【第9話】覚醒のモフ、三つの輝き
猫神の祠の前には、息をひそめて待つ者たちの姿があった。
「……遅いわね」
シロ姐が尾を揺らしながら空を仰ぐ。
「気の流れが変わってきております……これはそろそろですぞ……」
バルフォン老がゆっくりと草杖を握った。
程なくして。
フサフサァ──
祠の大扉がゆっくり開き、まばゆいフサフサのオーラをまといし三つの影が……
「モコ!」
「カリカリ姫とクサクサ王子も!」
「おかえりなさいませ!」
「猫神様には会えましたか?」
みんなが一斉に駆け寄る。
モコモコ伯爵フサフサ卿は、まるで風そのもののようにしっぽを翻し、しずしずと歩み出る。
カリカリ姫のマントの裏では、黄金色のカリカリの粒がふわりと光を放ち、クサクサ王子の肩先には小さな草の精霊がちょこんと座っていた。
「おおお……フサ……増してるじゃん!」
シロ姐の目が見開かれる。
「これは……“祝福”を受けた証……!」
バルフォン老は驚きと敬意に満ちた声で呟く。
「猫神様は……三人に、にゃんだぶる称号をお授けになったのですな」
「にゃんだぶる……称号……!」
後ろで見ていた団員たちがざわめいた。
モコが一歩、前へ出る。
しっぽを高く掲げ、風をまとうような気品を放ちながら──
「我が名は、モコモコ伯爵フサフサ卿」
低く、よく通る声で告げた。
その姿はもはや「可愛いモコ」ではない。
まるで大理石の宮殿で演説を行うように、堂々たる姿。
一瞬、皆がざわめく。
「このたび、猫神との出逢いを果たし……にゃんだぶる称号を授かったこと、ここに報告する」
「……えっ? モコ?人格変わった?」
カリカリ姫が目をぱちぱちとさせた。
「なんか……モコ……カッコいい……!」
クサクサ王子は草の精霊と一緒に目をまん丸にして固まっている。
モコモコ伯爵は、すうっと前足を上げ、優雅に空を仰ぐ。
「モコモコ──それは、しっぽに宿る柔らかき嵐。
フサフサ──それは、存在そのものが放つ威光なる毛並み」
光を受け、モコのしっぽが一際ふわりと広がる。その毛並みは神々しく、後光すら差して見えた。
「これより我が使命は明確だ。世界に、愛と調和、そして……毛玉の尊厳を広めることである」
「おおお!さすがモコモコ伯爵様!」
どよめきと拍手が広がった。
「にゃんだぶる称号を二つも……!!」
──こうして、突如「伯爵モード」が発動。フサフサ王国に新たな伝説が刻まれることとなる。
「……でもさぁ……」
カリカリ姫がぽつりとつぶやいた。
「モコだけ猫神にめちゃくちゃ気に入られたの、あたし、ぜったい……くっさい靴下あげたからだと思うんだよね〜」
隣でクサクサ王子が、クスッと笑った。
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その頃、王国中には「三人が猫神から祝福を受けた」という報が広まり、民たちはソワソワ落ち着かない様子だった。
そんな城下町に、三人が戻ってきた。
「モコ様おかえりニャーー!!」
「フサフサ増えてるー!?」
「キャア!そのしっぽで叩かれたいーー!!」
黄色い歓声が飛び交う。
そんな中──
モコモコ伯爵フサフサ卿、一歩前へ。
「ふむ……民よ、その熱き声、しっぽに響いたぞ」
ゆっくり手を挙げ、優雅に応える。
「え、何このアイドル級人気!?」
カリカリ姫が若干悔しげに呟く。
「伯爵モード……カッコいい……」
クサクサ王子は、うっとり顔。
しばし三人は、民たちと触れ合いながら、知らず知らずのうちに、“猫神から授かった不思議な力”の片鱗を使い始めることになる……
広場の片隅。
子猫たちが小さな凧を飛ばして遊んでいたが、風がまったく吹かず、しょんぼりしていた。
「これじゃ飛ばないにゃ……」
「つまんないの〜」
そのとき。
「……ふむ、凧というものは、風を読めぬとては語れぬな」
モコがすっとしっぽを構え、ひとふり。
ふわっ──
空気が優しくうねり、まるで息を吹きかけるように風が凧を押し上げる。
「と、飛んだぁぁぁ!!」
「モコ様、風を起こせるの!?」
モコ自身も驚いたように、しっぽを見つめている。
「ふむ……?これは……」
モコがもう一度、意識してしっぽをスッと振ると――また風が起きた。
「今の我は、風を従えるのか……!」
モコは得意げにしっぽをぐるん!と回し、花びらを舞わせてみせた。
ちびっこたちが「すっごーい!!」とモコのまわりでぐるぐる踊り出した。
一方そのころ、広場の一角には、ちゃっかり「カリカリ姫の愛の屋台」が開店していた。(仕事が早い姫)
「さぁ〜いらっしゃい!今日はカリチキ風味に、新作“レア焼きミラクル味”もあるからね〜!」
姫は変わらぬギャルテンションでカリカリをふるまっていた。
「姫さま!このカリカリ……すごく美味しい!」
「僕、さっきまで熱があったのに、今なんかすっごく元気!」
カリカリ姫特製のカリカリは大人気!
ふと横を通り過ぎる二人のママ猫の会話が聞こえてきた。
「私、最近なんだか毛艶が悪くてさ……ブラッシングしても、輝かないのよ……」
「わかる〜、私もよ……年かしら?」
カリカリ姫は思わず答えた。
「えっ……マジ!?それはつらッ!毛艶、大事すぎるっしょ!!」
そして表情をキリッとさせ、マントをひるがえし、考えた。
「えーっと……毛ヅヤが悪い時は、ビタミンC強化型・ハーブミックス味かな……明日、作ってきてあげるからねッ!」
そう言った途端、
カラン、カラン……
杖の先から、ほんのり緑がかったカリカリがポロポロと出てきた!
「え!? ちょ、今の、あたし出した!? カリカリ自動生成とか、神か……!?」
思わず呟く姫。
その横で、ママ猫たちはそのカリカリを一粒、口にした――
「えっ……! なんだか……体が、ぽかぽかするような……!毛先が潤っていく……!」
周囲の民たちが急にざわめき始めた。
「姫さまのカリカリ、神すぎる!」
姫はちょっとドヤ顔でふふんと笑った。
「あたしの愛のチューニング能力、開花しちゃったぁ〜?!」
杖の先をクルッと回すと、今度は肉球エキス入りまぐろ風味がポロポロ。
「いや待って、これは自分用だから!」慌てて袋に詰める姫に、民たちの笑い声が広がった。
城下町のカリカリ祭りのような賑わいの中、クサクサ王子は広場の片隅で、民の子どもたちに草笛の作り方を教えていた。
「王子すごいー!この草、歌ってる!」
クサクサ王子は優しく微笑みながら、
「この子はツルバミソウ。静かな風が好きなんだよ。そっと吹いてみて?」
そこへ、一人の小さな女の子が照れながら、手作りの花冠を差し出してきた。
女の子はモジモジしながら……
「あの……クサクサおうじ……これ、作ったの。に、にあうといいなって……」
クサクサ王子(固まる)
「え、えっ……!?ぼ、ぼくに……?」
周囲の大人たちや子どもたちが、わっと笑ってからかう。
「わ〜、王子〜モテてるぅ〜!」
「草の妖精みたーい!」
クサクサ王子は真っ赤な顔で、頭に花冠をそっとのせられると……
──その瞬間、
彼の髪に挿した一輪の草がふわっと光り、地面に植わった草花たちがざわめいた。
パァァァァァァァアアアアアッ!!!
周囲一帯の広場に、一斉に可憐な草花が咲き誇った。まるで祝福するように、色とりどりの花が舞い、子どもたちが歓声をあげる。
「なにこれ!?」
「花がしゃべってるー!」
「一瞬“ありがとう”って聞こえた……」
民たちは、大興奮!
クサクサ王子(パニック赤面)
「わっ、わああ〜〜〜〜〜〜っ!?
なんだろう?どうしたんだろう?!」
花冠の少女はキラキラと目を輝かせて、
「やっぱり……草の王子さま、だったんだぁ!」
──こうして、城下町には、ひとときの“奇跡の花咲き祭り”が起きたのだった。
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その夜、祭りの熱気は少しずつ冷め、城下町は月明かりに包まれていた。
カリカリ姫、クサクサ王子、モコモコ伯爵は、城の一角にあるバルフォンの研究室を訪れていた。
部屋には古い書物が並び、草の香りがふんわりと漂っている。
窓からは星空が広がり、モコのしっぽもゆらゆらと月光に照らされていた。
モコモコ伯爵は、しっぽを優雅に揺らしながら、
「ふむ……本日、余のしっぽより生まれし風は、民の花畑をそよがせ、洗濯物をいとも容易く乾かした……」
クサクサ王子
「ぼくは……えっと、その……花が……いっぱい咲いちゃって……でも、あれはたぶん、感情が……えっと……」
カリカリ姫(ふんぞり返って)
「で、わたしの杖ね?カリカリ悩んでたら、ポロポロ出てきたのよ!神がかってるよね。いや、神なんだけど!」
バルフォン老は、白い眉をピクッと動かしながら、ゆっくりと椅子から立ち上がった。彼の手元には、かつて猫神に仕えていたという古文書があった。
「それは──猫神から授かった、特殊能力でございますな」
三人は目を見開いた。
「それぞれの個性と心に呼応して、力が芽吹いたのです。
モコ殿には“モコ・ストリーム”
──風をまとうしっぽ
王子殿には“フラワー・バースト”
──感情が咲かせる奇跡の花
姫様には“カリカリ・リジェネ”
──癒しをもたらす神のカリカリ
どれもまだ小さな芽。しかし──」
バルフォンはゆっくりと三人を見渡す。
「経験を積み、絆を深めれば、これらは偉大なる力”と育ちましょう。そして……」
「まだ眠っている能力が、あなた方の中にはあると、わしは睨んでおります」
三人は思わず見つめ合う。
「え、まだカリカリ出てくるの?次、魚味とか来ちゃう!?」
「ぼく……これ以上咲いちゃったら、町が森になっちゃうかも……!」
「ふむ。余のしっぽが、空をも裂く日も近いということか……!」
バルフォンは微笑みながら、窓の外の星空を見上げた。
「すべては、あなた方が選び、歩んでいく冒険の先にございます。にゃんだぶる称号を授かった今、運命の風は──
あなた方に吹いておりますぞ」
ふわりと夜風が吹き、クサクサ王子の髪に挿した草が、月光の中で小さく花を咲かせた。
そのとき、部屋のドアをノックする音が……
立っていたのは、ニャーカス団のオレオ団長だった。
「街でちょっと、不穏な噂を耳にしましたのニャ……」
なんでも、毛の無い猫がコソコソ歩いていたとか……それどころか、着ぐるみ脱いだらツルツルだったという目撃情報も…
「もしや……あの王国のスパイではないでしょうな?」
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夜風がざわめく町外れの路地裏。
月の光が、ひんやりとした石畳に照り返る。人気のない場所に、静かに佇むふたつの影。
「……フサフサどもが騒ぎ始めたポコ」
「ふふ……彼らが気付いたところで、もう遅いツルン」
風がひと吹き。
フサフサ猫耳フードの下からチラとのぞいたのは、光を反射するほど、ピカリとツルンとした……
毛一本生えていない、二人の頭。
「計画ツルツル第0段階……開始だポコ」
「この世界から、毛を消し去るんだ……すべての、毛をなァ!!!」
──不気味な笑いが、夜のフサフサ王国に響いた。