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㉜悔恨

「糸が止まったわ。千里(せんり)、こっちに来て! 和尚が中にいるの! ここを斬って!」

ちさとに大声で呼ばれて、双子が二人とも飛んで来た。


改めて見ても、全く同じ容姿だ。

だが、片割れだけが、へとへとだった。


千里(せんり)、大丈夫? オレがやろうか?」

全く区別がつかないが、ばてている方が千里(せんり)らしい。


「いや、オレ、やる……」

ぜいぜい言いながら、(ほこ)になっていたクサナギを(つるぎ)に変える。

真っ白な宝剣のお出ましだ。


ひゅう~っ

休む間もなく、上から(みずち)の頭が襲って来た。

もう一方の頭は、いまだ元気いっぱいだ。

矢と手裏剣が所々刺さっているというのに、ゆうゆうと尻尾の方まで遠征して来る。


「今それどころじゃないのよ!」

裂帛の気合を込めて、ちさとが矢をぶっ放した。


万里も、一瞬で手裏剣を剣に変えた。

これで武器までお揃いになる。

兄を背中に護って、蛟の顔を睨みつける。

きりっとした表情も、様になることこの上ない。


千里(せんり)は、よろよろと剣を振りかぶった。

急がなくちゃ。そろそろ時間が無い。

そのとき。


ぼこ

いきなり、音と共に、蛟の尻尾から何かが生えて来た。


銀色の棒? いや、剣か?

鱗を突き破って、ひょこひょこと動いている。


不思議な眺めだった。

ぎこぎこ斬っているというより、どうも鱗の方が刀身を避けているような塩梅である。


呆然と見つめる千里(せんり)の前で、ぼっこりと穴が空いた。


「いよっとお」

なんと、和尚が出て来た。

こんな事態だというのに、緊張感の欠片も無い掛け声である。

しかも、飛び出す玩具そっくりな動きだ。


「お、和尚!」

千里(せんり)が、慌てて自分の剣をひっこめた。

あやうく、和尚もろとも、ぶった切るところだ。ダブルで安堵して、深く息をつく。


「無事ね」

「おうよ」

ちさとは、それだけ聞くと、さっさと飛び去った。

見上げると、もうガンガンに矢を放って、蛟と交戦中である。


「素晴らしい切り替えの早さだな」

和尚は、苦笑いしつつ、双子に目を移した。


何故だろう。ここで、和尚の顔が、はっきりと曇った。


双子の一人は、剣を下ろして、ほっとした笑みを浮かべている。


もう一人も、振り返ると、同じ笑顔を見せた。

こっちは剣を構え、蛟の頭が襲ってくるのを警戒している。


瓜二つだ。

まったく同じ顔。同じ服。同じ武器。


千里(せんり)、」

それなのに、和尚は迷うことなく話し掛けた。


「色々と分かったことがある。だけど、今は荒魂だ。早く楽にしてやりたい。こいつは、お前さんが使ってくれ」


いきなり和尚が差し出した宝剣に、千里(せんり)が目を剥いた。

軍服スーツに浮かんだフォースの目も、まん丸になる。

「なんなんですか、これ?! クサナギと同種の力ですが、パワーが桁違いです。計測不能ですよ!」


「あ~、中で拾った。神剣ヤツカだって。いや、貰ったんでいいの? ゼロちゃん」

「ええ、いいでしょ。持ってっちゃ駄目って言われなかったですし」

神剣なのに、果てしなく軽い扱われようだ。


恐る恐る、千里(せんり)が受け取った。

「……不思議な形だね」

刀身の左右に、三本づつ、小さな枝刃が生えている。実用的な形とはいえない。


「オレ、これを扱えるかな、フォース?」

同期しているシルキングの武器とは、わけが違う。しかも神剣さまだ。


「やってみましょう。すみません、和尚さま。クサナギに血を一滴垂らして下さいませんか」

「「和尚さま……」」

めったに呼ばれない敬称に、思わずハモる和尚&ゼロである。


ぷぷ、と笑いがこみ上げたところに、上空から叱責が飛んできた。

「ちょっと! 早くして!」

ちさとだ。

たった一人で攻撃を担っているのだ。


「へいへい」

がぶっと、和尚は左の人差し指を噛んだ。

そうだ、ゼロちゃんと同期できるか試したときも、こんなふうにしたよな。


(いて)えな。でも、これが俺だよ。

ちゃんと、確かめてもらわねえとな。


ぽたり

赤い血を、白い剣の柄に落とす。


ぶわり!


千里は、驚いて目を見開いた。

クサナギが、一瞬で溶けたのだ。

真っ白な糸の固まりと化して、あっという間に宝剣を包み込む。


次の瞬間。

手に持っていた二本の剣は、一本になっていた。


どこもかしこも真っ白な剣だ。

でも、クサナギのフォルムじゃない。

一つの刀身に六つの枝刃を備えた、七支刀になっている。


「融合に成功しました。これで使えますよ、千里(せんり)坊ちゃま」

フォースの目が、穏やかに笑う。


ゼロちゃんまで、口を出した。

「ああ。この(つるぎ)の名は、ヤマツミだそうです。ここの皆さんが、今教えてくれました」

「ヤマツミ。なるほど、山の神という意味ですね。千里坊ちゃまに、ぴったりです」


勝手に、服同士で話が進んでいる。

片割れの万里だけが、心配そうな顔で尋ねた。

「行けそうか、千里?」


力強く頷くと、千里はヤマツミの柄を握った。

これで最後だ。やらいでか。


二人のやり取りを、和尚は静かに見つめていた。彼らしくない表情である。


でも、それも束の間。

ぱっと笑うと、やんちゃ坊主みたいな顔に戻った。

「よっしゃ。もたもたしてっと、お姉さんに叱られちゃうぜ」



★    ★    ★    ★


読んで下さって、有難うございました。

毎週土曜日に投稿していきます。

どうぞ来週もご覧下さいませ。


挿絵(By みてみん)


【次回予告】

㉝悔恨

㉞悔恨

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