表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/38

㉛業火

「ほんとにやったわね」

上空から、ニゴちゃんが感嘆した。

古今東西の英雄にも引けを取らない勇気だ。

いや、ほとんどクソ度胸の類かしら。


シルキング縄は、白く強い光を発していた。

外側からも見て取れる。

まるで、大蛇の体に白い糸が通されていくような有様だ。


その効果なのだろうか。

ざばあっ……

ゆっくりと、川に横たわっていた片割れの体が、浮かび上がってきた。

二股に分かれた胴も、水から出て露わになる。


光る糸が、そこに到着した。

「えっ? 違うわ、和尚。そっちじゃない!」

ちさとが、焦って叫んだ。


シルキングの糸が、尾の方へと向かっていくのだ。


本来の作戦は、違った。

もう一つの首の方へと進む。

そして口から出て、両方の頭をまとめて縛り上げるつもりだったのだ。


「どうしたのかしら……」

シルキングの糸は、どんどん進んで行く。


一方、和尚は作戦どころではなかった。

正気を保っているのすら、難しいくらいだったのである。


辺りが、真紅に染まっていた。

熱い。息苦しい。

(ほのお)が、夜の暗闇を塗りつぶして、四方八方から襲い掛かってくる!


ごおおお……っ

轟音が、絶え間なく降り注いでくる。

なんでだ? ここは蛇の体ん(なか)だろ。

見上げると、赤い空に黒い腹を並べて爆撃機が飛んでいく。


気付けば、たまらずに走っていた。

逃げろ。


意識のどこかで、冷静な自分が叱咤している。

しっかりしろ、和尚。

きっと、コインの柱に入って倒れた人たちも、こいつを見たんだ。

これは幻影だ。本物じゃない。


じゃあ、いったいこれは何なんだ……。


心の中で、自分が答えていた。

「東京大空襲」だ。


下町の家並み。赤く染まる空。降り注ぐ爆弾。

逃げ惑う人々。


何人いる?


業火は、見渡す限り町を焼き尽くしている。

ばりばりと轟く爆音に、悲鳴が掻き消される。


およそ千人くらいの犠牲?

そんなわけないだろ。

お地蔵様の当番おばちゃんが言ったことは、正しかったんだ。

どうして、こんな大惨事が正確に伝わってないんだ?


走って走って……。ふと、自分が服を着ていないのに気付いた。

真っ裸で、草履すら履いていない。


辺りは、一面、焼け野原に変わっていた。

誰もいない。


「ゼ……ゼロちゃん?」

きょろきょろ、呼びかける。


ぽつんと、自分の後ろに、小さな芋虫が浮かんでいた。

透明な球体に包まれている。大きなシャボン玉の中に入っているみたいだ。


それが、口を開いた。

「我はゼロちゃんなどではない」

重々しい口調だ。声は同じなのに、いつもの相棒とは言葉遣いからして違う。


「い、いや。名前を付けたのは俺だけどさ」


「我に名前など無い。そして、我は、我一人だけではない。試作の繰り返しで失われた、何匹もの同胞の命が集まっている」


見れば、シャボン玉の中にいる芋虫の姿は、ブルブルと震えていた。

白い輪郭が、幾重にも重なっている。


「犠牲になった命の寄せ集めよ、我は。この荒魂と同じなのだ。どうにかならなかったのか。悔恨(かいこん)の思いが、共鳴してやまぬ……」


和尚は、息を呑んだ。


ゼロちゃんが、探知の性能だけは優れていた理由。

そして、そもそも荒魂とは、何なのか。

なぜ、ネコ耳だけが採掘できるのか。


一気に、腑に落ちた。

そして……。

「お、俺はさ、こんな人生嫌だって、死ぬほど思ったんだ。だから、ネコ耳になっちまったってことか……」


果たして、シルキング試作機は肯定した。

「その通り。肉体の(かせ)を、魂が壊してしまったのだ。それがネコ耳だ」


芋虫を包んだ玉が、虹色に光り出した。

「だからこそ、ネコ耳は魂を呼び覚まし、(めぐ)(えん)の始まりへと返すことができるのだ」


和尚のネコ耳が、ピクンと揺れた。

勾玉のイヤリングも、無くなっている。


「そっか。じゃあさ、俺と一緒に帰ろうぜ。その始まりとやらへ返される時がくるまでさ、俺はゼロちゃんと一緒にいたいよ」


和尚のネコ耳が、光り出した。

正確には、耳の中からだ。

強い、真っ白な光が、豊かに溢れ出てくる。


そして、真っすぐな光の矢となって、迷いなく伸びた。

虹色の光に包まれた芋虫に向かって。


ぱあっっ……

光と光が出会った。


その瞬間、まばゆい閃光が辺りを照らした。

焼野原が、跡形も無く消え失せる。

浮かぶ芋虫が、一瞬で溶けた。


ぶわり!

白い糸の固まりが、和尚の体を覆う。


あっという間に、和尚は再び(かみしも)を身に付けていた。


勾玉カイコンもだ。

同時に、右のネコ耳に戻っていた。


でも、こちらは明らかに以前と違う。

一回り以上、大きくなっているではないか。

金の輝きも、段違いに強くなっている。


だが、そんなことには頓着せずに、和尚は満面の笑みを浮かべた。

胸元に浮かんでいる目を見ただけで、分かったのだ。

いつものゼロちゃんだ。


「さあ、尾まで到着しましたよ、和尚」

なるほど。行き止まりになっている。

一見、洞窟のような空間だ。


「あれは……?」

どんつきに、祭壇が設けられていた。

何かが祀られている。


(つるぎ)か? えらく変わった形だな」

真っすぐな刀身の左右に、三本づつ枝刃が生えているのだ。


七支刀(しちしとう)、神剣ヤツカだそうです。ここの皆が教えてくれました。さあ、これで脱出しましょう」



挿絵(By みてみん)

読んで頂き、有難うございます。

続きを、本日12:10に投稿致します。

どうぞ続けてご覧下さいませ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ