ジョブとスキル1
「イチノセ君、着替えてから隣の部屋においで。ご飯を準備しているから」
そう告げると女神は部屋を出て行った。
「実感が湧かないな。これから異世界に行くのか」
と呟きながら、イチノセは用意されていた服に着替えた。
ドアを開くと美味しそうなクリーミーな匂いが漂っていた。
「なんだか懐かしいな」
そう思いながらイチノセは隣の部屋のドアを叩き開けた。
「とても似合っているわ」
暖炉の横にテーブルが並べられており、女神はその向かい側に座っていた。
「冷めないうちに食べてしまいましょう」
そういうと女神は慣れた手つきで鍋からシチューを掬い、サラダの盛り合わせを準備した。
イチノセは席につき、スプーンをとって頬張った。
「美味しい!」
「焦らないで。誰も取ったりはしないわ。パンもあるわよ」
イチノセは勧められたパンを手に取り千切ってはシチューにつけて食べた。
「ごちそうさま!なんだかすごく懐かしい味だったような気がする」
「あら、そう」
少し間をおいて女神がやさしく答えた。
「それじゃ今から転移してもらう異世界についての説明をするわ、ついてきて」
そういうとイチノセは女神につれられ廊下に出た。歩きながら女神は説明を続ける。
「イチノセ君が転移する異世界は、さっきも言った通り、おおかたRPGに登場するような剣と魔法の世界という認識で問題ないわ。でも、いくつかは違うところがあるからよく聞いてね」
女神の言葉をまとめると以下の通りだ。
これからイチノセが転移する世界は偉大なる世界と称され、文明発達レベルは中世のヨーロッパという認識でほぼ問題ない。ただ、魔法など科学とは異なる原理が存在するため独自の生態系や技術体系を成している。
また、魔法は古代ギリシャの哲学「四元素(火・水・土・風)」に倣った分類がされておらず、攻撃・破壊系の魔法は「黒魔術」、回復およびその他の魔法を「白魔術」と呼んでいる。
「なんで魔法をもっと分類しないの?てっきり属性を選びなさいって言われるかと」
と首を傾げながら聞いてきたイチノセに対し女神は少し困惑しながら答えた。
「むしろ複雑に入り混じる魔法をその外見だけで火魔法や水魔法って決めつける方が非常識なのよね」
「なるほど、それだと異世界アニメとかよりもハリー・ポッターの世界観に近いのか」
それから異世界定番のジョブとスキルも当然ながら存在する。
ジョブは大まかに戦闘型、魔術型、神聖型、文化型に分けることができ、また細分化されていく。例えば、戦闘型のジョブは、基本職である戦士を筆頭に、特に剣に才能がある剣士や槍の使いに長ける槍使い、モンスター退治を請け負う討伐者などが存在する。
「何か気になるジョブはある?」
「これって一度選んだら変えることはできないんですか?」
「特別のことがない限りジョブを変えるのは不可能よ」
イチノセは興味津々に質問を続けた。
「例えば、魔術型の魔法使いを選んだら、一生魔法使いのままなの?剣士になることはできないの?」
「そんなことはないわ。ジョブが魔法使いの人が剣の鍛錬を重ねれば魔剣士になることだって可能よ。ジョブは職業というよりも生まれ持つ才能と理解した方がいいわ。ジョブが魔法使いであれば魔法使いになる才能に恵まれているということ。でも、必ずしも魔法使いにならないとだめみたいなことはないわ。それはその人自身の選択だわ」
「偉大なる世界」に生まれ育つ人々は生まれた瞬間、自分の意思とは無関係に何かしらのジョブが割り当てられる。これはギルドに行けば簡単にわかるそうだ。
「なるほど、これを僕は事前に選ぶことができるんだね」
「本来ならば叶わないことだわ。でも今回だけ特別よ。あと、各型には最上位のジョブが存在するの。この四つから選ぶことをお勧めするわ」
戦闘型=狂戦士
魔術型=賢者
神聖型=錬金術師
文化型=大富豪
「この四つのジョブって何が違うの?」
「簡単にいうと、狂戦士は戦争屋よ。その戦闘能力は軽く見積もっても
師団に匹敵するわ。ライフルやミサイルがない中世だから、本当に一騎当千も夢じゃないの。賢者は預言者でもあるわ。その影響力は絶大で、もし賢者が発見されたら、各国は取り込もうと躍起になるでしょうね。錬金術師は、神との対話を許された者よ。ちょっとイメージと違うかしら。大富豪はその名前の通り億万長者。いつの時代も金銭の力は絶大だわ」
「僕が持っている錬金術師とのイメージがだいぶ違うな、なぜ錬金術師は神との対話を許されたの?」
「それは神と対話するためには神器が必要で、錬金術師でないと創造することすらできないからよ。どれにするかもう決めた?」
「もう少し考えさせてよ」
「もちろんよ。続けてスキルについて説明するわ」