第15話:代償
またか……俺は暗闇を漂っていた。
赤黒い光を放つ、異形の神。
しかし、今回は様子が違っていた。
赤い筋が走り、無数の目が血走る。
老人の呻き声と、赤子の泣き声が重なっていた。
“怒って”いるようだった。
『我は汝に祝福を与えた。
だが汝は背いた。
輪廻を外れ、あの者に魅入られた。
悪魔に堕ちた人間よ。』
(祝福?あの者?悪魔?)
声は出なかった。
『汝に人としての安らぎはもう訪れん。呪われよ』
異形の神は背を向け立ち去った。
今度は老紳士が現れ、再び脳内に声が流れる。
『お前は神に見放された。生まれ変わり、終わりの時を迎え、安らぎを迎えられるはずだったのに……』
険しい表情をしたが、老紳士は続ける。
『しかし、私は見捨てない。寄り添い、祝福を与えよう。君は君のまま、不滅になる。
――代償と引き換えに。』
穏やかな表情に変わった。
だが、その笑みは“救い”と“呪い”のどちらにも見えた。
目が覚めると既にドラゴンはいなかった。
業火に焼かれ、
引き裂かれ兵士達、
熱でまだ赤熱した鎧
潰れたはずの身体は、動いた。
傷だらけで、血にまみれている。
だが――致命傷だけが消えていた。
火傷跡の皮膚は、まるで乾いた土のようにひび割れていた。
触れると、粉が落ちそうだった。
(団長は?)
探したが、最早誰が誰かわからない有様だが、一際死体が転がる場所で無惨な姿で倒れていた。
折れた剣を握り締め、爪でやられたのであろう裂傷が深々と肩口から腰まで走っていた。
団長の目は、最後まで前を見ていた。
――全滅。
二、三十人いた騎士団で、生きている者はいなかった。
俺は報告する為に足を引き摺りながらギルドまで戻った。
◇
ギルドに戻ると血塗れの俺を見てチップは息を飲んだ。
「ジョー?怪我大丈夫なの?てか、生きてるの?」
「すまん、依頼は失敗だ。俺以外、全員死んだ。ドラゴンも目が覚めたらいなかった」
「そんなに強かったの?幼体って聞いたから引き受けたのに」
「民家ぐらいの大きさだったよ。飛んで行ったのかも」
「丁度成体になるところだったんだね。運悪かったね。一応依頼失敗って事だから報酬はあげられないよ。ごめんね」
「うん、失敗したからいらないよ。あちこち痛むけど、腹減ったから何か適当に料理持ってきてよ」
「はいよ!」
チップは元気に返事をして、
しばらくすると食事を持ってきた。
「戦ってきたから味濃い方がいいと思ってたら入れすぎちゃった。辛かったらごめんね」
俺は、早速一口料理を頂いた。
――しかし、あるはずの味がなかった。
俺はもう一口、噛んだ。
硬さは分かる。
温度も分かる。
だが、味だけがなかった。
俺はこの日を境に味覚を失った。
老紳士に言われた“代償”と言う言葉が頭をよぎる。
――もし、次に失うのが「感情」だったら。
そう考えた瞬間、
俺は、なぜか少しだけ安心してしまった。
しかし、そうなった時、それは果たして“俺”なのだろうか




