【第8話】モフ試練!猫神様は気まぐれ
ゆっくりと、まるで時がほどけるように──
祠の扉が、フサフサァ……と音を立てて開いていく。
そこから漏れ出すのは、柔らかな金の光。空気がふわりと震え、まるで星の粒が舞い込んでくるようだった。
「これは……夢かにゃ……?」
カリカリ姫がつぶやいた瞬間、扉の向こうに広がる別の世界が、三人を包み込んだ。
そこは、浮遊する毛玉の雲が天井をおおい、地には光る草が一面に生えそろい、
踏むたびに淡い音が鳴る。
「チリン……チリン……」
まるで古い星の記憶。
花はみんな目を閉じて寝ており、風が吹くたびに「すぅすぅ……」と寝息を立てる。
そのとき、空気がそっと揺らぎ──
光の粒が舞い上がる。
やがて、その粒が形をとりはじめた。
小さな羽のようなものを背に、しなやかな身体にふわ毛をまとった、毛の精霊たちが音もなく降り立つ。
「歓迎するよ、選ばれしフサフサたち……」
声は響かず、心にそのまま流れ込んでくる。その姿は決してはっきりとは見えない。ただ、やさしい光と、しっぽのような風だけがそこにあった。
モコも、カリカリ姫も、クサクサ王子も、言葉を失っていた。
この場所の空気は、どこか懐かしく、
遠い夢の中で何度も見た、始まりの森に似ていた。
「これは……しっぽの精霊界……?」
クサクサ王子の声が震える。
精霊たちは、ふわりと空に浮かびながら、祠の中心、揺れる尾の柱のまわりに、ゆっくりと円を描いて集まりはじめた。
羽のような毛がふわりふわりと宙を舞い──
やがて、ひとりの精霊が、囁くように歌いはじめた。
♫〜
にゃんだぶる称号を知ってるか〜〜い?
ふたつ重ねた名こそが、選ばれししっぽの証だよ……
モコモコも フサフサも
カリカリも クサクサも
ふさふさふるえる神の響き〜〜♪
(周りの精霊たちがハモる)
にゃ〜〜ん、にゃにゃにゃん♪
にゃんだぶる〜〜♪
その名は運命に毛並みを重ね
魂にふわりと根を張る〜〜♪
君の名は? それは誰のため?
心に毛の、使命はあるか〜〜い?
ふたつ重なる名こそが、選ばれし者の、
にゃんだぶるッ!!
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歌が終わった瞬間、空気がピタリと静まり返り、精霊たちの声がしんと心に響く。
「にゃんだぶる称号とは、魂の奥深くで重なる、ふたつの同じ響き。
それはただの愛称じゃない――
毛と心を結ぶ、真なる名前」
「称号を持つ者は、精霊の加護を受け、神の祠に名を刻むことができるの…」
「でもその名を持つには……試練を乗り越えねば、ならないのよ……」
祠の空間がふっと暗くなった。
空気が光の粒になってきらめき、三人の足元からふんわりと毛の渦が立ち上がる。
「さあ、魂の名をためす時――
試練の間へ……!」
そう告げられた瞬間、三人は虹色の光へと吸い込まれ、気がつけば、見知らぬ迷宮の入口に立っていた。
入り口にはくたびれた札がぶら下がっており、こう記されている。
《迷宮・にゃんにゃんロード》
~猫神様に会いたくば、今日のご機嫌に合う献上品を捧げよ~
ヒント:とっても気まぐれです
「今日の…って、え、毎回違うの⁉︎」
カリカリ姫が、ややキレ気味にマントをバサァッ。
「……試されてるんだ、僕らの猫センスが!」
モコは、しっぽをピンと張り、キラリと目を光らせる。
「ま、まぁ……何か役に立ちそうなもの、適当に拾ってみようか……!」
クサクサ王子がおずおずと、迷宮の扉を押し開けた。
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迷宮に入った瞬間、空気が甘くねっとりと変わる。前方に広がるは、神秘的な光が差し込む小さな泉──
泉の水面がきらめくたび、ふわりと、あの禁断の香りが立ちのぼる。
「……ちゅーるの匂い、するよね?絶対これ、ちゅーるじゃん……!」
カリカリ姫の目がとろけていく。
かつおぶし香る甘みと、深い旨味──
それは、猫の理性を溶かす禁断の罠。
そう、その名も《ちゅーるの泉》
カリカリ姫は今にも飛び込みそうな勢いで、泉を見ている!
「ダメだよ、きっと底なしだ!」
モコはとっさにしっぽで姫を引き寄せる。危ない危ない。
と思いきや、隣でクサクサ王子の首飾りが、ピョンッと飛んで泉の中へ落ちてしまった!
「ああっ!僕の宝物がぁぁっ!!」
すると水面がキラリと光り、静寂の中から突然──
\ ゴボボボボ……! /
泉の中心が渦を巻き、女神、登場。
上半身は神秘的、下半身はちゅーるのパッケージがひらひらしたドレスをまとい、おでこには金色の肉球スタンプ。
手にはちゅーるを一本ずつ持っている。
女神(透き通るような美しい声で)
「あなたが落としたのは、金のちゅーるですか?それとも特売のちゅーるですか?」
一同、沈黙。
「……いや、そもそも落としたのは首飾りで……」
「ってか、特売のって冷蔵庫の奥にあるやつじゃん…」
女神は微笑み、2本のちゅーるを泉にそっと戻す。
女神
「正直な心、しかと見届けました」
すると泉から、王子の首飾り+なぜか金のちゅーるが1本、おまけで出てきた!
献上品①:棚ぼたでゲット金のちゅーる
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次の部屋には、無数の紙袋と段ボールが並んでいた。
「なんて魅惑的な光景……」
モコが目を細め、箱の縁に前足をかける。
“深さ・材質・ぴったり感”
──猫心くすぐる三要素を極めし罠。
そう、ここは《空き箱の間》
一度足を踏み入れると、しばらく出られない魔の領域。
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから……」
カリカリ姫はすぽっと入り、モコも無言でミチミチミチッと箱に体を押し込み、クサクサ王子も「草の匂いがこもってそう…」とカサカサ紙袋に潜り込む。
……30分経過。
「……あかん、このままでは永住する」
なんとか全員で箱の誘惑から脱出!
献上品②:箱の中で見つけたプチプチ
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「なんかあっちに草原が見える……!」
突然クサクサ王子の草センサーが発動。
三人が次に向かった先は、迷宮の一角にぽっかりと開けた柔らかな日差しに包まれた草原。
風にそよぐ猫じゃらし(リアル植物ver.)が一面にフサフサ生い茂っている。
「なんか……ここ、癒されるね」
「いやいや……思わず手が出ちゃうやつ……コレ……」
チョイチョイ……チョイチョイ……
その瞬間!
\ カサカサッ! ピロロピピッ! /
どこからともなく現れたネズミ型の自走おもちゃが、ピョコピョコ走り出した!
高速で逃げたかと思えば、突然停止、時には隠れてチラ見せしてきたり、猫の狩猟本能を煽る演出MAX。
「えっ、にゃにあれ!? 追うぞッ!!」
モコはしっぽをふんわり立て、お尻フリフリしながら、じゃらしに飛びかかる。
「まてまてまてまてまてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
カリカリ姫は高速やんのかステップで、猫パンチを繰り出す。
「草っ!この草〜〜〜たまんにゃいッ!!」(ごろーんごろーん)
クサクサ王子は寝転がって、猫じゃらしの草たちと話し始めた。時々、走ってくるネズミに「ひゃっ!」と飛び上がりながら……
時間の感覚が消えるほど、夢中で遊び続ける3人……
ふと、カリカリ姫が正気を取り戻す。
「はっ!私たち、何してたっけ?」
クサクサ王子
「……はぁ、楽しかった……でも……目的……忘れてる気がする……」
やっとのことで気を取り直したそのとき、草原の中央にある一本の猫じゃらしが、ひときわ光を放つ。
それは──
羽が虹色に輝く、伝説のじゃらし、天翔けるふわ毛!!
「これは……!軽く触れただけで肉球が震える……っ!」
「これもう絶対、献上品じゃん!明らかに格が違うって!」
献上品③:虹色スーパー猫じゃらし
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次の通路は静かに風が通り抜ける……が、足元には不穏な白いロール。
「……トイレットペーパーだ!」
クサクサ王子の耳がピクッ!
一歩踏み出した瞬間──
ズザザザッ!!!
「わーーー!!何この雪崩!? 紙っ!?全部紙っ!!」
しかもトイレットペーパーだけじゃない。丸めたティッシュが山盛りになったゴミ箱まで!
ここは、紙まみれホリックゾーン
《とぐろの間》
「ふぐっ!!ティッシュ玉とか、たまらん!」
「やばい、テンション上がってきた自分がいる……ッ!」
転がる、転がる。
うず高く積まれた紙山のてっぺんから、どさっと落ちた先には……
ふわっと柔らかい、香りつきトイレットペーパーの芯が。
「……これ……やたらいい匂いする……ミント?」
クサクサ王子は、そっと芯を懐へ入れた。
献上品④:アロマ芯(ちょっと噛み跡あり)
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そろそろぐったり疲れてきた頃、迷宮の奥、ぽっかりと日差しの差す場所を発見。ふわふわクッションが敷き詰められ、辺りにはポカポカした空気が漂う。
癒しMAXの空間《ひだまりの間》
「……ここは……」
三人同時に吸い寄せられ、ころり。
「これはもうダメだ。起きられん……」
モコの声が遠のいていく。
「土の匂い……草が育つ……」
王子が土に話しかけ始める。
「カリカリ……あとで食べよ……」
姫は寝言を言いながら肉球をぴくぴく。
……1時間後。
目が覚めると、クッションの下からくったくたの靴下が、ぴょこっと顔を出していた。
「く、くっさ!!! でも……なんか、これ……やばいほど安心する香り……」
三人は顔を見合わせ、そっと靴下を大事にくるんだ。
献上品⑤:熟成しきったくっさい靴下
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三人は、ついに迷宮の最深部、荘厳な雰囲気の広間に辿り着いた。
道中、様々な猫トラップに翻弄されながらも、いくつかの「猫神に献上できそうな品」を手に入れていた。
・棚ぼたでゲット金のちゅーる
・箱の中で見つけたプチプチ
・虹色スーパー猫じゃらし
・アロマ芯(ちょっと噛み跡あり)
・熟成しきったくっさい靴下
広間の中央には、小さな献上台がひとつ。そこに捧げられるのは、たったひとつの品だけ。
カリカリ姫
「どうする? どれが一番ご機嫌取れそうかな……」
クサクサ王子
「……正解なんて無いんだよね。今日の猫神の気分に合うかどうか……」
モコ(そわそわ)
「あの靴下は……個人的に、持って帰りたいな……バレちゃうかな」
三人は悩んだ末、虹色スーパー猫じゃらしを、そっと献上台に置いた。
広間が静まり返る。
空気がピンと張り詰めたその時――
\ ズゥウウウン…… /
天井から降り注ぐ光の柱。
神々しい声が響く。
「我は千代不変の猫神・モフリネス──
時空を越え、もふを守護する唯一の存在なり。そなたらが選びし献上の品、しかと見届けようぞ──」
「ふむ、虹色スーパー猫じゃらし……
あいにく今日は、気分ではないな。」
三人は、失敗した!と顔を見合わせた。
「その昔……フサフサなるしっぽの泉と、この迷宮を造りしは、ワシじゃ。」
声だけが響き渡る。姿は見えない。
──昔々、まだこの世界に王国も猫団もなく、猫たちは星を旅していた時代。
ワシはいつも一匹で旅をしておったが、一度だけ、そばに寄り添ってくれた猫が、おってな……
寒い夜には寄り添い、うまくいかない日はしっぽでなぐさめてくれた。
ワシは気づいたのじゃ——
己の力よりも、そのぬくもりのほうが大切だと……
しかし、ある日そいつは、他の猫たちを助けるために、命を落としてしまった。ワシは怒り、悲しみ、星々を泣かせるほど泣いた……
その涙が落ちた場所に、泉が生まれたのじゃ。ワシはそこに、ただ悲しみだけでなく——あいつとの記憶を、残した……
あの泉は、大切なものを本当に大切に思ったしっぽにだけ反応する。ただ強いだけのしっぽにも、立派な名を持つしっぽにも、決して反応せんからのぅ。覚えておくがよい。
心から誰かを想い、守ろうとするしっぽにだけ……
…………
猫神の声が、ぴたと止まった。
…………
「……ん?」
\ くん……くんくん…… /
猫神の気配が、広間を這うように近づいてくる気がした。
影が、少しずつ大きくなる。
そしてモコの前に……
\ ドドォォン!! /
突如、猫神、本体登場。
巨大な毛玉のような姿に、王冠をかぶったフサフサの長毛猫!
くん……くんくん……
「やはり、ここじゃ……」
その目はキラキラ、口元はニッコリ。
いや、これもう完全にバレてる。
モコは冷や汗たら〜り。
「おぬし、持っておるな?」
もうダメだ。
モコはマントの下から、くっさい靴下をそろりと出した。
「ぬふふ……この匂い……昔ワシが洗濯カゴから盗み出したソレに似ておる……♡」
スリスリスリスリごろごろごろごろ!
「ぬ〜〜〜!たまらんッ!!!」
床に寝転がり、猛烈な猫キック☆
ふいにこっちを向いた猫神は、口が開いていた。
「フレーメン出ちゃってるッ!!!」
三人、完全にドン引き。
カリカリ姫
「え……無理……なんか思ってた神と違うんだけど……」
クサクサ王子「むしろ今のが本性……」
モコ「泉の話、全然入ってこない……」
しばらくたわむれたのち、猫神はハッ!と我に返る。
一瞬で空気が戻る。
ピンクのエフェクト消滅。
そして、整ったしぐさで立ち直った。
「さて──話を戻そう」
急に、神妙な顔で語り出す。
「そなたらの献上、実に見事なり。まさに今日の気分にぴったりフィットじゃ……これは“真の気遣い”に他ならぬ。これをもって、次なる試練への扉が開かれる……」
神のしっぽがふわりと揺れ、空間に三つの毛玉が浮かぶ。
光を放つ金の巻毛
静かに揺れる銀の柔毛
命の鼓動を感じさせる虹色の霊毛
「これらは、かつて世界を守った伝説の“三種の神毛”。それぞれ、異なる場所に封印されておる」
金の巻毛は、灼熱の砂漠に住まう“寝ぐせ族”のもとに──
銀の柔毛は、幻の雲海に住む“寝落ち仙人”のしっぽに──
虹色の霊毛は、夢と現実の境に咲く“猫じゃらしの塔”に──
そして神は、三人の頭に一本ずつ、自身の毛を“ぴとっ”と貼りつけた。
「そなたらは、真なるもふを継ぐ者。フサフサ王国に伝わる三種の神毛を手に入れ、再びここへ戻るのじゃ……」
「詳しいことは、年寄り猫に聞くが良い。ワシはちと、忙しいもんでな……」
猫神はそう言うと、くっさい靴下を胸に抱えて、うっとりした顔で広間の奥へ、スゥーッと消えていった。
その足取りは……妙にスキップ気味で、時折「ぐふっ」と怪しい声が聞こえた。
しばらくすると、天井からふわりと金色の光が降り注ぎ、三人を包み込み、遠くから猫神の声が。
「そうじゃ、おぬしたちに、にゃんだぶる称号を授けよう……」
三つのしっぽがゆっくり揺れた。
「カリカリ姫、クサクサ王子、
そして……」
「モコよ、おぬしには……なにか特別な力を感じるのじゃ……」
モコのしっぽが、ファサッと揺れる。
「……モコモコ伯爵フサフサ卿じゃ!
二つ重なる名が、ふたつ。これは極めて特別なことであるぞ……」
モコはなんだか、体の奥からじわじわと、不思議な力がみなぎってくるような気がした。
心なしか、しっぽのフサフサも1.5倍増しぐらいフッサフサになったような……
新たな運命がふさふさと舞い降りた瞬間だった。
彼らは、しっぽを立ててゆっくりと歩き出した。
──次なる冒険、“三種の神毛”を巡る旅へ。