㉟万里
おお~……
商店街の街頭テレビを見ていた人々から、どよめきが上がった。
下手な怪獣映画よりも見応えがある。
置いてあるテレビは売り物の最新機種だから、白黒ではなくカラーだ。
降り注ぐ、黄金のコイン。
そして、黒ネコ耳の美女をクローズアップ。
その画面が、突如、真っ黒い鳥の大群に埋め尽くされた。
「な、なんだ、ありゃあ?」
疑問と不満が、いくつも湧き上がった。
主に野郎どもからである。
「ヤタガラスです。彼らがエネルギーチップを回収する役割を担っているんですよ」
人々の中から、説明する声が上がった。
ほおお~……
皆、感心して、その男を見遣った。
医者か何かなのだろうか。白衣を着ている。
見るからに頭が良さそうだが、それ以上に変人っぽい。
「足が三本あるじゃないか。ほんとにカラスなのかい?」
当然の疑問だ。
「正確には、鳥類ではありません。日本書紀の神代から存在が確認されている一族です。神の御使いとも言われているんですよ」
ほおおお~……
再び感嘆の声が上がる。
気を良くした白衣男が、更に蘊蓄を傾け出す。
だが、いくつもの大声に遮られた。
「おい、戻って来たぞ!」
空の彼方に、飛んで来る人間の姿があった。
ネコ耳の連中だ。
四人で、一つの布包みをぶら下げている。
かなり重たそうな様子だ。
よほど大切な物らしい。丁重に、彼らは布包みを地面に下ろした。
テレビ前の人垣が崩れる。ネコ耳たちが降り立った場所へ、群衆が寄り集まった。
置き去りにされた白衣男は、それでもまだ喋っている。
揃って立つ四人に、なんとなく拍手が沸き起こった。
しゅるるるるっ
一瞬で、真っ白な布が和尚の裃に回収された。
驚きの声が上がる。
手品さながらに現れ出た中身は、あのとき吹っ飛ばされたお地蔵様だ。
「いよっと」
和尚が、お地蔵様を持ち上げた。
えっちらおっちら、元の場所へと運ぶ。
「あ、オレも手伝う」
「いや、千里は休んでて。オレがやるよ」
見るからにバテバテな兄の代わりに、万里が加勢した。
石というのは、けっこう重い。
「あれ?」
置けたはいいが、何か変だ。お顔が無い。
お背中が前を向いてしまっている。
「逆、逆!」
ちさとだけでない。群衆からも指摘が飛んだ。
見ちゃいられない。人垣から、おじちゃん達も飛び出した。
みんなで向きを直す。
ようやく元通りになったお地蔵様に、その場にいた者達は、しばし合掌した。
和尚も手を合わせていたが、横で拝んでいる女性に気付いて、破顔した。
「お~、おばちゃん、無事だったか!」
コインの奔流で倒れていた白い割烹着に、見覚えがあったのだ。
「ああ、有難うねえ。大活躍だったじゃないか、ネコ耳さんたち」
やっぱり。お地蔵様のお世話をしていた当番さんだ。
「鳥海ちさとさん、御無事でなによりです」
突然、フルネームで呼びかけられて、ちさとが振り返った。
狛ケンさんだ。なんで、ここにいるのだろう。
驚く美女に、穏やかな役人スマイルが返って来る。
「テレビを見て、こちらにいらっしゃると分かったものですから。宿舎に、あなた宛ての郵便物が大量に届いてまして」
手渡された紙袋を覗き込むと、封筒と官製ハガキがごっそり入っていた。
差出人は、見なくても分かる。
「ちさと!」
人垣を押しのけて、なんと実物が出て来た。
「ミイ?!」
またもや、テレビを見て、だろう。
いきなり、大音声が響き渡った。
「ちさとの馬鹿ああああっ!!!!」
辺りが、一瞬、静まり返る。
「な、なによ。自分ひとりで決めないでよ。ネコ耳になったからって、関係ないよ。あたしなんてミイよ。よっぽど猫っぽいじゃない」
ぼろぼろ泣き出した。
もはや、言ってることが支離滅裂だ。
「それにあたしは、ちさとの親友だもん!」
ほんわりと、その場の空気が和んだ。
戸惑った顔をしていた美女が、その台詞を聞いた途端、晴れ晴れと微笑んだからだ。
「うん」
ちさとが、しっかりと頷いてみせる。
どうやら大団円の様子だ。
横でハラハラしていた万里は、ほっと息を着いた。
何だか分からないけど、仲直りしたみたいだ。
安心したのも束の間。不安を掻き立てる人物が、満面の笑みを浮かべて、目の前に現れた。
「やあ、万里君! 素晴らしかったよ。シルキング4号機の類まれなる機能を、余すことなく使ってくれたようだね」
「……わざわざ見物に来てたんですか」
シルキング開発室長、宇賀神氏だ。
この上なくご満悦だ。べらべら万里に喋りかけてくる。
狛ケンさんが、さりげなく割り込んだ。
安定の抑え役である。
「はい、万里君、お母様からのお手紙です。お電話も、何回か頂いていますよ。やはり一人きりの息子さんだから、御心配なのでしょう。たまには御実家に帰っておあげなさいね」
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