㉕魂振り(たまふり)
「みんな逃げて! あれに触らないで! 死ぬわよ!」
ちさとが、上空から川沿いの通行人に叫んだ。
「危ないぞお! 早く逃げろ!」
和尚も真似して空を指し、大声を上げる。
大げさだが、効果てきめんだ。
上空を、謎の巨体がやって来る。それを認めた通行人は、こぞって逃げ出した。
パトカーが、サイレンを響かせて到着した。
警官達が、わらわらと交通規制を敷き始める。
「なんか、今日は色々と対応が早いな」
和尚が感心した。事前に届け出しておくと、こんなに違うのだろうか。
なんにせよ、野次馬の安全は、もう考慮しなくていい。
二人は、いったん川沿いに降り立った。
ここまで飛びっぱなしだ。
だが、本番はここからである。
先っちょは、高度を下げて、明らかに川を目指していた。
和尚は、見上げて確信した。
「やっぱりだ。あいつ、川に入ろうとしてる」
「ふふ、これで思いっきりやれるわね」
ちさとが、ウインクを寄越した。
可愛くない、食えない女の色気たっぷりだ。
和尚も、にやりと笑い返した。
危険を楽しむ男の、余裕が漂っている。
無言で、二人は同時に飛び立った。
上空から川に侵入して、流れの真ん中で待ち受ける。
ざあああっ……
来た。
どす黒いコインの群れが、上からなだれ込んでくる。
野太い円筒状の形を保ったまま、川の流れに沿って、水面すれすれを進んで来るのだ。
とんでもなく長い。
なかなか終わりが来ない。
和尚は、先っちょから一定の距離を保って、バックのまま飛び続けた。
和尚の後ろで、ちさとも同様に飛んでいる。
彼女の方は、かなり距離を取って、進行方向にも目を配っていた。
「和尚、橋よ!」
警告が飛んだ。
「っとぉ」
すんでのところで、和尚が飛び越える。
荒魂の方は、お化けのように、すうっと通り抜けていった。
実体が無くてよかった。ぶち当たっていたら、バキバキに壊されている。
一回だけじゃない。また、橋。さらに、橋。
「多過ぎだろ」
ぼやく和尚に、着ている裃が指摘した。
「でも、どの橋も無人ですよ。ずいぶん広範囲に交通規制が敷かれているようです」
「そいつは重畳」
噴き出すコインの柱の中に入った人間は、みんな倒れて意識不明となっているのだ。
コインの群れは、今や川幅いっぱいに渡って来る。
橋の上にいたら、いちころだ。
とうとう、広い流れに出た。
隅田川と合流したのだ。
コインの大群は、さらに水面の上を、川下へと進んでいく。
ずずず……
すると、群れの途中から、別の群れが生えてきた。
途中から、二股に分かれた形になったのだ。
川の流れも、分岐している場所だった。
派生した新たな先っちょは、隅田川ではなく晴海運河の方へと進んで行く。
だが、和尚は気付かない。
ちさとも同様だった。なにしろ長すぎる。
隅田川の川幅は、ぐんと広くなった。
円筒形の群れは、流れの真ん中をやって来る。
と、先っちょが、水面に突っ込んだ。
ずぶずぶとダイブしていく。
びしいぃっ……!
何の音なのかは、まだ水面に没していない尾っぽを見れば分かった。
「コインが、揃った」
和尚が呟いた。
バラバラに飛んでいた、どす黒いコインが、音を立てて一気に揃ったのだ。
まるで、お行儀よく並んだ、鱗のように。
長い円筒形の体。そして、鱗。
それは何だ?
「来ますよ、和尚」
着ているシルキング0号機の声に、和尚は前方を睨んだ。
ずずずずず……
水面が盛り上がる。
ばしゃあ!!!!
派手な水音と共に、「そいつ」が出て来た。
つるりとした細長い頭。
らんらんと光る、深紅の丸い目。
ちらちらと覗く長い舌は、炎を吐き出しているかのよう。
「蛇、か……」
コインの群れの時より、明らかにデカくなっている。
こっちが頭で間違いなさそうだが。
こいつに、カイコンを嵌めろとな。
ごくり、と唾を呑んだ。その瞬間。
「和尚、避けて!」
ちさとの声と共に、後ろから矢が飛んで来た。
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