第1話:異世界転生
俺――丈は、交通事故で死んだ。
甲高いブレーキ音。
やたらと眩しいヘッドライト。
次の瞬間、全身を貫く衝撃。
金属が潰れる音。骨が砕ける感覚。
車は爆発炎上した。
割れたフロントガラスに映ったのは炎に焼かれる自分の姿だった。
皮膚が爛れていく。
痛みはなかった。
ただ、それを見ているだけだった
思考が、ゆっくりと白く塗り潰されていく。
――ああ、これはもう、死んだな。
妙に冷静な自分がいた。
◇
目を覚ましたとき、俺はどこにもいなかった。
上も下もない。
浮いているような感覚。
世界は真っ暗で、音もない。
その闇の奥で、赤黒い光が蠢いていた。
――何か、いる。
それは生き物と呼べるものではなかった。
巨大、いや、広大な肉の塊。
ところどころに人間の腕や足、指が無秩序に生えている。
ぬめりを帯びた表面から、無数の翼が虚空を掻き、
その全身には、びっしりと目が張り付いていた。
次の瞬間、その無数の目が一斉にこちらを向く。
呻き声。赤子の泣き声。
混ざり合った不快な音が、空間に響いた。
(神、なのか……?)
そう思った瞬間だった。
『丈……丈よ……』
声は耳ではなく、脳内に直接流れ込んできた。
頭が割れるような、低く、重たい声。
『我は神の代弁者なり。汝が進む道を選べ』
「道……? 俺、死んだんじゃないのか?」
『人の魂には選択がある。
消滅か、転生か。
汝はどちらを選ぶ?』
意味は理解できた。
だが、簡単に答えられる問いじゃない。
俺は少しだけ考え、そして言った。
「俺は……俺のまま、生きたい」
一瞬、沈黙が落ちる。
『……叶えよう』
感情のない声が、そう告げた。
闇の中に一筋の光が生まれ、
俺は光のトンネルに飲み込まれていった。
◇
次に目を開けたとき、視界に広がっていたのは、穏やかな風景だった。
見知らぬ草原。
聞いたことのない鳥の声。
嗅いだことのない植物の香り。
空は青い。だが、太陽は存在しない。
それなのに世界は昼のように明るかった。
(……異世界?)
立て看板が一本立っている。
『この先、村』
見たことのない文字なのに、不思議と意味が分かった。
俺はゆっくりと立ち上がり、村へ向かって歩き出す。
――まだ、このときは知らなかった。
自分の姿が、すでに“人間”ではなくなっていることを。
そして、この身体が、俺の運命を大きく狂わせることを。
こうして、
異形の俺の異世界人生が始まった。




