㉗蛟(みずち)
黒猫の耳に付いたイヤリングは、ちさとの右手に秒で移動していた。
蛟の目に翳されるや否や、ふっ飛んで行く。
小さな銀色の勾玉は、一瞬でローラーで引き延ばされたみたいに広がった。
ぴしっ!
蛟の右目に嵌まる。
きゅうううぅ……
蛟が、力なく鳴いた。
ぐたり
もたげていた頭が、下がってゆく。
「やったか?」
ぶっとい縄を裃に回収しつつ、和尚が問いかけた。
「分からない。けど、たぶん違うわ。見て、エネルギーチップに変化しないもの」
二人は、用心しつつ下降した。
巨大な頭が、ぐったりと川に浮かんでいる。
ちさとは、カイコンを嵌めた筈の目を見た。
「ほら、おかしいわ。カイコンが、目と同じ形になっていない」
今回の荒魂は、まん丸の目をしている。
血を思わせる赤い色だ。
巨体のわりに、目は小さかった。両腕で包み込めるほどの大きさである。
魂振りを行えば、カイコンも全く同じ形になり、ぴったりと嵌まる筈なのだ。
だが、銀色のカイコンは、赤い円の中で違う形を取っていた。
ぺったんこの勾玉の形である。
「う~ん。なんかどっかで見た模様だなあ」
和尚も覗き込んで首を捻る。
曲がった尾を引く勾玉が、二つ。
円の中に、互い違いになって、ぴったりと嵌まる図柄だ。
「勾玉巴っていうんですよ、和尚」
「お、よく知ってるな、ゼロちゃん」
「ほんとですね。なんで知ってるんでしょ」
漫才コンビは放っておいて、ちさとは荒魂の目に手を伸ばした。
かちゃり
銀色が外れた。
ふわりと、ちさとに戻って来る。
「でも元に戻らないね」
ライダースーツから、ニゴちゃんが指摘した。
ちさとが手に持ったというのに。
こんなの初めてだ。
勾玉の形に切り抜かれた、薄い銀色の板。
いっぷう変わった形の鏡みたいだ。
う~ん
みんなで唸る。さっぱり分からない。
「とりあえず、こっちが頭で合ってたんだよなあ?」
和尚が、ぐいんと上昇した。川面を見下ろして、首を傾げる。
大蛇の体は、ぷかぷかと浮かんで来ていた。
後ろに付いた尻尾も、ちゃんと見える。
それにしても、長い。鱗に覆われた胴体が、延々と隅田川の上流へ続いている。
はっ
和尚の目が、見開かれた。
ちさとも、同時に気付いて叫んだ。
「二つに分かれてる!?」
胴体が、途中で二股に分かれているではないか。
もう一つの胴は、この隅田川にではない、分岐した流れの方へと続いている。
「分かったぞ! あっちにも、きっと頭があるんだ!」
和尚が、先にダッシュで飛んで行く。
「ニゴちゃん、風呂敷出して!」
「ハイ!」
ぽん! と出て来る。勾玉模様のサイケな布柄だ。
とりあえず勾玉鏡を包んで背負うと、ちさとも後を追った。
「どういうことなの、ちさと?」
高速で飛びながら、ちさとは麗しい顔を歪ませた。
「蛟は、双頭の蛇だったのよ。だから、片方の頭だけにカイコンを嵌めても、和魂にならなかったんだわ」
急がなくちゃ。
もう一方の頭は、まだ元気なのだ。
「千里ったら、きっと向こうに行っちゃってるんだわ!」
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