【第13話】波間にきらめくモフの奇跡
ごう……ごう……と、門の奥から潮風のような音が響いてきた。
次の瞬間、巨大な殻が地を擦り、ゆっくりと姿を現す。
「……ヤ、ヤドカリぃいい!?」
ツルポコ兄弟が半泣きで叫ぶ。
現れたのは──
バカでかいヤドカリ……
殻は黄金の巻毛のようにクルクルと渦を巻き、目玉のような突起がギョロリと動く。
「ひぃぃっ、化け物!?」
「にゃ……待て。あれは……」
モコモコ伯爵が目を細める。
巨大な殻の奥から、ゆっくりと黄色い瞳が光った。
「……誰が、化け物だと?」
声と同時に、殻がガタリと揺れ、でっかいクリームパンのような前足が殻の下からズシンと地を踏んだ。
──そう、ヤドカリではない。
巨大なヤドカリの殻を背負った、不気味で荘厳な門番猫、カラニャンダー。
ツルポコ兄弟は腰を抜かし、カリカリ姫は毛を逆立て、クサクサ王子は「か、殻に苔が……立派だ……!」と訳の分からない感想を漏らした。
「ここはヤドカリの殻が象徴たるクリンクリン王国である!通るには“殻認証”が必要ニャ!」
カラニャンダーは、殻をギシギシ鳴らしながら仁王立ちしている。
と、そのとき。
「……あぁ、殻の硬さなど虚ろなる時の牢獄。真の象徴とは、螺旋を描くソフトクリームの詩──甘美な渦こそ、永遠の美なのです……」
ひょっこり現れた、ソフトクリーム帽をかぶった美しい猫、ソワリーヌ嬢。
(帽子のソフトがちょっと溶けて、ぽたぽた落ちる…)
「おぃっ!溶けてんぞ!!」
カラニャンダー、即ツッコミ。
さらに……
「ちょっとぉ! 巻貝って、だっさ!クリンクリンといえば、ソフトクリームに決まってんじゃん!!」
同じくソフトクリーム帽をちょこんと被ったギャル猫、クルクル姫まで登場。
すぐさま巻貝派の門番猫と、ソフトクリーム派の二人がにらみ合う。
「グルグル対決だにゃー!」
「ぐるぐるパラダイスよぉ!」
モコモコ伯爵、カリカリ姫、クサクサ王子は、顔を見合わせ溜息をついた。
「この国、絶対めんどくさい……」
ふと──視線が客人たちに注がれる。
クリンクリンの三人
「…………」
カラニャンダー「なっ……なんとっ!」
ソワリーヌ嬢「まぁぁあっ!!」
クルクル姫「あり得なーーい!!!」
三匹そろって叫ぶ。
「「「なんですの!その──貧相な真っ直ぐヘアーはぁぁ!!」」」
ソワリーヌ嬢は胸に手をあてて、涙ぐみながら詩人ぶる。
「嗚呼……天の悪戯かしら……本来なら誰もが生まれながらにクリンクリンと渦を抱くはず……。それを奪われた毛は、砂漠の枯れ木……風に打たれる哀しき糸……」
カラニャンダーも殻をドン!と鳴らして同意。
「そうニャ!クリンクリンの国で、真っ直ぐな毛など不幸の象徴!まるで……乾いたラーメンの麺のようではないか」
カリカリ姫「乾麺扱いすなァ!!」
するとクルクル姫が、
「ハァ〜〜〜ッ!あんたたち、なんでそんなストレートのままで平気なわけぇ?!」
カリカリ姫
「はぁ?!あんたこそ、クリクリすぎて爆発してんじゃん!」
クルクル姫
「爆発じゃなくて!これは“神の螺旋”よ!」
カリカリ姫
「私たちのフサフサは“神の神毛”ですけどォ!」
二人は、バチバチに睨み合う。
クサクサ王子(小声で)
「ねぇモコ……目をつぶって聞いてるとさ……どっちが喋ってるのか全然わからないね……」
モコモコ伯爵(困惑しながら)
「ふむ……私も今、区別がつかぬ……」
ふとモコモコ伯爵が眉をひそめる。
「……ん? ツルポコ兄弟が見当たらぬではないか!」
一同は、はっとした。
「え!? さっきまで横にいたのに!」
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その頃、ツルポコ兄弟は……
海辺で波とキャッキャ遊んでいた。
「つるる〜ん♪ 」
「ぽこぽこ〜ん♪」
と歌いながら砂浜を転がり……
砂で山を作り……波と追いかけっこを楽しんでいた。
そのとき──
ざざーーーん!
大きな波とともに、砂浜に一頭のイルカが打ち上げられた。
「イルカさん!?」
兄弟は目を丸くし、すぐに駆け寄る。
弱ったイルカは苦しそうに鳴いた。
「早く海に戻してあげるポコ!」
ツルポコ兄弟は必死に水をかけ、押し戻そうとする。
そこへ伯爵や姫たちも駆けつけ、みんなで力を合わせて波に向かって押す。
「もう少しだ! がんばれ!」
「いっけぇぇええ!」
次の瞬間、波がぐぐっとイルカの体を持ち上げ、
──シュバァン!
無事に海へ戻すことが出来た。
イルカは振り返り、命の恩人に感謝の声を響かせた。
「キュイィィィ……ありがとう!」
そして、毛の無いツルポコ兄弟を、少し切なそうに見つめると……
「……あなたたちに、プレゼント」
そう言ってイルカが尾びれを振ると、海からキラキラしたクリンクリンのカツラが浮かび上がった。
兄弟の頭にそっと乗せられると、風になびくフサフサの巻き毛。
「わぁ〜〜! に、似合ってるぅ!」
「ぼくら、フサフサ〜!!」
イルカは満足そうに笑い、海へと泳ぎ去っていった。
浜辺には、しばし感動の静寂──
そして伯爵がぽつりとつぶやいた。
「ふむ……世界に、またひとつフサフサが増えたのだな」
しかし、感動の余韻は束の間だった。
海の彼方から──
ドンッ……ドンッ……と、不気味な波音が響く。
波を割って現れたのは、漆黒の塊。渦を巻きながら、ザザァァン!と、ゆっくり持ち上がる。
ぐるぐるの巻貝でも、ソフトクリームでもない。
それは、誰も望んでいない忌まわしきシルエット──
「ウ◯コォォォォォ?!」
ソワリーヌ嬢が絶叫し、カラニャンダーが甲羅ごとひっくり返った。
その名は、禁忌の巨獣ウンゴロス。
轟音は瞬く間に王国内へ響き渡り、海辺へ民衆がどどどっと集まってきた。
「ひぃぃぃっ!あれは伝説の……!」
「クリンクリンが汚されるぅぅぅ!」
「海が、黒々と巻き込まれていくぞ」
巻毛をなびかせ、若者から老人まで、国中の民が砂浜を埋め尽くす。
しかし、誰もがただ震えるばかりだった。
次の瞬間だった──
巨獣の禍々しい触手がツルポコ兄弟へと伸び、
「うわぁぁあああ!!」
「た、助けてぇぇええ!」
二人はあっけなく捕らえられ、海の闇へと引きずり込まれていった。
「ツルちゃぁぁんーーー!!!
ポコちゃぁぁんーーー!!!」
カリカリ姫の絶叫がこだまする。
浜辺に残された仲間たちは、ただ呆然とその光景を見送るしかなかった。
兄弟を飲み込んだウンゴロスは、深海へと姿を消す……。
王国民たちは泣き崩れた。
「あぁ、なんてこと……」
「なんであの子たちが……」
絶望の声が浜辺に広がる。
──しかし、そのとき。
パァァァァッ!!!
海の底から、まばゆい光が突き上げた。青く、白く、きらめく光。
「な、なんだ……?」
皆が目を見開く中、光の中から二つの影が、ゆっくり浮かび上がる。
──フサフサのカツラを必死で押さえるツルポコ兄弟の姿。
「ぼ、ぼくら……」
「フサフサパワーで……」
「助かったポコぉぉぉ!!」
兄弟は泳げない体で必死にジタバタしている。
仲間たちは一斉に海へ飛び込み、手を伸ばす。
「つかまれ!」
「今度は絶対に離さないから!!」
ザバーン!!
みんなの腕に抱きかかえられ、ツルポコ兄弟は無事に浜へと引き上げられた。
──その姿は、濡れた体に光り輝くフサフサのカツラ、まるで神秘の加護を受けたかのよう。
「生きて……生きて帰ってきてくれた……!」
カリカリ姫は涙をこぼし、兄弟を強く抱きしめた。
民衆も歓声を上げる。
「奇跡だ!」
「フサフサが、二人を守ったのだ!」
モコモコ伯爵は静かに空を仰ぎ、低くつぶやいた。
「……ふむ。あの毛には、どうやら我らの知らぬ“力”が眠っているようだな」
海はまるで何事も無かったかのように、波の音だけが静かに響いていた。
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その夜──
ツルポコ兄弟の奇跡的な生還を祝うように、浜辺には無数の灯りがともり、王国中の民が集まっていた。
「こんな大勢が集まる時こそ……カリカリ屋の出番でしょぉぉ!」
カリカリ姫はキラキラと目を輝かせ、屋台の暖簾をばさっと広げる。
だが、この日はいつもと違った。
三人で知恵を出し合い──
出来上がったのは、虹色に輝く巻貝を器にしたスペシャルスイーツ。
中にはふんわりソフトクリームがくるりと巻かれ、クサクサ王子セレクトの食べられる花がチョコン♪
仕上げはカリカリ姫特製の、ラメラメ星屑カリカリ!虹色に光る粉砂糖みたいな粒で、食べると「パチパチ☆」星の音がする。
「なにこれ……! かわいすぎるっ!」
「しかも、めっちゃおいしい〜!!」
民たちは歓声を上げ、夢中でそのスイーツを頬張った。
そして巻貝派のカラニャンダーと、ソフトクリーム派のソワリーヌ嬢も顔を見合わせていた。
「……認めざるを得ないな。ソフトクリームのクルクル、悪くない」
「巻貝の器も美しいですわ! 一緒にすれば、こんなに素敵になるなんて!」
二人は固く握手し、和解の笑みを交わした。
クルクル姫とカリカリ姫は、
「映え〜〜〜☆♫」
ギャルピースで写真を撮っている。
「ふふん、やっぱりアタシが考えたスイーツ、最強ね!」
「いやいや、花の彩りあってこそだと思うな」
「ふむ、我がセレクト、器の気品も忘れるでないぞ」
三人の言い合いに、民たちは大笑い。
こうして、長き争いは、笑いと甘さに変わり──
クリンクリン王国の夜は、ハッピーエンドの虹色に包まれていった。
夜空には祝福のように星が瞬き、民たちの笑い声と歓声が、波音に溶けて広がっていった。




