第11話:呪い
瞬きすると青年と老紳士は既に居なかった。
(さっきまで居たのに)
(あれ?動ける……)
さっきまでまとわりついていた死の影が、嘘のように消えていた。
立ち上がろうとすると、乾いた血がべりっと剥がれる。
「痛っ……」
腹部と肩口、そして身体のどこかで骨が軋んでいた。
「この血の量……普通死ぬよな……」
『――見ているぞ』
不意に声が響く。周囲を見渡すが、誰もいない。
俺はリザードマンの亡骸を引きずり、ギルドへ向かった。
◇
「きゃっ!」
血塗れの俺とリザードマンを見て、チップは短く悲鳴をあげた。
「お、お疲れ様。一人で行ったの?」
自分でも驚くほど、声がしゃがれていた。
「うん、死ぬかと思ったよ」
「こ、これ報酬。教会で傷を治してもらってね」
「ありがとう」
ポーテットに会う前に服を洗わないとな。
その前に、教会に行こう。
だが、近づくにつれ胸の奥がざわつく。
まるで――「行くな」と囁かれているかのように。
教会に辿り着き、ドアノブに手をかけた瞬間――
焼けた鉄を握ったような灼熱が走った。
「熱ッッ!!」
あまりの熱さで手を離し手の平を見ると赤黒く変色していた。
ちょうど礼拝帰りの人が出てきた隙に、ドアノブに触れず中へ入る。
教会なのに、祈りの気配がなかった。
背中に氷を差し込まれたような悪寒が走る。
「迷える子羊よ。今日はどのようなご要件で来ましたか?」
神父が優しく尋ねる。
「傷を治して欲しくて……」
「わかりました。それでは……」
神父が呪文を唱え、傷口に触れた。
次の瞬間――
「ぎゃああああ!!」
熱した鉛を流し込まれたような感覚。
俺の皮膚から、白い煙が立ち上った。
神父はまるで、触れてはいけないものに触れてしまったかのように。
「……あり得ない」
そう呟いて、俺を見た。
「……貴方の中には、神がいない」




