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㉑それぞれの決意

シルキング4号機は、最新機種だ。

機能満載。そのおかげで、通常機種より、優に家一軒分ほど値段が高い。

しかし、「それいらないだろ」と文句を付けたくなる無駄な機能まで山盛りである。


だが、これだけは秀逸だった。


「あれ、こんなところに家なんてあったかな」

通行人の男は、首を捻った。

町はずれの一画。

確か、空き地じゃなかったっけ。


そこには、立派な一軒家が建っていた。

流行りの洋風住宅だ。


「ま、気のせいか。どこもかしこも新築ラッシュだしな。最近、建ったんだろ」

男は、一人で納得すると、そのまま通り過ぎていく。


家の窓から覗いていた千里(せんり)は、胸を撫でおろした。


「大丈夫ですよ。侵入や危害を加えられた場合、撃退プログラムを作動させます」

シルキング4号機「フォース」の声が、上から響いてきた。無駄に美声だ。


「だからだよ。怪しんだだけの人に、怪我させたくないし」

撃退、ときた。絶対、無茶苦茶なことをするに決まってる。


「坊ちゃん達は、お優しいんですよねえ」

フォースの口調が、でれっと崩れた。

シルキングって、皆こうなんだろうか。

同期した相手を、まるで目に入れても痛くない初孫かのように扱ってくる。


やれやれ。肩を(すく)めると、千里(せんり)はソファーに戻った。

スプリングばっちり。ゴージャスな革張りの、超高級家具に見える。


室内には、テーブルやキャビネットまであった。絵画まで飾ってある。

一見、上流階級の応接間だ。

二階には、寝室や客間まで備えている。


だが、それもこれも、全てシルキングで出来ているのだ。


ちなみに、台所やトイレ、浴室は無い。

元は、ただの「(まゆ)」だからだ。

上面(うわつら)だけは作れても、機能は持たせられないからである。


そして、この「家」の中に入れるのは、シルキングと同期した者だけ。


「で、どうしたいの、千里(せんり)は」

「オレだけ行くよ。埋蔵されてるチップは、相当な量だ。どんな荒魂(あらみたま)が出てくるか分からない。危険だけど、オレなら構わないだろ」


自分と同じ顔が、寂しげに歪んだ。

「オレは、そんなつもりで千里(せんり)と一緒にいるんじゃない」


「分かってる。オレは楽しんでるよ。だから、気にするなって」

本当なら、もう、お前と話したりできなかった。

また一緒に出掛けたりも、できなかったんだから。


十分だ。

あとは、オレが出来ることをして終わりたい。


「うまく発掘できれば、大金が手に入る。そうしたら、父さんにお金を返せる」

自分のせいで使わせてしまった、シルキング最新機購入代金を。


「それで余ったら、家を買うんだ」

「ああ。小さくてもいい。自分の城だ。親戚連中なんか、敷居を跨がせない」

「それから、母さんを引き取って、一緒に住むんだ」


交互に喋ると、並んで座った二人は微笑み合った。瓜二つの笑顔だ。

「分かるんだ、オレの考えてること」

「分かってるよ。オレはお前だもん」

元は一つの卵だった、オレとお前。


「母さんを自由にしてあげて、万里(ばんり)

それは、自分たちの、神聖な約束。誓約だ。


「……分かった。でも、オレも近くで待機してる。絶対に無理はしないで、千里(せんり)


頷いた。すると、ようやく納得したらしい。

目を見るだけで分かる。


天井から声が降って来た。

「そろそろ、おやすみの時間です。寝室に移動して下さい」

「さあ、お前は寝なくっちゃ。眠いんだろ。さっきから、糸がぴょこぴょこ出てる」


自分と同じ白猫の耳から、透明な糸が数本かくれんぼしている。

非制御型獣化症の患者は、眠気が分かりやすい。


「おやすみ、千里(せんり)

「ああ。ここにいるから、安心して寝な」

ぱたん、とドアが閉まった。


ぶら下がったネームプレートが、揺れた。

『SENRI&BANRI』

(つたな)い木彫り。フォースに説明して、実家にあった物を再現してもらったのだ。


一緒の部屋じゃなきゃ、嫌だ。

そろそろ部屋を分けたらどうか、父に聞かれた時、自分達は口を揃えて答えたものだ。


でも、オレはもう一緒に入れない。


ドアの中では、今、無数の糸が飛び交っていることだろう。

部屋の壁や天井から、シルキングの白い糸が無数に吐き出されていく。

目を閉じた万里(ばんり)のネコ耳からは、透明な糸が豊かに漏れ出す。


二種類の糸は、絡み合う。

そして、彼の体を包み込み始める。

やがて、部屋の中央に、吊り下げられた(まゆ)が完成するのだ。


万里(ばんり)は眠る。作られた、安全な胎内で。

そして、朝、再び産まれるのだ。


万里(ばんり)……」

これからも、そうやって生きていかなければいけない、双子の弟。


千里は、しゃがみ込んで膝に顔を埋めた。

背中に、自分達を隔てる一枚のドアがある。

もう、この仕切りは、決して無くなりはしないんだ。



挿絵(By みてみん)

読んで頂き、有難うございます。

続きを、本日12:10に投稿致します。

どうぞ続けてご覧下さいませ!

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