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第三話 魔王と山岡の復讐計画

食事もひと段落し、電子レンジという術具への興奮も一息ついた頃だった。

我はふと、思い出したように問いかけた。


「ところで──山岡よ。なぜ、あのような書を使って、悪魔を呼び出そうとした?」


山岡は、湯飲みを手にしながらぴたりと動きを止めた。


「ああ、それ、ですか……」


口調は軽く装っていたが、表情はどこか曇っていた。


「別に、大したことじゃないですけど。……大学で、ちょっと、嫌なことがあっただけです」

「“ちょっと”の範囲かどうかは我が判断しよう。詳しく話せ」

「……うわ、マジで聞く感じですか。いや、ほんと大した話じゃ──」

「山岡」

「……はい」


我がじっと目を見つめると、山岡は観念したように溜息を吐いた。


「──授業中に机の中にゴミ詰められたり、スマホのロック勝手に解除されて変なツイートされたり。やってない課題を押しつけられたり」

「ふむ」

「講義資料、俺のだけ回ってこないとか。グループワークで“お前いらないから”って外されたり」

「なるほど」

「でも、教授は“学生同士で解決して”って言うし、証拠なんて残ってないし。そいつら、表では優等生ヅラしてるんですよ。俺だけが悪者になって終わる」


そこまで言うと、山岡は黙った。笑うでも怒るでもなく、ただ、ぽつりと続けた。


「だから……誰かにぎゃふんって言わせて欲しかったんですよ。俺じゃ、どうせ言い返せないし」


しばらく、部屋に沈黙が満ちた。

やがて──


「なるほど。つまり、理由は“復讐”か」

「はい」


山岡は、視線を逸らさなかった。

恐る恐るでも、堂々でもない。

苦しい中で、言葉を絞り出した顔だった。

我は、考える。

力を持つ者の責務とは、何か。

世界を渡る魔術師として、どう振る舞うべきか。

──だが、難しく考えるよりも、もっと単純な答えがあった。


「まぁ、一時とはいえ、この部屋に住まわせてもらうわけだしな」

「え?」

「我も地球という世界を観察したい。そなたの“社会”とやらに干渉することも、良き材料になる」

「ま、まさか……」


我はひとつ、軽く肩をすくめるように言った。


「手伝ってやる。我なりの方法で、そいつらを“ぎゃふん”と言わせてやろう」

「マジで!?本気で!?え、ラグナさんってそんなタイプでしたっけ!?」

「ただし。破壊・洗脳・強制変異は禁止とする」

「えっ、そこまで考えてたんですか!?」

「地球の法律もあるだろうしな。あまり派手にやると、我まで追われるかもしれん。やるなら、知的かつ魔術的に、だ」

「……なんか、ワクワクしてきました」

「ふむ。では次に、そいつらの名前と特徴を聞かせてもらおうか」


我が言うと、山岡は少し間を置いて、指を折りながら答え始めた。


「えーっと、メインで嫌がらせしてくるのが三人。まず、吉川。表向きは爽やか系で女子人気高め。でも裏では陰口と仕込みがプロ級のやつです」

「性格は陰湿。だが仮面を被っている、か」

「次に藤井。こいつは声がでかい。体育会系ノリで全部冗談だって言えば許されると思ってるタイプ。場を支配するのが上手いというか……」

「群れの牽引役、ということだな」

「最後に──鶴見。こいつは何もしてこないけど、全部見てて、笑ってる。止めもしない。たぶん一番性格が悪いです」

「ふむ。傍観者にして加担者……我が一番嫌う類だ」


山岡の声色は淡々としていたが、そこに込められた感情は明確だった。怒りでも、悲しみでもなく、ただ――確かに、“決意”だった。


「よろしい。では、順に打つ手を考えるとしよう」


我は山岡の机の端にあったノートとペンを手に取ると、魔力を指先に通して魔術的に“走らせ”た。ノートに浮かび上がる魔法陣のような線。それは我が思考を可視化する簡易術式だ。


「まず、吉川。虚像を武器にしている者は、虚像の崩壊に最も弱い」

「つまり?」

「“自分が他人にどう見られているか”を過剰に気にする者には、“人の目”を操る魔術が効く。幻視操作の術式で、限定された人間にだけ“地味に間抜けな幻像”を見せる。」

「例えばどんな?」

「そうだな……、髪型が毎回ズレて見える、ズボンが後ろ前に見える、ボタンが閉まってないように見える、とかだな」

「うわ……地味に効きそう……」

「次。藤井。騒がしき者には、沈黙が何よりの苦痛」

「どうするんですか?」

「魔術干渉によって“発した言葉が、内容とズレて届く”ようにする」

「……え?」

「例えば、“おはよう”と言ったつもりが“おひさしぶりです”と聞こえる。“了解”が“わかりません”になる」

「それ、会話崩壊するやつじゃないですか……」

「本来の意思と違う言葉が伝わり、人との関係に微細な不和が生まれる。騒げば騒ぐほど、信頼を失う。実に静かな処罰だ」

「三人目、鶴見。動かぬ者には、動かすがよい」

「……でも、あいつは別に何もしてないんですよ?ただ笑って見てるだけで」

「それが問題だ。何もしないまま、他人の不幸を笑う者には──“その笑みが、どう見えるか”を変えてやる」

「……どういう意味ですか?」

「ほんの少しだけ、彼の“笑顔”に反応する魔術をかける。周囲の人間にとって、彼の笑いが“嘲笑”や“見下し”のように感じられるようになるのだ」

「……うわ、それ……一気に嫌われるやつじゃないですか」

「そう。彼自身は何も変わらぬが、周囲の目が変わる。結果として、彼は“感じの悪い奴”と認識されていく」

「やっぱりラグナさんって怖……いや、やっぱ好きですそのセンス」


こうして、ラグナ=ミルハートによる復讐計画は静かに始動した。

魔法は使いよう。

派手に暴れずとも、人の心を揺らす程度の介入は容易い。


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