⑯チーム千里
「で、これだ!」
いたずらっ子の顔で、トラ猫の耳を持つ男は指し示した。
下町の商店街。その道端に祀られた、小さなお地蔵様だった。
赤い涎掛けが、古びている。
それでも、数本の花が供えられていた。
横に置かれた水も、澄んでいる。
誰かが、気にかけて、ちゃんと取り換えているのだろう。
石地蔵を前にした千里は、引き攣った顔をしていた。
ちさとも同様だ。絶句している。
並々ならぬ緊張が、身に付けた服から伝わって来るのだ。
同期している間柄だ。ある程度は、互いの感情を察することができる。
「ニゴちゃん、どう?」
「……絶対ある。すっごい量だって分かる。ボクじゃ、もう見当もつかない」
ちさとの2号機は、感知の結果をそう述べた。
「フォース、音声オン。探知してくれ」
千里がシャツに話しかける。
ぱちり
両胸ポケットに、眼のような柄の刺繡が浮かんだ。
なんだろう。眼だけなのに、そこはかとなくイケメンっぽい。
「かしこまりました。エネルギーチップは、100%の確率で存在します。枚数は、計測可能な値を超えています」
声まで、なんだか格好いい。
しかし、予想を遥かに上回る大物だった。
最先端の性能を誇る4号機をもってしても、計測できないだなんて。
和尚が、ネコ耳仲間に頷いた。
「な、間違いないだろ。いや~、数か月前に偶然見つけたんだけどさ。こりゃダメだ、もっと場数を踏んでから挑戦しようって、取っといたんだ」
「それは賢明ね。荒魂の手ごわさは、チップの量に比例するから」
ちさとが、冷静に述べた。
三人の認識が、ここで完全に一致した。
空前絶後の規模だ。ということは。
荒魂のレベルは、はかり知れない。
鬼が出るか、蛇が出るか……。
「はっきり言って、命の保証が無い」
和尚の顔から、笑みが消えた。
淡々と続ける。
「だから、一晩考えてくれ。明日の朝、やるかどうかの返事を聞きたい。ここで、9時に集合で頼む」
ちさとが、俯いていた顔を上げた。
真剣な顔をした美女は、迫力がある。
「あなたは、やるつもりなのね、千里さん」
「あ、やめてやめて。和尚でいい。こそばゆくって、たまんねえ」
そこかよ。
千里少年は、若干呆れた。
シリアスだったのは一瞬だけ。もう軽い調子に戻っている。
「ま、断られたら、他の奴を探すけどさ。俺はやるよ。だって採掘師だもん」
おっさんが、「だもん」なんて言うな。
だが、妙に人好きする男だ。
トラ猫が、にやっと笑う。
楽しい遊びが始まるぜ。
「退屈な人生なんて、もう飽き飽きなんだよ。せっかくネコ耳になったんだ。俺しかやれないことして生きるって決めてんだ」
「ふ~ん」
ちさとの赤い唇から、小さな声が漏れた。
「……いいわね、すごく」
続いた小声の賞賛を、和尚も千里も聞き逃さなかった。
そして、二人とも、思わず目を奪われた。
黒猫の耳を持つ美女の、嫣然とした笑みに。
「あなたの気持ちは分かったわ。明日の朝9時に、ここね。それまでに決めて来るわ」
「お、おう」
和尚は、気を取り直して返事をした。
うん、ちゃんとした奴だ。
自分のことは自分で決める。
たとえ不幸な結末になったとしても、人のせいにはしないだろう。
「坊ちゃんも、よく考えてくれな。強制はしない。断るなら、今ここででもいいぜ」
すると、白猫の少年は、和尚の顔を真っすぐに見た。
「ごめん、家族に相談して決めてくる。ここで『やる』って即答できない。明日の朝、返事する。ごめん、ほんと」
あ、こいつもいいなあ。
和尚の目尻が下がった。
責任感のある言動だ。安請け合いもしない。
「おうよ! なあ、ところでさあ、そいつ喋れるんだな」
和尚は、ニコニコと千里のシャツを指さした。
自分の0号機ですら会話できるのだから、当たり前か。
すると、刺繡の眼が、キリリと引き締まった。
イケメンボイスが流れ出る。
「初めまして。私はシルキング4号機。坊ちゃんは、それに準えてフォースとお呼びになっています」
「ふ~ん。しゃれた呼び名だなあ」
和尚が褒めると、でれりと刺繡が崩れた。
「そうなんですよ! 坊ちゃんはセンスがよろしくて! それだけじゃない、頭もいいんです! 学校では、いつも一番だったって」
口調が、まるっきり親馬鹿のそれである。
「性格も優しい子なんです。恥ずかしがって、ぶっきらぼうに振る舞うこともありますが。それもまた可愛くって。育ちがいいから意地悪に気付かない、天然なところもあるんです。もう心配で心配で」
立て板に水だ。
あわわわ……
可哀そうなくらい、服の主は狼狽えていた。
「ちょっと」「待って」とか制止する声も、届かない様子だ。
「まだ15歳ですから、しかたがないでしょう。でも、しっかりしてるんですよ。お二人とも、」
「フォース! 音声オフ!」
千里少年が叫んだ。
ぴたり
みるみるうちに、浮かんだ眼が生地の中に埋没する。
「……こんなわけで、普段は音声をオフにしてる」
真っ赤になった千里に、和尚&ちさとが深く頷いて言った。
「「なるほど」」
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【次回予告】
⑰それぞれの夜
⑱それぞれの夜




