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④ちさと

「個体によって、生成する衣服のデザインが異なるんです。各々、個性が出るものでね。サンプルを見て選んで下さい」


シルキング開発室長は、壁を示した。

シャーレに入った白い芋虫の後ろに、それぞれ何枚もの写真が貼ってある。

子供服から大人、年配向けまでのラインナップ。これがサンプルというわけだ。


「シルキングと総称していますが、正確には男性ものがシルキング。女性ものはシルクイーンです」


なるほど。

ちさとは、女性の服が貼ってある方に足を向けた。

確かにバリエーション豊かだ。

可愛い系にクール系。和服もある。

壁は、一面ファッション雑誌を広げたみたいだ。


「うわ、すっごいドレス。これ毎日着るのは辛いんじゃないかしら」

フランス貴族みたいなフォーマルまである。


「まあ、ご自分が着て馴染む服になさったらいいと思いますよ」

常識人と思われるお役人さんが、現実的な意見を述べた。ごもっともだ。


くまなく見ていると、ある服のラインがちさとの興味を引いた。

主にズボンやパンタロンで、女性っぽい甘さを排除したデザイン。

だが、色彩は鮮やかで、組み合わせが小粋だ。


似たようなものは、これだけ。

隣りからはメンズになる。


「あ、これがいいです」

指をさすちさとに、白衣姿の室長が嬉しそうに応じた。


「はい。この子はユニセックスだけど、いいいですか」

「え? なんですそれ」

「男女兼用ってことですよね」

いちいちフォローしてくれる役人さんも、大変だ。


「では、同期できるか検査しましょう。生物同士なので、相性があるのです。ダメだった時は、別を試しましょう」

「室長! 女性の看護師を呼びますから! 自分でやっちゃダメですよ!!!」


役人が焦って止めた理由は、やって来た看護師による説明で分かった。

「衣服を全て脱いで下さい。全裸の状態でないと、同期の試行ができませんので」


なるほど。でも、第一級礼装の振袖を一人で脱ぐのは、不可能だ。

狭い診察室の中で、看護師と一緒に奮闘して、ようやくちさとの準備は整った。


「血液を採取します。ちょっとだけね。ちくっとしますよ」

針で指を刺された。たちまち、赤い血が盛り上がって来る。


「シルクイーンの上に、血液を落として下さい」

これに?

まるでミイラだ。カラカラに乾燥していて、ぴくりとも動かない。


ぽたり


赤い血が、白い虫の頭を染めた。


すると。

ぶにゃり

虫の体が、一回り膨らんだ。


あ、と思った瞬間。

ちさとの頭上から、さあっと何かが降りて来た。


糸だ。キラキラ光る、透明な糸。

「あなたのネコ耳から伸びてますからね。できるだけ動かないで立っていて」


いつの間にか、シルクイーンは、台に置かれたシャーレの中で、うにょうにょ蠢いていた。

垂らされた血は、染み込むように消えている。


虫の体は、頭の先から徐々に透き通っていく。

やがて、ほのかに虹色の光を発し始めた。


ひゅっ

糸を吐いた。二本。

ちさとの両耳から垂れた糸と、一本ずつ仲良く絡み合う。


リーン

鈴の音?

耳からじゃない。直接、頭に響いて来る……。


爽やかな匂いもした。

ミントかしら。好きな匂いだわ。


ぶわっ!!!

いきなり、小皿から糸が噴き出した。

すごい量だ。

悲鳴を上げる暇もない。全裸のちさとに、全て巻き付いて行く。


しゅるんっ


終わった。

シャーレは空っぽになっている。


はきはきと、看護師がちさとに伝えた。

「カイコンの装着を確認。同期は成功しましたよ」


ちさとのネコ耳に、右片方だけ耳飾りが付いていた。

勾玉の形をしている。色は銀だ。黒い毛皮に映えている。


看護師の声を、ちさとは呆然と聞いていた。


信じられない。自分は服を着ている。


結い上げた髪に似合う、和っぽいテイストのトップスに裾の広がったパンタロンだった。

巻き付いた糸が、瞬く間に服と化したのだ。


そして、喋った。

「いや~ん。すっごくスタイルいいじゃない。ボク、感動しちゃった。これからよろしくね!」


ちさとは、目をパチパチさせた。

男の子の声だわ。

でも、女言葉で喋っている。


声は、服から聞こえてきた。

よく見たら、鎖骨の下あたりに、二つ。目のように見える(がら)が浮かんでいる。


パチン

ちさとに向かって、(がら)が閉じた。ウインクしたのだ。


ちさとは、納得して呟いた。

「……ユニセックス、ね」



★    ★    ★    ★


お読み頂き、有難うございます。

今後は、毎週土曜日に投稿していきます。

次回は、2025年7月26日㈯の予定です。


⑤おしょう


挿絵(By みてみん)


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