㉓魂振り(たまふり)
ニャアーオーウ……!
鋭い鳴き声が、響き渡った。
三匹。いや、三人の「ネコ耳」の声だ。
「気を付けろ!」
裃姿の和尚が、じりじりと退いた。
ちさと&千里も、油断なく倣って後退する。
カタカタカタ……
お地蔵様が、小刻みに揺れていた。
明らかに「魂振り」の効果だ。
すぽーん!
いきなり、お地蔵様が跳ね上がった。
まるでシャンパンの栓が抜けたような音を立てて、宙に躍り上がる。
「和尚、キャッチして!」
ちさとが、素早く言い放った。
石で出来たお地蔵様だ。落ちたら割れてしまう。もし人に当たったら、大怪我だ。
和尚の反応も早い。瞬時に飛び上がって、飛んでいくお地蔵様を追った。
「うおっとお」
空中で、かろうじてキャッチする。
ずっしりと重い。
ボールなんかとは訳が違う。
抱えたまま飛び続けるのは、とうてい無理だ。
「オレも行かなくていい?」
目で追っていた千里が、ちさとに尋ねた。
上空にいる和尚が、歯を食いしばって、ゆっくりと落下していくのが見える。
根性で、お地蔵様を抱えたまま、地面に下ろすつもりだ。
「和尚なら、一人で大丈夫。さあ、来るわよ」
ちさとは、静かに促した。
視線は、一瞬たりとも、お地蔵様が祀られていた場所から逸らさない。
ずずずず……
立っている地面が、揺れ始めた。
どんどん激しくなっていく。
何かが、地中で動いているみたいだ。
巨大な「何か」が。
ぶわっ!
突然、お地蔵様が置かれていた場所から、どす黒い色が噴き出した。
ちさとが、物も言わず飛び上がった。
今日は、ぴったりしたライダースーツ姿だ。
勇ましい上に、100点満点のプロポーションである。
千里も、同時に飛んだ。
こちらは、洒落た軍服を思わせるスーツだ。
人形顔負けの端麗な容姿に、恐ろしいほど似合っている。
その整った眼差しが、驚きで瞬いた。
「エネルギーチップ?」
一見、どす黒い柱だ。
だが、よく見ると、それは膨大な数のコインで出来ていた。
後から後から噴き出して、太い柱を作り出しているのだ。
「まだチップが出てくるわけないわ。魂振りしただけだもの」
ちさとが、冷静に指摘する。
二人は、柱から距離を取って見守った。
ずざざざーっ!
まだまだ、出て来る……。
「うお~い、お待たせ。お地蔵さん、下ろして来たぜ~い」
和尚が飛んで来た。
二人の傍に浮くと、際限なく出て来る柱形のオブジェに、息を呑む。
「予想通り、デカそうだな」
和尚の言葉に、ちさとが頷いた。
「荒魂は、生き物の形を取ることが多いわ。きっと、ここから変化する」
長い柱状の生き物。
それは何だろう。
すると、突然、和尚が頭を抱えて喚いた。
「あ~、しまったあ! 交番に連絡しとくの忘れてた!」
「またですか、和尚」
「だって、ガキや爺ちゃんの姿だと、そこから説明しなきゃで面倒くさいじゃん。ゼロちゃんも気づいてたら教えてくれよう」
「いやあ、私も忘れてました」
服と漫才でもしているような有様だ。
見かねて、千里が口を挟んだ。
「あの、採掘の届出は、オレがしておいたから。ちさとも一緒に」
ころっと、トラ猫と裃は言い合いを止めた。
「あ、そなの。あんがとさん。よかったあ、怒られねえで済むぜ」
確かに、下では人々が騒ぎ出している。
「そういや、千里って、全然変化しなかったもんなあ。ずっと、その年頃のまんまだったろ。もしかして、それも最新機の機能?」
のんきに尋ねてくる。
「い、いや。オレは発症した年が若かったから、振り幅が狭いんだろうって。宇賀神室長さんが言ってた」
「ああ、あの変人室長な」
呆れた肝の太さだ。
和尚は、普段通りに話しかけてくる。
これから荒事に挑む局面だというのに。
たまらず、千里が窘めようとしたところで、警戒音が鳴り響いた。
自分の着ているスーツからだ。
「緊急時のため、音声オフを強制解除。急激な荒魂の増幅を探知。もっと離れて下さい!」
早口だ。スーツに急浮上したフォースの目が、吊り上がっている。
ばっ
三人のネコ耳は、急速後退した。
誰一人、狼狽えて遅れたりはしない。
ずざああああああっ!!!
どす黒い柱が、一気に太さを増した。
比較にならない量だ。桁違いに激しく噴き出してくる。
ウ~ ウ~……
防災サイレンが、辺りに鳴り響き始めた。
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続きを、本日12:10に投稿致します。
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