㉔魂振り(たまふり)
直径10メートルほどか。
どす黒い柱は、まだ噴き上がっている。
「立ち入り禁止でーす。近寄らないで下さい」
「採掘が始まります。付近の方は、いったん避難して下さーい」
「荒魂は人に危害を加えません。安心して下さーい」
地面の周りでは、警察官達が縄を張っていた。
声を張り上げて、集まって来る野次馬を追い払っている。
対応が迅速だ。事前に届出しておいたお陰だろう。
「おい! 柱ん中で、人が倒れてるぞ」
警官の一人が、気付いて声を上げた。
ちらちらと、どす黒い幕の向こうが透けて見える。倒れているのは一人、いや二人だ。
慌てて、警官達が柱の中に駆け込んだ。
湧き上がる無数のコインが、体を通り抜けて行く。
普通の人間にとって、荒魂は幻影と同じなのだ。触れることはできず、相手から触れられることもない。
「救急車だ、早く……」
大声を上げながら、警官が出て来た。
割烹着を着た女性をおぶっている。
意識を失っているようだ。ここの商店街の住民だろうか。
警官は、女性を地面に横たえると、よろよろと自分も倒れ込んでしまった。
「お、おい!」
待機していた警官が、目を剥いた。
荒魂は、害をなさないんじゃなかったのか?
続けて、もう一人も担ぎ出されてきた。
今度は、地元のお爺ちゃんだ。
残りの警官も、這う這うの体で、柱の奔流から脱出してくる。
そして皆、次々にぶっ倒れた。
現場は、一気に緊迫した。
「どういうことだ?」
上空で見ていた和尚も、唖然と呟いた。
「分からないけど、とっととやった方がよさそうね」
ちさとが、きっぱり決断した。
「ネコ耳以外にも害をなすのであれば、急がなくちゃ」
「あ~ん、ちさと、かっこいい!」
着ているライダースーツから、男子の声で女子なエールが飛ぶ。
初対面の人間なら、ドン引きだ。
でも、この数日間で、和尚も千里もすっかり慣れていた。
そして、二人とも、ぐだぐだ悩む玉ではない。
「おっしゃ、始めっか」
勢い込む和尚に、千里が尋ねた。
「でも、目にカイコンを嵌めるにも、どっちが頭か分からないよ」
まだ出てきていない側が、尾っぽじゃなくて頭かもしれない。
前回、騙されたばかりである。
「私と和尚が、先っちょに向かうわ。頭だったら、二人で攻撃を始める。千里は、ここで、こいつが出切るのを待って確認して」
ちさとが指示した。
彼女が一番頭が切れて、実戦経験も豊富だ。
「千里、もし最後に頭が出てきても、攻撃はしないで待っていてね。私たちも、その場合は急いで戻って来るから」
「分かった。じゃあ、最後が尻尾だったら、オレもすぐに二人の後を追うよ」
ちさとは、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
千里の胸元に向かって、優しい声を掛ける。
「フォース、あなたが一番防御力が高いわ。千里を守って頂戴ね」
「イエス、マム!」
厳めしい軍服から、張り切った返事がきた。
この一週間で、すっかり手懐けられているシルキングである。
下界は、いよいよ騒然としてきた。
野次馬が、宙に浮いているネコ耳達を見上げ、指さして騒ぎ立てている。
かまっている暇はない。
ちさと&和尚の先発隊は、急速発進で、その場を後にした。
ずざあああ……っ
真上に噴き出した柱は、途中で、ぐにゃりと折れていた。
そのまま、勢いよく真横に伸びていく。
ぐいん!
ちさとが、思い切り上昇した。
柱を見下ろして、進行方向を確かめる。
「やっぱり! 川の方に向かってるわ!」
「わかった!」
「ねえ、和尚。これ、なんだかエネルギーチップと同じ匂いがしますよ」
裃に浮かんだ紋が、ぱちぱち瞬いて言う。
「あんれ、ゼロちゃんもチップだって言う?」
どれどれ。
並行して飛んでいた和尚は、コインの集合体に接近してみた。
様子が、はっきりと見て取れた。
ぱたぱた
くるくる
柱のコイン達は、同じ方向に飛びながらも、てんでばらばらに蠢いていた。
大きさは、確かにチップと同じくらい。
どす黒いが、均一の色ではない。
一枚一枚、それぞれに、暗い赤が混じっているような色むらがある。
まるで、何かの群れだ。
上空で曲がった先は、一直線に川へと向かって行く。
「先回りするわよ!」
ちさとが、超スピードで下降してきた。
「おう!」
和尚も、後に続いた。
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【次回予告】
㉕魂振り(たまふり)
㉖蛟




