⑭チーム千里
三本の足。ヤタガラスだ。
だが、こいつの羽は黒ではなかった。
一見、白に見える銀色だ。
体も、一回り大きい。
こいつは、他のヤタガラス達とは違う。
「お役人」なのだ。
「採掘お疲れさまでした。では、報酬のお支払い手続きを致します」
そして喋る。
「3名で実施でよろしいですね。あなた方はチームですか?」
カラスに聞かれて、ネコ耳3名は首を傾げた。
「チーム? なんだそりゃ」
和尚が代表して問い質す。初めて聞くぞ。
「先日、新設されたルールです。まだ周知が行きわたっていないようですね」
銀色ヤタガラスは、表情を変えずに、淡々と説明した。
毎回思うが、どこから声が出てるんだろう。
「一人で行う採掘には、限界があります。より大規模な採掘を促進するために、複数人でチームを組んで採掘をした場合、報酬をアップさせることになったのです」
三人は顔を見合わせた。
通常は、採掘したエネルギーチップの三割が報酬になる取り決めだ。
割は良い。月に二、三枚採掘できれば、余裕で暮らせるほどだ。
だが、しょせん水物商売。無いときは、無い。
「今なら、促進キャンペーン中につき、報酬1割アップ」
「「チームです」」
途中で、和尚&ちさとが即答した。
二人とも迷いが無い。
「ちょ、ちょっと待って」
少年が、慌てて制止した。
お人形みたいに綺麗な顔が、崩れてしまっている。相当、あせった様子だ。
がしっ
問答無用で、和尚が彼の肩を抱いた。
ヤタガラスに背を向けて、こそこそ話し出す。
「いいかい、坊ちゃん。1割アップっていったら、4割になる。おいしいだろ。さっきの採掘、結構な量だったじゃねえか」
実際、あんな大物は稀だ。それは分かる。
「でも、チームなんて……。オレ、人とずっと一緒に行動するのは無理なんだよ。悪いけど、一人がいいんだ」
真っ白な猫耳が、しゅんと垂れている。
しかし、それに反して、茶トラの猫耳はピンと奮い立った。
「そうか。安心しろ、俺も嫌だぜ!」
いい笑顔である。
「今さら、四六時中、他人と仲良しこよしなんて、真っ平ごめんだ。でかい採掘の時だけ手を組む。それだけの関係でいこうぜ」
はっきり言う男だ。
「なあ、お嬢さんはどうだい? ずっと3人で採掘やりたい?」
話を振られた美女は、振り返って目を細めた。
黒猫みたいな笑顔だ。
「イ・ヤ」
色気が滴り落ちるような口調である。
坊ちゃんは絶句した。色々とキャパシティを超えたらしい。
「な? とりあえずやってみて、嫌だってんなら、チーム解消すりゃいい。そんなに固く考えんなよ」
はっはっは
トラ猫男は、抱いた彼の肩をバシバシ叩いた。
果てしなく軽い調子だ。
「……あ~、まあ、それなら」
「はい決まり。じゃ、どうすりゃいいんだ、お役人さんよ」
振り返ると、銀色のヤタガラスの目が、じっと少年を見ていた。
ん? なんだ?
営業職で磨いた和尚のカンが、ピンと告げた。こいつは何かを言いたがっている。
だが、問い質すより早く、お役人ガラスが嘴を開いた。
「所定の届け出用紙に、メンバーの氏名とチーム名、結成日を記入してご提出下さい。用紙は本部に準備してあります」
「えっと、じゃあオレが提出しておくよ。本部に寄る用事があるから」
坊ちゃんが率先して申し出る。なかなかに細やかな気遣いをする少年だ。
「では、今回の報酬は、各々の銀行口座へ振り込み致します。こちらにカイコンの認印を下さい」
ポンプ井戸の上にとまったヤタガラスは、ちょんちょんと近寄って来た。
首に、小さな帳面を下げているのだ。
和尚は、トラ猫の耳に付いたイヤリングに触れた。すっと外れる。
帳面に近づけると、金色の勾玉は細長く形を変えた。
今度は印鑑になったのだ。
「はい、和尚、朱肉です」
懐から、にゅっと小さな入れ物が生えて来た。
受け取り、蓋を開けて、和尚は顔を顰めた。
「ゼロちゃんよ、朱肉、カピカピじゃねえか」
中には、干からびた粘土みたいな印肉が詰まっている。
「あ、よかったらどうぞ」
美女が、自分の朱肉を差し出した。
こちらは、スマートなスポンジ朱肉だ。
「ああ、こりゃどうも」
礼を言って借りると、先に帳面を開いて押印した。
千里
そのまま差し出すと、美女の顔が驚いている。
「せんりさん、とおっしゃるの?」
「いや、ちり。千里乙尚って名前です」
自分も朱肉を付けると、彼女は隣りの欄に銀の印鑑を押した。
千里
今度は、和尚が驚く番だ。
「え? せんりさん?」
「いいえ、ちさと。私は姓じゃなくて名前を印鑑にしてるの。鳥海千里よ」
坊ちゃんが、さらに驚いた顔で、プラチナのの印鑑を押した。スタンプ台不要の、朱肉内蔵型らしい。最新式だ。
空穂
「へえ~。こりゃまた珍しい苗字だな。なんて読むんだ?」
「うつぼ。オレの名前は、空穂千里。せんり、は同じ漢字だ」
へええ~
感嘆の重奏だ。
カラスだけはノーリアクションである。
いい事思いついた、とばかりに和尚が手を打った。
「じゃあ、俺達、チーム千里だな!」




