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第一話

 コンビニの裏口から出ると変わらずに雨が降っていた。ほんの三十分で空が急に暗くなり雨が降ってきたのはわかってはいるが、実際に外に出て雨の音を聞く、雨を見ると憂鬱度が増した。元々天気予報を見るタイプではないがバイトに向かう前は晴れていたので傘を持っていくなど考えもしていなかった。もしかしたら天気予報では午後は雨が降るとか言っていたのかもしれない。でもそんなこと考えたって降ってくるものは降ってくるし、持っていないものは持っていない。

「あ~~だるい」

 バイトを終えたコウは真っ暗な空を見上げてぼやいた。幸いにもフード付きのパーカーを着ていたので、帰るだけだからとフードを被り走って帰っていった。早く帰って寝よう。そんなことを考えながら。


 アパートが見えてきたあたりで雨が大粒になりさらにスピードを速めようとした時、共用のごみステーションに黒い塊があった。雨のせいで妙にツヤがあり目立っていた。それだけではなく、最初は黒い袋かと思ったがもぞもぞと動いていた。視界の端に映る謎の動く物体が気になりコウは雨が強くなっている中近づいた。

 子豚にも子熊にも見える顔が小刻みに震えている。よく見ると翼があり、翼の先には指のようなものもある。コウは頭を働かせ今目の前にいる生き物が何かを絞り出した。

「……蝙蝠(こうもり)か」

 このあたりに蝙蝠がいるとは思いもしていなかったコウは、何故こんなところに蝙蝠がと思いつつも放っておくことはできなかった。

 パーカーの袖を長くしなるべく直接触れないよう蝙蝠に手を伸ばした。震えながらも手に乗ってきた蝙蝠は両手と同じくらいのサイズで、ぬくもりを感じたのか少し落ち着きを取り戻し見た時よりも震えが治まっていた。

「とりあえず温めたらいいか」

 コウ自身も雨に濡れ冷えている。お風呂に入りながら温めればいいなんて考えながら、蝙蝠を抱え立ち上がった瞬間、背後から低い声がした。

「それは俺の使い魔だ」


 振り返ると上から下まで黒一色の男が立っていた。持っている傘も黒。違うのは顔。妙に白い。血が通っていないような白さ。周りが黒い為余計に目立つ。そして何より目が赤い。明るい茶色とかではなく赤い。アニメでしか見たことないカラーコンタクト必須の赤さ。

 コウはまた絞り出す。

「……吸血鬼とか?」

「ほう、人間のくせに俺の正体を見抜くとはな」

 コウは無意識に一歩下がったのと、蝙蝠を強く引き寄せた。しかし男は引き寄せた蝙蝠を覗くように一歩近づいた。必然と男の傘の中に入り、聞こえてくる雨の音が変わる。

「急に雨が降って焦って電柱にでもぶつけたか。間抜けだな」

「そんな言い方しなくても……」

 コウのことなど無視をし、男は親指を自分の牙に当て出てきた血を蝙蝠に飲ませた。主の血を飲んだためか震えがなくなりコウの手のひらで数回翼をばたつかせる。元気になった蝙蝠は男の持っている傘の骨に止まった。

「俺の使い魔のくせに情けないな」

 戻ってきた蝙蝠の頭を撫でる男はかける言葉は悪いが表情からは安堵が感じられた。二人だけの世界がそこにあったが、さらに取り残された感覚にコウはなった。しかし蝙蝠はコウのことも気にしているのか視線を送り小さく鳴いた。

「助けてくれてありがとう。だとさ」

 男が翻訳した。

「あ、いや」

「別に何もしてないだろコイツは」

 謙遜する間もなく男は被せて否定された。蝙蝠は男に向き合いまた小さく鳴く。だが男は蝙蝠の言っていることをめんどうくさそうに受け流した返事を返すだけ。再び二人だけの世界になってしまい、コウは少しずつ傘から出て静かにその場を離れようとしていた。

「……待て」

 コウは呼び止められもう一度男の傘に入った。

「コイツが名前を知りたがっている。お前、名前は?」

 男の態度はどうにも周りを下に見ているようだった。話を聞く間もなく否定されたのもあってコウは少し苛立っていた。

「……そちらから名乗るべきでは?」

「ふっ、俺にそういう態度をとるか。まあいいか、俺はダンだ。コイツは使い魔のイー」

「……コウです」

「コウか。お前……」

 ダンと名乗った男は一歩近づき吸血鬼らしくコウの首に近づいた。コウは無意識に目をつぶり首の筋肉が固まった。あまり意味のない防御かもしれない。

 しかしダンは噛みついたりせずに匂いを嗅いだだけだった。

「お前女か」


 ダンにはコウが男に見えていた。フードを深く被り、髪の毛も見えず、雨で匂いも不確かなため外見だけで判断するしかなかった。しかしコウはそんな思いも知らず今までの高飛車な態度も含め、普段であれば何とも思わない言葉にカチンときた。

「女で悪かったですね!」

 反論されると思っていなかったダンは一瞬驚いたがすぐにいつもの調子に戻り、

「別に責めているわけではない、俺が勘違いをしていただけだ。それにお前の血は悪くなさそうだ」

 ダンは一歩近づき首元を狙うが、コウは一歩下がり距離をとる。

「やめてください。絶対血なんて吸わせませんから!」 

 そのまま傘から出て逃げるようにそそくさとコウは自分の部屋に帰っていった。傘のわずかな隙間から、コウがいなくなっていく背中をただ見て立ち尽くすダン。

「アイツは何故苛立っていたんだろうな。まあそれにしても久々に人間と関わったな……」

 ダンは雨の中を静かに歩いていった。胸に少しだけ後悔を抱えて。


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