?」
人生で初めて薬草採取で借金を背負った。
◇
その後。
俺は考えた。
「薬草は駄目だ」
もっと冒険者らしいことをしよう。
そう、魔法である。
男なら火魔法だ。
俺は広大な草原へ向かった。
「ここなら大丈夫だろ」
周囲には何もない。
完璧だ。
魔力を練る。
「ファイアボール!」
直径一メートル近い火球が飛んだ。
着弾。
ボッ。
「おお!」
思わず感動する。
だが。
その日は風が強かった。
火の粉が舞う。
草へ落ちる。
ボッ。
さらに落ちる。
ボッ。
ボボボボボッ!
「あれ?」
嫌な予感。
火が走った。
まるで地面に火薬を撒いていたかのように。
炎の帯が一気に草原を駆け抜ける。
「ちょっと待てぇ!」
俺は水魔法を放った。
大量の水が降る。
一か所は消えた。
しかし別方向が燃えていた。
「あああああ!」
走る。
消す。
燃える。
走る。
消す。
燃える。
全然追いつかない。
最終的に近隣の村から住民が集まり、大規模な消火活動になった。
俺も必死で消した。
全身泥だらけになった。
夜には何とか鎮火。
「終わった……」
安心した。
翌日。
ギルドから請求が…。
消火費用、人的動員費、農地補償。
「またなの!?」
借金が倍になった。
◇
それから一か月後。
俺は盗賊討伐の依頼を受けた。
今度こそ名誉挽回である。
盗賊のアジトは山中の洞窟。
五十人規模の大集団らしい。
「よし、倒せば一気に稼げる」
俺は洞窟へ突入した。
奥から盗賊たちが現れる。
「冒険者か!」
「返り討ちにしてやる、殺せ!」
わらわらと押し寄せてくる。
「甘い!閃光斬!」
俺は神からもらった斬撃スキルを発動した。
巨大な光の刃が洞窟を走る。
盗賊たちをまとめて吹き飛ばす。
我ながら完璧な一撃だった。
しかし。
ゴゴゴゴゴ……
「ん?」
嫌な音がした。
天井にひびが走る。
壁も切れて割れている。
「あれ?」
そして。
ドガァァァァン!
「うわあああああ!」
洞窟が崩れた。
三日後。
俺は治療院のベッドで目を覚ました。
全身包帯だった。
「生きてる……」
扉が開く。
受付嬢だった。
満面の笑顔である。
怖い。
「お元気そうで何よりです」
「ありがとうございます」
「請求書です」
「早いな!?」
掘削撤去人員費、救助費、治療費、入院費。
信じられない額になっていた。
「討伐報酬は!?」
「差し引きマイナスです」
「嘘だろ!」
盗賊討伐なのに借金が増えた。
◇
その頃からである。
ギルドで俺を見る目がおかしくなったのは。
依頼を受けようとすると。
「あっ」
「疫病神だ」
「近寄るな」
そんな声が聞こえるようになったのは。
酷い、本当に酷い、俺は被害者だ。
たぶん。
◇
ある日。
ギルドに緊急依頼が入った。
森の巨大魔獣討伐。
村を襲う危険な存在らしい。
周囲の冒険者が嫌そうな顔をする。
「あいつ行かせよう」
「いや、森が消える」
「確かに」
「村ごと消える可能性もある」
風評被害がひどい。
でも結局、俺が向かうことになった。
巨大魔獣は恐ろしく強かった。
5mはある巨体。
鋼のような毛皮。
一撃で木をへし折る腕力。
だが戦闘能力だけなら俺も規格外だった。
「おおおおお!」
激戦の末。
最後の斬撃が魔獣を両断した。
巨体が倒れる。
森が揺れた。
「勝った!」
俺は英雄になれると思った。
だが。
重大な問題に気づく。
「運べない……」
大きすぎた。
仕方なくギルドへ救援を要請する。
二日後。
運搬隊と共に戻った。
すると。
「……あ」
魔獣がなかった。
正確には残骸しかなかった。
大量の魔物に食い荒らされていたのだ。
肉はボロボロ。
皮も傷だらけ。
角も欠けている。
素材担当が悲しそうな顔をした。
「最低評価ですね」
「そんな……」
「解体費いただきます」
「え?」
「運搬費もです」
「え?」
村人たちは救われ歓声を上げた。
俺だけ赤字だった。
◇
それから数年。
借金は増え続けた。
評判も悪化した。
ギルドでの呼び名は増えた。
【借金王】【歩く天災】【疫病神】【災害級冒険者】
どれも嬉しくないものばかりだった。
だが不思議なことも起きていた。
俺が暴落させた薬草。
安価になったことで貧民にも薬が行き渡り、多くの命が救われた。
燃えた草原。
翌年には肥沃な土地となり大豊作になった。
崩落した盗賊団のアジト。
長年討伐できなかった大規模組織が壊滅した。
巨大魔獣の死。
周辺地域は平和になった。
誰もが恩恵を受けていた、 俺以外…。
◇
ある日。
王都へ呼び出された。
絶対に逮捕だと思った。
王城へ行く。
貴族が並ぶ。
国王が玉座に座っている。
胃が痛い。
「冒険者よ」
「はい」
「汝の功績を称える」
「……はい?」
話が見えない。
『薬草流通改革』
「事故です」
『大盗賊団殲滅』
「事故です」
『大魔獣討伐』
「赤字でした」
「見事であった」
会話が成立しない。
そして国王は宣言した。
「よって褒賞金を与える」
「本当ですか!?」
俺は立ち上がった。
だが。
財務担当の大臣が一枚の書類を見せた。
「なお借金返済に充当されます」
「え?」
「全額です」
「え?」
「全額です」
二回言われた。
城を出る頃には夕方だった。
結局一枚の金貨も手元には残らなかった。
遠くで冒険者たちの声が聞こえる。
「あれが例の男か」
「厄災英雄」
「歩く国家事業」
「被害も利益も桁違いだ」
笑い声が響く。
俺は空を見上げた。
青空だった。
神様。
あなたがくれたチートは本物でした。
確かに最強です。
ただ一つ。
どうしてこうなるのかだけ教えてほしい。
その時。
ギルド職員が走ってきた。
「大変です!」
「今度は何ですか……」
「北の貯水湖に古竜が現れました!」
周囲がざわつく。
国家級災害だ。
「報酬は?」
恐る恐る聞く。
「超高額です!」
借金返済の文字が頭をよぎる。
「行きます!」
すると職員は真顔になった。
「ちなみに失敗した場合」
「はい」
「ダムが決壊して下流の町が水没します」
「帰っていいですか?」
「ダメです」
周囲の冒険者たちが大爆笑する。
俺は静かに天を仰いだ。
こうして今日もまた、異世界最強なのに貧乏な疫病神冒険者は旅立つ。
おそらく世界を救うために。
そして間違いなく借金を増やすために。
そんな伝説の始まりであった。
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もし、よければ過去作も読んでみてください。
①・コンビニ「アクマート」へようこそ!
②・魔王を倒した剣ですよ!没収ですか…
③・伝説の装備を手に入れたら「Version 12.4」って書いてあったんだが
④・異世界にだって予防接種はあります!
⑤・古代龍素材での装備注文にはご注意を!
⑥・迷宮レビュー☆2につきまして ~迷宮建設部は今日も炎上中~
⑦・伝説の剣を取りに行っただけなのに ~この異世界クレーンゲーム、取得率何%ですか?~
⑧・転移魔法のご利用は計画的に ~穴入って穴に入りたい思いをした勇者の話~
⑨・勇者は静かに戦いたい ~なのに聖剣が毎回ライブを始める~
⑩・へっぽこ魔導士とツンデレ魔導書。好感度を上げたら終焉の禁呪が解禁された件




