第10話:老紳士と青年
耳を裂く金属音。
火花が散る。
剣と剣が噛み合った瞬間、腕が痺れた。
(瞬きしたら、死ぬ)
理解するより先に、身体が動く。
リザードマンの剣をしゃがんで避けた。
次の瞬間――来る。
尻尾。
(待ってた)
俺は剣を叩き込んだ。
刃を引く。
――切れた。
初めて、剣が“武器”になった感覚。
だが、同時に腹部に衝撃。
熱い。
刺さっている。
互いに血を流しながら、距離が開く。
ふらつくリザードマン。
俺は剣を振り上げた。
大上段。
考えていない。
身体が覚えている。
リザードマンも同じ構え。
同時に踏み込む。
刃が交錯する。
肩が裂けた。
痛みより、音が遅れて届く。
俺の剣が、脳天を砕いた。
倒れるリザードマン。
それでも、最後の一撃。
剣が弾かれる。
胸が切り裂かれる。
視界が揺れた。
――終わった。
「はぁ……はぁ……」
獣のような荒い息。体を見ると血塗れだった。
俺はその場に倒れた。
視界がぼやける。
死ぬのか――。
脳内に、あの醜い神の笑い声が響いた。
赤子と老人の声が混じった、不快な笑い声。
(笑ってんじゃねぇ……)
その瞬間、世界が裏返った。
フードを被った中性的な青年。
そして、車椅子に座る老紳士。
青年は口を開いた。
「主は貴方を称えています。見事だと――」
老紳士の意思は、直接、意識に触れるように伝わる。
青年はただの媒介者に過ぎない。
『望むなら……輪廻の楔から解放してやろう』
(誰だ?)
聞きたかったが、声は出せなかった。




