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第二話

 ダンと会ってから二日経っていた。変わらずコンビニバイトを済ませて惰性で家に向かっていた。

 あの日のことは忘れかけていた。忘れたかったが正しい表現かもしれない。

 コウ自身接客態度はそこまで悪いものではないがいいとは言えない。淡々とこなしていく。愛想なんて考えたこともない。だからこそお客さんに何かを言われても気にすることなく対処していた。

 今回だってそうだ。怪我した蝙蝠を助けただけだが“別に何もしてないだろコイツは”のダンの言葉が引っ掛かっていた。この場合何もしていないというのはそのまま放っておくことであって少なからずコウは手を差し伸べた。それを真っ向から否定されたのが気に食わなかった。ダンの態度も合わさって。

 

 もう少しで考えることも忘れられそうな矢先、またごみステーションの周りを黒い物体が飛んでいた。コウを見つけるや否や、コウの周りを飛び、少し進んでは振り返る。ついてきてというように。

 しかしコウの足は動かなかった。

「行きたくないよ。疲れて眠いし、会いたくない」

 蝙蝠とコミュニケーションなんて取れないのは分かっているが意向だけは伝える。

 わかっていたが伝わらず蝙蝠はコウの服を軽く噛み引っ張る。とにかく来て欲しい。そう感じた。小さい体で必死に引っ張る蝙蝠をコウはやはり放っておけなかった。

「あぁもうわかったから」

 蝙蝠の顔が明るくなった気がした。


 少し進んでは振り返りを繰り返し、羽ばたいている影と街路灯の明かりを頼りについていく。知っている道のはずなのに知らない道を歩いている感覚。暗いだけで、目的があるだけで景色が違って見えた。そこから先は入ったことのない路地をどんどん進んでいく。コウはただ蝙蝠に従って進んでいくだけ。

 しばらくするといかにもな洋館が見えてきた。入口も木で覆われ誰も侵入させないオーラを感じる。外壁も蔦に覆われている。

「こんな場所あったんだ」

 蝙蝠は少しだけ開いていた窓から家の中に入っていった。置いてかれたコウは仕方なく木々の間を進んでいき数歩先の重厚なドアの前に立つ。

 蝙蝠が何故連れてきたのかわからないままコウは恐る恐るドアを開ける。

「お邪魔します」


 電気もついていない、真っ暗な空間だが外の明かりでかろうじて部屋の作りは判別できた。

 目の前には二階に通じる真っすぐな階段。の先に大きな塊があった。蝙蝠が慌ただしく周りを飛んでいる。コウは一歩一歩ゆっくり階段を上った。

 床で蹲っている黒い塊は肩で呼吸し心臓あたりを押さえ息苦しそうだった。

 二度と会いたくないと思っていた相手が今目の前で苦しそうにしている。ここでもコウは放っておくことなどできなかった。

「ちょっと大丈夫?」

 声に反応し黒い塊は少し顔を上げコウと目が合う。あの目、カラーコンタクト必須の赤い目が虚ろな状態でコウのことを見ている。

「人間……コウだったか……」

 初めて会った時の上からな態度を全く感じないかすれた声。それだけ弱っていると心配になった。

 黒い塊だったダンはゆっくりと身体を起こしコウにしがみつき口を開け牙が見えた。

 刹那、ダンはコウの首に噛みつく。じゅるじゅると聞いたことのない音が耳元で反響し身体の力が抜けていく。声を出す間もなく意識が飛び項垂れる。

 意識が消える直前、コウが最後に聞いた音はダンの泣き叫ぶ声だった。


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