㉞悔恨
「「あ~! 二人とも嵌めちゃった!」」
双子が、二人で叫んだ。
完璧なユニゾンである。
「ごめん。つい、やっちゃった」
「あ、いや、オレも」
「だめか?」
和尚が、慌ててやって来る。
シルキング縄を、ぞろぞろと裃の腰にくっ付けたままだ。
ちさとも、飛んで来た。
「いいえ……どうも合ってるみたい。蛟が止まったもの」
確かに。大蛇は、浮かんだまま動きを止めていた。
だが、エネルギーチップに変わる様子はない。
「見て。蛟の目、二人のカイコンが、ちょうど互い違いに嵌まってる。勾玉巴、だったわよね」
ちさとの言う通りだった。
こっちの目も、もう一つの頭についていた目と同じだ。
まん丸の赤に、窪んだ線が走っている。
今回は、その線に沿って、ぴったりと二つのカイコンが嵌まっていた。
ちょうど、円になる形で。
「……そうか。これが正解なんだ」
和尚が、一人呟いた。
そして、横を向いた。
先にノックダウンされた頭が、こんがらがったヒモの先に飛び出ていた。
もう、涙は出ていない。
同じ模様の赤い目は、静かに見開いている。
まるで、覚悟を決めた野兎のように。
そうか。
その目を見た途端、和尚には分かった。
こいつは、解き放たれたいと願っている。
ずっと、ずうっと、きっかけを待ち続けていたんだ。
「ちさと、さっきの鏡、無事か?」
静かに尋ねる和尚に、ちさとが寄って来た。
無言で、背負った風呂敷から、勾玉形の鏡を取り出す。
あれだけの荒行をこなしたというのに、ヒビ一つ入っていない。
やはり、何か不思議な力を秘めているようだ。
「よかった。そいつを、こっちの目に嵌めてみてくれ」
ちさとは、固い表情で頷いた。
何が起こるか、想像もつかない。
でも……和尚を信じよう。
すっ
翳した途端、独りでに勾玉鏡が飛んでいく。
そして。
ぴたりと、目の半分に嵌まった。
しゅる しゅる しゅるっ
和尚が、シルキング縄を外し出した。
大量の白い縄が、すごい勢いで裃に戻って行く。よくもこんなに出ていたものだ。
「……自由にしちゃって大丈夫なの?」
「ああ、たぶんな」
拘束され、絡まっていた大蛇の巨体が、ゆるゆると解けていく。
やがて、真っすぐに直った双頭の大蛇は、静かに川の上空に浮かんだ。
片方の頭だけが、ゆっくりと鎌首をもたげる。
鏡を目に嵌めた奴だ。
うろうろ
蛟は、顔を下に向けて、しきりと彷徨った。
「自分の姿を確かめてるのかな」
千里が、ぽつりと言った。
「確かに、そう見える」
万里が、相槌を打つ。
蛇なのに、どこか人間めいた仕草だ。
すると。ずっと無表情だった大蛇の顔に、はっきりと表情が浮かんだ。
恥ずかしや
このような姿に変わり果てた
なんと あさましい
うとましいことよ……
ちさと、千里、万里の三人が、揃って息を呑む。
ネコ耳から言葉が聞こえてくる!
すっ
和尚が、一人、飛び立った。
嘆く蛟の顔に、丸腰で近づく。
「そうだよな……、辛いよな。どうにかならなかったのかな」
和尚は、自分のネコ耳に手をやった。
金色のカイコンが独りでに外れて、右手に収まる。
それから、迷わず荒魂の目に翳した。
ようやく分かった。
だから、「この言葉」なんだ。
心を込めて、唱える。
「悔恨」
どうにかならなかったのか。
深く悔やむ心を捧げて、「巡る円」の始まりへと誘う……。
ぴしっ
音を立てて、和尚の勾玉が、空いたスペースにぴったりと嵌まった。
銀と金、ツートンカラーの勾玉巴の出来上がりだ。
ずずずずず……
双頭の蛇が、動き始めた。
二つに裂けた胴が、くっ付いていく。
最後に、顔と顔が合わさった。
目と目も、磁石のように惹きつけ合う
千里と万里の、白金の勾玉巴。
ちさとと和尚の、銀と金の勾玉巴。
四つが重なって、一つの円となる……。
「う、うわ……っ」
千里が、急に焦った声をあげた。
いきなり、握った剣が勝手に動いたのだ。
体が引きずられていく。とんだ暴走神剣だ。
ヤマツミは、何かを成そうとしているんだ。
悟った千里は、すぐに体勢を整えると、しっかりと神剣を握り直した。
ようやく止まったと思いきや。
蛟の、ど真ん前である。
覚悟を決める暇もない。
ヤマツミから、透明な光が迸った。
また自動運転状態だ。
神剣が、大蛇の長い胴体を、延々と斬り裂いていく!
「うおおおおおっ……!」
知らず、千里の喉から気合が迸った。
ざんっ!
尾まで到達した。その瞬間。
ぱああぁ……っ!
どす黒い鱗が、金色に染まった。
尻尾から頭に向かって、黄金の刷毛で塗り上げたかのように。
突如。
爆風が川面を揺るがした。
大蛇の体が崩壊したのである。
キラキラ光る流れ星が、ひゅうんと落下して来る。
4つの勾玉だ。
ネコ耳達の耳へ、それぞれ戻って行く。
そして、金色に変化した鱗が、ばらばらと降り注いだ。
そう。膨大な数の、エネルギーチップとなって。
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あと二週で終わります!
【次回予告】
㉟万里
㊱万里




