表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/38

⑯チーム千里

「で、これだ!」

いたずらっ子の顔で、トラ猫の耳を持つ男は指し示した。


下町の商店街。その道端に祀られた、小さなお地蔵様だった。


赤い涎掛けが、古びている。

それでも、数本の花が供えられていた。

横に置かれた水も、澄んでいる。

誰かが、気にかけて、ちゃんと取り換えているのだろう。


石地蔵を前にした千里(せんり)は、引き攣った顔をしていた。

ちさとも同様だ。絶句している。


並々ならぬ緊張が、身に付けた服から伝わって来るのだ。

同期している間柄だ。ある程度は、互いの感情を察することができる。


「ニゴちゃん、どう?」

「……絶対ある。すっごい量だって分かる。ボクじゃ、もう見当もつかない」

ちさとの2号機は、感知の結果をそう述べた。


「フォース、音声オン。探知してくれ」

千里(せんり)がシャツに話しかける。


ぱちり

両胸ポケットに、眼のような柄の刺繡が浮かんだ。

なんだろう。眼だけなのに、そこはかとなくイケメンっぽい。


「かしこまりました。エネルギーチップは、100%の確率で存在します。枚数は、計測可能な値を超えています」

声まで、なんだか格好いい。


しかし、予想を遥かに上回る大物だった。

最先端の性能を誇る4号機をもってしても、計測できないだなんて。


和尚が、ネコ耳仲間に頷いた。

「な、間違いないだろ。いや~、数か月前に偶然見つけたんだけどさ。こりゃダメだ、もっと場数を踏んでから挑戦しようって、取っといたんだ」


「それは賢明ね。荒魂(あらみたま)の手ごわさは、チップの量に比例するから」

ちさとが、冷静に述べた。


三人の認識が、ここで完全に一致した。


空前絶後の規模だ。ということは。

荒魂のレベルは、はかり知れない。

鬼が出るか、蛇が出るか……。


「はっきり言って、命の保証が無い」

和尚の顔から、笑みが消えた。

淡々と続ける。


「だから、一晩考えてくれ。明日の朝、やるかどうかの返事を聞きたい。ここで、9時に集合で頼む」


ちさとが、俯いていた顔を上げた。

真剣な顔をした美女は、迫力がある。

「あなたは、やるつもりなのね、千里(ちり)さん」


「あ、やめてやめて。和尚(おしょう)でいい。こそばゆくって、たまんねえ」

そこかよ。

千里(せんり)少年は、若干呆れた。

シリアスだったのは一瞬だけ。もう軽い調子に戻っている。


「ま、断られたら、他の奴を探すけどさ。俺はやるよ。だって採掘師だもん」

おっさんが、「だもん」なんて言うな。

だが、妙に人好きする男だ。


トラ猫が、にやっと笑う。

楽しい遊びが始まるぜ。

「退屈な人生なんて、もう飽き飽きなんだよ。せっかくネコ耳になったんだ。俺しかやれないことして生きるって決めてんだ」


「ふ~ん」

ちさとの赤い唇から、小さな声が漏れた。

「……いいわね、すごく」

続いた小声の賞賛を、和尚も千里(せんり)も聞き逃さなかった。


そして、二人とも、思わず目を奪われた。

黒猫の耳を持つ美女の、嫣然とした笑みに。


「あなたの気持ちは分かったわ。明日の朝9時に、ここね。それまでに決めて来るわ」


「お、おう」

和尚は、気を取り直して返事をした。


うん、ちゃんとした奴だ。

自分のことは自分で決める。

たとえ不幸な結末になったとしても、人のせいにはしないだろう。


「坊ちゃんも、よく考えてくれな。強制はしない。断るなら、今ここででもいいぜ」

すると、白猫の少年は、和尚の顔を真っすぐに見た。


「ごめん、家族に相談して決めてくる。ここで『やる』って即答できない。明日の朝、返事する。ごめん、ほんと」


あ、こいつもいいなあ。

和尚の目尻が下がった。

責任感のある言動だ。安請け合いもしない。


「おうよ! なあ、ところでさあ、そいつ喋れるんだな」

和尚は、ニコニコと千里のシャツを指さした。

自分の0号機ですら会話できるのだから、当たり前か。


すると、刺繡の眼が、キリリと引き締まった。

イケメンボイスが流れ出る。


「初めまして。(わたくし)はシルキング4号機。坊ちゃんは、それに(なぞら)えてフォースとお呼びになっています」


「ふ~ん。しゃれた呼び名だなあ」

和尚が褒めると、でれりと刺繡が崩れた。


「そうなんですよ! 坊ちゃんはセンスがよろしくて! それだけじゃない、頭もいいんです! 学校では、いつも一番だったって」


口調が、まるっきり親馬鹿のそれである。


「性格も優しい子なんです。恥ずかしがって、ぶっきらぼうに振る舞うこともありますが。それもまた可愛くって。育ちがいいから意地悪に気付かない、天然なところもあるんです。もう心配で心配で」


立て板に水だ。

あわわわ……

可哀そうなくらい、服の主は狼狽えていた。

「ちょっと」「待って」とか制止する声も、届かない様子だ。


「まだ15歳ですから、しかたがないでしょう。でも、しっかりしてるんですよ。お二人とも、」

「フォース! 音声オフ!」

千里(せんり)少年が叫んだ。


ぴたり

みるみるうちに、浮かんだ眼が生地の中に埋没する。


「……こんなわけで、普段は音声をオフにしてる」

真っ赤になった千里(せんり)に、和尚&ちさとが深く頷いて言った。

「「なるほど」」



★    ★    ★    ★


読んで下さって、有難うございました。

毎週土曜日に投稿していきます。

ぜひ来週もご覧下さいませ。


挿絵(By みてみん)


【次回予告】

⑰それぞれの夜

⑱それぞれの夜



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ