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第15話:代償

またか……俺は暗闇を漂っていた。


赤黒い光を放つ、異形の神。


しかし、今回は様子が違っていた。


赤い筋が走り、無数の目が血走る。

老人の呻き声と、赤子の泣き声が重なっていた。


“怒って”いるようだった。


『我は汝に祝福を与えた。

だが汝は背いた。

輪廻を外れ、あの者に魅入られた。

悪魔に堕ちた人間よ。』


(祝福?あの者?悪魔?)

声は出なかった。


『汝に人としての安らぎはもう訪れん。呪われよ』


異形の神は背を向け立ち去った。


今度は老紳士が現れ、再び脳内に声が流れる。


『お前は神に見放された。生まれ変わり、終わりの時を迎え、安らぎを迎えられるはずだったのに……』


険しい表情をしたが、老紳士は続ける。


『しかし、私は見捨てない。寄り添い、祝福を与えよう。君は君のまま、不滅になる。

――代償と引き換えに。』


穏やかな表情に変わった。

だが、その笑みは“救い”と“呪い”のどちらにも見えた。


目が覚めると既にドラゴンはいなかった。

業火に焼かれ、

引き裂かれ兵士達、

熱でまだ赤熱した鎧


潰れたはずの身体は、動いた。


傷だらけで、血にまみれている。

だが――致命傷だけが消えていた。


火傷跡の皮膚は、まるで乾いた土のようにひび割れていた。

触れると、粉が落ちそうだった。


(団長は?)

探したが、最早誰が誰かわからない有様だが、一際死体が転がる場所で無惨な姿で倒れていた。


折れた剣を握り締め、爪でやられたのであろう裂傷が深々と肩口から腰まで走っていた。


団長の目は、最後まで前を見ていた。


――全滅。

二、三十人いた騎士団で、生きている者はいなかった。


俺は報告する為に足を引き摺りながらギルドまで戻った。



ギルドに戻ると血塗れの俺を見てチップは息を飲んだ。


「ジョー?怪我大丈夫なの?てか、生きてるの?」


「すまん、依頼は失敗だ。俺以外、全員死んだ。ドラゴンも目が覚めたらいなかった」


「そんなに強かったの?幼体って聞いたから引き受けたのに」


「民家ぐらいの大きさだったよ。飛んで行ったのかも」


「丁度成体になるところだったんだね。運悪かったね。一応依頼失敗って事だから報酬はあげられないよ。ごめんね」


「うん、失敗したからいらないよ。あちこち痛むけど、腹減ったから何か適当に料理持ってきてよ」


「はいよ!」

チップは元気に返事をして、

しばらくすると食事を持ってきた。


「戦ってきたから味濃い方がいいと思ってたら入れすぎちゃった。辛かったらごめんね」


俺は、早速一口料理を頂いた。


――しかし、あるはずの味がなかった。


俺はもう一口、噛んだ。

硬さは分かる。

温度も分かる。

だが、味だけがなかった。


俺はこの日を境に味覚を失った。


老紳士に言われた“代償”と言う言葉が頭をよぎる。


――もし、次に失うのが「感情」だったら。


そう考えた瞬間、

俺は、なぜか少しだけ安心してしまった。

しかし、そうなった時、それは果たして“俺”なのだろうか

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