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㊱万里

喧騒の中。ひっそりと、千里(せんり)は立ち尽くしていた。


和尚が、商店街の人に囲まれて談笑している。

人気者だ。老若男女問わず、親し気に話しかけられている。


ちさとは、誰か女の人と会話している。

よほど気を許した相手なのだろう。子どもみたいに無邪気な表情だ。

愛らしい美女を、下心満載の男達が放っておくわけがない。我先にと話しかけられて、すごく迷惑そうだ。


万里は、白衣男と盛大にやり合っていた。

あれが、宇賀神室長か。

(たしな)めているのが、きっと役人の狛ケンさんだ。


もう、しょうがないな、万里ったら。

女の子たちが遠巻きに熱い視線を送ってるってのに、全然気づいてない。


千里(せんり)の顔が、悲し気に歪んだ。

もう、自分の体は、人には見えにくくなっているだろう。


だけど、和尚には挨拶していきたいな。

ちさとにも、お礼を言いたいな。


ふっ

視線の先で、和尚が目を瞬かせた。

きょろきょろと辺りを見渡す。

目が合った。


え? 気付いた?

千里(せんり)は、驚いて目を見開いた。

和尚は、断りを言って人垣から離れると、つかつかとやって来る。


打って変わって真面目な表情に、またびっくりだ。

千里(せんり)、話がある。お~い、ちさと、万里! チーム千里(せんり)、集合だ!」


「じゃ、またねミイ。必ず連絡するわ」

潮時だ。でも、また会えるのだから問題ない。

固く約束を交わすと、ちさともやって来た。


万里に、なぜか宇賀神室長まで付いてきた。

さらに、狛ケンさんのおまけ付きだ。


「あんた達も一緒とは、都合がいいぜ。確認したいことがある」

和尚が、険しい顔つきで迎えた。

凄みすら滲んでいる。


千里(せんり)は、ぼうっと眺めていた。

そっか。普段おちゃらけていても、和尚は大人の男なんだ。社会に出て、父さんみたいに仕事してたんだもんな。


「エネルギーチップについてだ。正体は何だ? 言ってみやがれ」

宇賀神室長は、その質問を予測していたのだろう。すぱっと言ってのけた。


「エネルギーチップは、人の(たましい)です」


ちさとが息を呑んだ。


だが、驚いているのは彼女だけだった。

千里(せんり)・万里は、黙っている。


和尚も、表情を変えずに言った。

「だから、採掘後は、いったん神社に奉納するのか」


「ええ。最大の礼節を尽くし、浄化してから、エネルギーチップとして役に立って頂きます。ごく稀に、歪み切ったチップが出るそうですが、それは神社に留め置かれるそうですよ」


白衣男は、まったく悪びれていない。眼鏡を光らせて、説明を続行する。

「特に機密事項というわけではありません。あまり大声で話すような内容ではないだけで。知っている者は多いですよ」

狛ケンさんも黙っている所を見ると、本当なのだろう。


「じゃあ、これも皆知ってるってのか?」

和尚は、構わずに吐き捨てた。


「この荒魂は、東京大空襲で亡くなった人たちだ。およそ千人くらいの犠牲、だと? そんな数じゃなかっただろ。詐称もいいとこだ!」


これには、宇賀神室長も虚を突かれた。

「確かに……そうですね。そんな量じゃなかった」

狛ケンさんも驚いている。

「政府の公式発表は、そんな被害数でしたか」


そのとき。

「その方々は、何も知りませんよ」

感情のこもらない声が、割って入った。


はっと、皆の目が集まる。


「ヤタガラス……」

ちさとが唸った。

初めて見た。金色の羽毛をしたやつだ。

体も、黒い雑魚(ざこ)タイプと比べて、二回りほど大きい。

電信柱の横釘に止まっているが、ちょっと窮屈そうだ。


採掘が終わった際に現れるのが、銀色の「お役人」。

だとしたら、この金色は?

きな臭い匂いがプンプンする。


果たして、この金色ヤタガラスも、人語を喋った。

「もっともっと上の、一握りの貴い方しか知らないのです。あなた方ネコ耳は、その真実を知りたいのでしょうか?」


「ああ、知りたいねえ。教えてくれんのかい?」

和尚が、怒りを含んだ目で見上げた。

金色ヤタガラスは、冷たく見下ろしてきた。

めんどくさい、とでも言いたげだ。


「では、場所を変えましょう。河川敷の方は、まだ交通規制が敷かれていて、人が入れない。付いて来て下さい」

ばさり、と飛び上がった。


「万里、先に追ってくれ!」

和尚の声に、頷いて万里が飛び立った。

逃げるつもりなら、そうはさせない。


ちさとが、慌ててキョロキョロした。

千里(せんり)は?」

姿が見えない。さっきまで、隣にいた気がするのに。


「ちさと」

呼びかけられて、びっくりした。

千里(せんり)は、ちゃんと横にいる。どうして。


すると、和尚が黙って千里(せんり)を背中に負ぶった。

驚いた顔をしたものの、千里(せんり)も大人しくおんぶされている。


「行くぞ」

和尚が、そのまま飛んだ。


ちさとも続いた。

宇賀神室長と狛ケンさんの、気遣わし気な顔が遠くなっていく。


嫌な予感がするわ。

とても、とても嫌な予感が。



★    ★    ★    ★


読んで下さって、有難うございました。

いよいよ来週(土)で最終回を迎えます!

どうぞご覧下さいませ。


挿絵(By みてみん)


【次回予告】

㊲万里

㊳万里(最終回)




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