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【第10話】モフリズムとツルリズム

街は今日もどこかのんびりしていた。

けれど──三人の目には、すべてが怪しく見えていた。


「あの猫、しっぽがツルッとしておる……スパイの可能性があるな」


モコモコ伯爵が毛並みチェック用の金色ルーペを構え、しゅばっと飛び出す。


「はっ!あの帽子……なんかツルツルの香りがする!」


カリカリ姫は魔法の杖の先にカリカリを掲げ、鼻をひくつかせている。


「待って、二人とも……あれ、ただの洗濯物だよ……」


クサクサ王子がぽそりと冷静なツッコミを入れるも、二人とも全く耳を貸していない。


こうして三人の「徹底捜索!街中ツルツルンパトロール大作戦」が、始まったのだった──!



「絶対スパイ見つけてやるんだから!」

と燃えるカリカリ姫。


カリカリ香ばしスペシャルを入れた袋を持って、人気のない路地裏へ。


「匂いで釣れない猫なんて、猫じゃないからね〜☆」


袋をカサカサ鳴らして、しばらく様子を見ていると……


物陰から「んぐ……ぐぅ……クッ…!」と必死に耐える声が……


「今の声、絶対カリカリに抗ってる!怪しいッ!」

姫が杖をかざすと、カリカリがポーンと飛び出す。

「これは仕様ねッ!」(笑)


「にゃッ!!!」

微かな悲鳴とともに飛び出した、小さなツルッとした猫影は、瞬く間に、塀の向こうへ走り去った。



その頃、クサクサ王子は広場の地面にぺたんと座り込み、道端の雑草に優しく語りかけていた。


「今日、ちょっとツルッとしたの通った?……うん、うん……なるほど……!」


「王子が……雑草と情報交換してる……」通りすがりの民が、二度見して行った。


「見かけたって!?どっちの方向!?……えっ、ツルッとしてて……やたらフサフサに見とれてた!?」


王子が指さした塀の陰には、ツルツルの猫耳がちらっとのぞいていた……



モコは広場の中心でしっぽをふわりと構えた。


「フサフサなる風よ、すべての嘘を吹き払え……モコ・ストリーム、発動!」


ぶわわああぁぁぁっ!!と起きる毛並みなびく風!

民たちの帽子やふわ毛が舞う中──

古びた倉庫の屋根の上に、ツルッと反射する光がピカーッ!!


やたらツルツルした猫のような影は、飛ばされた帽子を追うように、屋根からピョンッ!と飛び降りた。


------


三人がそれぞれの手がかりを持ち寄ると、すべての目撃情報が一点に集中。


「やっぱり、裏路地の古い倉庫に……

何かがいる!」

「カリカリトラップを仕掛けて待ち伏せするよッ☆」

「植物で出入り口塞いでおこう……!」


すべての準備が整い、張りつめた空気が満ちる。


すると──


ガタガタ……ギィイイ……


使われなくなった倉庫の扉が、開いた。


そこから現れたのは、二つのツルリとした、小さなシルエット。


「……とうとう見つけちまったか、フサフサども」

細くつり上がった目に、意味深な笑み。腕を組んで仁王立ちしている。


「オレたちゃツルツル王国が誇る、最強にして最無毛の双子……!」


「ツルンポコ&ポコツルンッ!!」


ツルンポコがバサッとマントを翻す。


「この世界のフサフサなど、我らがツルツルの理想には及ばぬポコ!ツルッとしたこの肌こそ、美の極致ッッ!!」


「そのうちお前たちも気づくんだ……毛なんて、甘えだってことになッ!!」


と、ドヤ顔で言ったあと、ポコツルンの背後でコソッともふもふの毛束を触っているツルンポコ。

(しかも頬がちょっと赤い)


モコモコ伯爵が目を細めて言う。

「ふふぅ〜ん……そちらのお主、フサフサの感触に目覚め始めておるな?」


「な、なっ!?そんなこと……あるわけ……ポコッ!?」

ツルンポコは、急にあたふた。


「と、とにかくッ!!我らの計画はすでに始まっているポコ!この倉庫の裏に、もうすぐ秘密のツルツル結界が……あっ!それ言っちゃダメだポコ!」


「…………」


「…………」


「ちょ、ちょっと作戦会議だツルン」

「う、うん。完全にやっちゃったポコ」


──何だか悪ぶってるけど、どこか抜けていて憎めない双子。


三人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべたのだった──。



「ど、どうするポコ!?ごまかせる?」

「む、むりツルン……」

「失敗したら……叱られるポコ……」

「お尻ペンペンじゃ済まないツルン……」



すべて丸聞こえの作戦会議が5分ほど続き──


双子はもじもじと、戻ってきた。


「あのっ……その……えーと……」

「降参ポコ!」

「でも……せっかくだから、モコモコしっぽ……すこしだけ……さわ……さわ……」


「え?なに?」


「さわらせてくださいポコォォォォ!!!」(土下座)



「うむ……おぬしたち、なかなか良きフサセンスをお持ちだな」

モコモコ伯爵は、しっぽをふわりと差し出した。


「ただし、五秒限定であるぞ!」


ツルンポコ&ポコツルンは涙をぬぐい、そっとそっと、神に触れるかのように……


「……い、いきます……ポコ……」

「し、しっぽ……モフモフ……」



もふっ……さわさわ……

すりすり……むぎゅっ……



──その瞬間


「うにゃ?にゃぉ~~~ん♫」

モコモコ伯爵、お目目とろ〜ん!!


しっぽがピンッと震えたかと思うと、次の瞬間には──


ごろんっ(横倒し)

ぐるんっ(でんぐり返し)

ごろごろごろごろごろごろごろ……!!



「ちょ、モコ……!?急に甘々スイッチON!?」

カリカリ姫がびっくりして杖を落とす。



「ふふっ……きゃはっ……もっとさわ……にゃぉぉお……ごろごろごろごろ……」

モコモコ伯爵は、完全にただの猫モードに突入し、双子の頭をフミフミしている。


「こ、これは……まさか……フサフサの封印、解いてしまったツルン……!?」

「なんか……見てはいけないものを、見てしまった気がするポコ……」


「……伯爵になっても、やっぱりモコは可愛いな」

クサクサ王子が呟いた。

どこかで草の葉がしおれる音が聞こえた気がした……



そして念願のしっぽにモフモフして満足した双子たちは、ぽつりぽつりと語り始めたのである──



「……あのね、カリカリ姫、クサクサ王子、モコモコ伯爵さま……実はボクたち……」


「ツルツル王国から送られたスパイ……

なんだポコ……」


「ツルツル王国、ちょっと大変なことになってる。今じゃ毛という毛を禁じる禁断の国ツルン……」


「誰もが頭からつま先まで……スベスベであることが美徳とされてるポコ……それが『ツルリズム』……」



「ツルリズム〜〜〜?!?!」

三人は思わず叫んだ。



「はじめはただの美容思想だったツルン……でも今は……」


「魔導師スベール・ツルリーヌ様が暴走して……『世界からすべての毛を消す!』って……」


「特に……フサフサを許さないって……言ってるポコ……!!」



「こわっ!?思想ガチガチじゃん!」

カリカリ姫はドン引きしつつ、自分のフサフサしっぽをぎゅっと抱きしめた。



「だからボクたち、命令されてスパイやってたツルン……でもね……」


「ここに来て……ボクたち、フサフサに目覚めちゃったポコ!!」


「ふさっ……てしたあの感触……ふわっていうあの重み……」


「これが……

これこそが、真理だったツルン……!」



クサクサ王子

「つまり君たちは、スパイとして来たけど……フサ堕ちしたわけだね」


「だからお願いポコ!!」


「スベール様を止めてほしいポコ!このままだと……世界から本当に毛が消えてしまうポコ……!」


そして双子は、一冊の使い古したノートをおもむろに差し出した。


「これ……見てほしいツルン」


極秘観察ノートと書かれたそれには、


「しっぽフサ密度の変化グラフ」

「しっぽ揺れ方別、気分推測チャート」

「朝日フサ浴実験」

「理想のフサ環境とは?」

「フサによる外交的影響力」

「毛の発育に良いごはんリスト」

「夢で見たフサ神様との対話メモ」

など、涙ぐましい努力がびっしり。



「実に研究熱心であるな……」

「マメすぎて尊敬する……!!」

「これ王国の研究員になれるよ……」


とりあえず三人は、双子たちを城に連れて行くことにした。


------



城に戻った一行は、モコモコ伯爵の書斎にて、双子たちをバルフォン老とシロ姐に紹介した。


「なんとも可愛らしいスパイですな」

バルフォン老は目を細め、ゆっくりと語り始めた。


「……今より数百年前、ツルツル王国とフサフサ王国は、決して敵対するものではございませんでした」


「むしろ――“美の共存”を目指す盟友であったのです」



------


かつての盟友との「ツルモフ条約」


それは──


ツルとは美しき滑らかさ、均整の形、艶やかな肌


フサとは温もりと揺らぎ、自然のままの命の流れ



「互いの美学を称え、民は毛の民と無毛の民として手を取り合っておりました」


「しかし、ひとつの事件が、それを引き裂いたのです──」



──その名も「毛災モウさい


「ある年、神毛の力を悪用しようとした一部のフサ過激派が、“暴フサ爆発”を引き起こしました。それが原因で、ツルツル王の祖が“フサ恐怖症”に……」


王は「一切の毛を排す」ことを宣言し、滑らかなるツルリズムを国家理念に。


フサフサ王国はそれに対抗して「ゆらぎの法(毛は正義)」を制定。


そして……交流の門は、閉ざされた。



「以来、両国の民は互いを忌避し、言葉を交わすこともなくなりました……」



そして、今──



「モコモコ伯爵、姫、王子……

今、ツルポコのお二人がその壁を越えようとしております。この子たちを、我が王国の一員として、迎えるべき時と存じます。」


ツルンポコ&ポコツルンの顔がパァッと明るくなる。


モコモコ伯爵の命令により、双子に新たな役職が与えられることとなった。


「ツルンポコ&ポコツルンよ」


「汝らを、フサフサ王国・フサ研究員 初級補(仮)として任命する。各地の毛文化を調査せよ!」


「しょ、しょきゅうほ?って何ポコ!?食べられるポコ!?」


「なお、我がしっぽ半径1メートル以内、許可なく立ち入ることを禁ずる!!」



浮かれていた双子たちが急に黙り込み、会議室に静けさが戻る。



「──で?」


「ツルツル王国から我が国を守るには、どうしたらいいわけ?」

シロ姐が口を開いた。


重たい沈黙……


全員の視線が、バルフォン老に集まる。


「……その問い、ついに来ましたな」

老猫はそっと眼鏡を上げた。


「ツルツル王国が掲げるツルリズム(滑らか至上主義)は、もはや個々の趣味ではなく、“全世界から毛を排除する”という思想に進化してしまいました。」


ざわっ……


「その背後にいるのが……魔導師・スベール・ツルリーヌ。かつては毛と共に生きた者──だが、何かが彼女を変えてしまった……」


「我々が彼女に対抗できる唯一の手段……それは……」


(少し間を置いて──)


「三種の神毛、でございます。」


皆は、ごくりと唾を飲んだ。


光を放つ金の巻毛

静かに揺れる銀の柔毛

命の鼓動を感じる虹色の霊毛


「これらは、かつて世界を危機から救った、神の毛。あまりに強大な力ゆえに、それぞれ三つの地に封印されたと言われております。」


カリ…カリ…

(双子が熱心にメモを取る)


「この三つが揃ったとき、“この世に大いなる変化が起こる”……そう記された古文書があったのですが……

肝心な部分の記述だけが、見当たらないのですよ……」


シロ姐が静かに口を開く。

「つまり、何が起きるかも分からない神毛を巡って、ツルツル王国は本気で動き出しているのね……?」


バルフォン老は頷き、言葉を続ける。

「その通り。ツルリズムを極めし者たちは、神毛の力を封じようとしている。

“毛の力”そのものを、完全に葬り去るために……」



そして、重々しい声で締めくくる。


「さぁ、選ばれし者たち──

三種の神毛を巡る旅が、ついに始まるのです。フサフサの運命は、貴方たちのしっぽに懸かっております!」



フサフサ王国一行は、謎に満ちたその神毛を求めて、いま第一歩を踏み出す!


モットーはひとつ──

"モフこそ正義!!"


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